「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第100話 経営者の意思や想いの有無次第

現場へ丸投げせず、あらゆることに経営者の意思を反映させていますか?

 

「中間製品をあえて持っているのですが、こうしたやり方に問題はあるのでしょうか?」

先だって、ある団体主催の生産管理セミナーに登壇して、休憩時間にいただいた質問です。

 

セミナーを受講しにいらしていた20代と思われる若手の方でした。

生産性向上活動初手の具体策として「ムダの除去」について説明をした後です。

 

現場のムダを探す着眼点、「ヒトは動、モノは静」という話をしました。

工程分析4項目のうち価値を生み出すのはひとつしかありません。

他の3項目は価値を生まないです。

 

その中のひとつが”停滞”であり、モノが停滞している典型例として在庫があげられます。

原材料、仕掛品、完成品の3大在庫は眠っているお金の代表例です。

 

したがって、率先して最小化、できればゼロを目指したいものとして扱い、ムダなものとして除去します。

こうした話をした後の質問でした。

 

「なぜ、あえて中間製品を持っているのですか?」との伊藤の問いに対して、その方は「多品種に対応しながら、納期を短くするため。」という趣旨のことを説明して下さいました。

「それはいい取り組みですね。そうした在庫ならドンドン持つべきです。ただし、最小化する工夫は継続したいですね。」との伊藤の説明に納得されて席へ戻っていきました。

 

その若手の方に伝えたかったのは、在庫として中間製品を持つことに、経営者の意思や意図、想いが込められているのかどうかということです。

意図を持って管理されている在庫であるなら、あるいは、目的があって持っている在庫であるなら、それ自体がダメだということはありません。

 

ダメなのは、成り行きの在庫を放置していること、管理できていない在庫があること、在庫の存在自体を認識していないこと。

無管理状態の在庫が悪なのです。

運転資金の肥大化を招きます。

 

先の若手質問者の企業では、納入リードタイムを短縮して、短納期で顧客満足度を高めようとする経営者の狙いが明確でした。

つまり、その企業の在庫には経営者の意思や想いが込められているのです。

 

経営者の意図が込められていることに問題があろうはずがありません。

経営者の想いや夢を実現させるためにやっているからです。

経営者の意思の有無が問題なのです。

 

 

 

先日、ご支援している企業の経営者と話をしているとき、品質のことが話題となりました。

昨年、三菱マテリアル、東レなどの大手素材メーカーで発覚したデータ改ざん問題についてです。

 

「昨年、大手メーカーで品質問題が発生しましたが、”トクサイ”にならないよう、ウチも品質管理のやり方を考え直さないといけませんね。」とは経営者の言葉。

昨年のデータ改ざん問題では「トクサイ」がしばしば取り上げられました。

 

不正問題と一緒に取り上げられたので、「トクサイ」がよくないことであると誤解した経営者も少なからずいらっしゃったかもしれません。

しかし、特採(トクサイ)は、それ自体、”悪”ではないのです。

 

特採(トクサイ)はISO9001でも規定されている処置のひとつです。

品質マネジメントシステムでは、不適合製品の管理(8.3)のところで特採について言及しています。

 

下記が不適合製品を処理する手段のひとつとしての特採の説明です。

「b)当該の権限をもつ者、及び該当する場合に顧客が、特別採用によって、その使用、リリース、または合格と判断することを正式に許可する。」

 

ちなみに「特別採用」は用語および定義の欄で次のように説明されています。

「規定要求事項に適合していない製品の使用又はリリースを認めること。」

 

つまり、特別採用のルールを明確にして、経営者が責任を持って適切に処理する分には問題ありません。

ルールが不明確な中で、客観的な判断もなく、経営者、経営者層が現場に任せきりで、無管理状態のもと、「トクサイ」を頻発させ、常態化させていたことが問題なのです。

 

そこには、経営者の意思や想いが、みじんも感じられません。

経営者の意思が込められていない「トクサイ」は悪です。

 

 

 

工場経営の本質は他人を通じて経営者の想いを実現させることにあります。

他人を通じている以上、他人に動いてもらわないとなりません。

他人が動きたいと思わせる環境整備が欠かせないのです。

 

他人が動きたいと思わせるには、あらゆることに経営者の意思を込める必要があります。

意思を込めることによって経営者の想いが”叫び”となって現場へ届くからです。

先の事例で取り上げた”在庫”や”トクサイ”もしかりです。

 

短納期を実現させて顧客満足を高め、顧客から選ばれるメーカーになりたい、だからあえて中間製品という在庫を持つのだ。

キャッシュへの悪影響はあるけれど、それ以上に顧客満足度を高めたいのだ!!という経営者の想いが現場へ届くでしょう。

 

また、”トクサイ”でも同じです。

品質にこだわりたいウチとしては、本当は出荷はしたくない。

ただ、顧客も認めてくれたことなので、このロットは規定を外れているが出荷するぞ。

納期に関して顧客へは絶対に迷惑をかけられないから。

今回は仕方がないが、今一度、手順を見直しして、再発しないように手を打たねば!!という経営者の想いが伝わるのではないでしょうか。

 

大手素材メーカーでは、”トクサイ”に経営者の意思が込められていなかったため、それが常態化し、挙句の果てにはデータ改ざんです。

経営者の意思がなければ、現場は安きに流れてしまいます。

拠り所がなければそうなるのです。

 

 

 

昨今、働き方改革で、残業時間の長短が議論されていますが、問題の本質は時間の長短ではないと、伊藤は考えています。

本質は経営者の意思の有無にあります。

その残業に、経営者の意思や意図、想いが込められているかどうかということです。

 

申し訳ないが、今が踏ん張りどころ、少々長時間の仕事を強いてしまうが、なんとか全員で乗り越えて欲しい!とのメッセージが現場に届けば残業の負荷も軽減されるのではないでしょうか。

 

経営者の想いが込められているならば、現場は頑張ります。

経営者は状況を気にかけてくれているのです。

経営者はそれをなんとかしようとしていることも、現場は知っています。

 

全員で頑張っているので、現場は一体感を感じるほどです。

肉体的な辛さはチームワークで乗り切れる・・・・、スポーツを通じてこうしたことを体験している人も多いのではないでしょうか?

 

それが、仕事ぶりに全く関心を寄せられず、一方的に仕事を押し付けられる現場であるなら話は全く違うでしょう。

残業は1時間であっても苦痛となります。

 

経者の意思のない残業であり、見通しもなく、やらされ感たっぷりだからです。

残業はその時間の長さよりも、置かれた状況、特に経営者の意思や意図、想いの有無次第で負荷の大小が決まるのです。

こうした状況の延長に不幸な出来事が起こるのではないでしょうか。

 

 

 

工場経営の本質は他人に動いてもらうことです。

したがって、他人が動きたくなる仕掛けが欠かせません。

 

あらゆることに経営者の意思や意図、想いを込めることは、現場が動きたくなる仕掛けをしていることに他ならないのです。

現場への丸投げとは真逆の状況です。

 

現場は、経営者に気にかけてもらい、評価してもらいたいと考えています。

経営者の意思や意図、想いを具体的に知ったら、それを実現させようと頑張るのです。

 

経営者の意思が、やる気を引き出す3つのポイントのひとつ「大きな目的」を現場に感じさせます。

現場は仕事に取り組む必然性や大義名分を感じ、それがチームの役に立ちたいという気持ちへつながるのです。

 

全ては経営者の意思の有無次第です。

 

現場へ丸投げせず、経営者の意思や意図、想いを込めてチェックできる仕事のやり方を構築しませんか?