「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第122話 現場の2重構造

現場の2重構造をコントロールしていますか?

 

「4:6くらいのバランスに変わってきました。」

中堅製造メーカー、現場リーダーの言葉です。企業業績は決して悪くはありません。しかしながら、経営者は現場に生産性を高める余地がまだまだあると考えていました。

今後、収益力を高める施策を現場へ打つにあたり、基礎体力がなければやりきれないとの危機感も持っています。

現場の仕事のやり方を変えたいとのご相談を受けてのご指導です。生産の流れをつくることに焦点を当てて仕事のやり方を変えます。

 

多くの中小現場でみられることですが、その企業の現場でも工程間の連携力が十分に発揮されているとは言い難い状況でした。

自工程のことには責任を持っているのですが、自分の役割が終わると、他工程の仕事ぶりにはほとんど興味を示さないという雰囲気です。

経営者だけでなく現場全体を管理する現場リーダーも、このままの雰囲気で仕事を続けていても生産性は高まらないとウスウス感じていました。

ただし、各工程のキーパーソンたちは、そのことを全く問題とは考えていなかったわけです。問題を問題と認識しないこと、あるいは問題を問題と認識できていないことが問題の本質とも言えます。

連携力が不足している、というより連携力不足を問題視しないキーパーソン達の考え方に焦点を当てる必要がありました。

 

セミナーやご指導で「現場の2重構造」をお伝えしていますが、これは、仕事のやり方を変える着眼点を示してくれています。

現場は、顧客視点と作業者視点という2つの視点、観点、考え方が交錯しているところです。どちらの視点が良いとか悪いということではありません。

超短納期、マスカスタマイゼーションなど、付加価値額を積み上げるのに必要なことを踏まえると両者のバランスが欠かせなくなってきています。

 

先の現場リーダーの言葉はそのバランスを語ったものです。顧客視点と作業者視点の比率は、当初、ゼロ:10、あるいは1:9程度でした。

ここ半年の取り組みで4:6程度にまでに改善されたと現場リーダーは感じています。

各工程間のコミュニケーションが密になり、成果物として、顧客から届く突発案件などへ迅速に対応できる体制が整備されてきました。クレームにつながる不適合品の流出も減りつつあります。

 

 

 

 

 

「現場の2重構造」とは顧客視点と作業者視点という2つの視点が交錯していることを言っています。

そして、中小現場ならではの戦略を考えるとき、経営者の頭に浮かべていただきたいのは現場の状態、両者のバランスです。

そのバランスが現場の思考回路決めます。現場は、経営者の想いを実現させるのに沿った思考回路を持っているでしょうか?

両者のバランスを取りながら、中小現場の強みとなっている柔軟性、機動性、小回り性を強化したいのです。

 

多くの現場では作業者視点が強いです。これは製造業の成り立ちから考えて自然なことでもあります。昔、フォード生産方式に代表される少品種大量生産が製造現場の目指す姿でした。

仕事を分業して、単純化し、単能工として効率を高めて儲けを出すのが少品種大量生産ですから、現場での仕事を役割分担別、工程別と考えるのは当然です。

 

皆さんの現場でも○○課とか〇〇係という工程や業務単位で職場を構成していることが多いのではないでしょうか?

そうした組織ですから、まず足元の仕事をしっかりやらなくてはと考えるのが普通です。

自工程の生産性、効率を優先する雰囲気に至るわけですが、こうした自工程の事情を優先させた考え方が作業者視点です。

 

大ロットの大量生産ではこの考え方で十分です、というより、まずはこの視点で、仕事をしっかりとこなさなければ、大ロットの流れが止まってします。

大量生産の現場であるなら、作業者視点の強調は必ずしも間違っていません。

そして、このときの仕事のやり方の柱は「仕事のやり方を変えないこと」にあります。似た仕様の製品を繰り返し造るわけですから、管理者の視点も「変えないこと」へ至るでしょう。

 

一方、現在は多品種少量、変種変量生産の時代です。超短納期、マスカスタマイゼーション、多様な顧客の我がままについていけるメーカーが顧客に選ばれる時代です。

特急、突発は当たり前、変更も日常茶飯事。気が付けば市場はこのように変化しているのですから、従来の仕事のやり方ではストレスがたまるのではないでしょうか?

そこで、求められるのが顧客視点というわけです。作業者視点が悪いと言っているわけではありません。

まずは、自工程がしっかりすることです。ただ、それだけでは、これから、儲かるモノづくりがやりにくくなるということに現場も気付く必要があります。

 

 

 

 

 

多品種少量、変種変量生産の時代では、モノづくりの役割分担を、工程別、業務別ではなく、製品別、顧客別で設定した方が、生産の流れがスムーズです。

仕事のやり方も変化に対応して、柔軟に変えることが求められます。管理者の視点は「変えること」です。

 

ですから、これからの儲かる工場経営では、顧客視点と作業者視点のバランスをコントロールできる現場リーダーのリーダーシップ、特に顧客視点の現場へ定着させられる現場リーダーのリーダーシップが必要です。

現場の仕事のやり方を変える旗振り役は欠かせません。チームリーダーです。

先の企業では、経営者だけでなく、現場リーダーも顧客視点に欠けていることを問題視していました。ですから、着手は早かったです。これが、もし、現場リーダーも問題はないと思い込んでいる状況だったら進め方は違っていました。

 

 

 

 

 

この現場では、経営者の意向を受けて、早速、現場リーダーと現場へ働きかけるプログラムを考え、実行に移しました。

まずは、顧客視点の土台となる組織的に仕事をすることの良さを実感してもらいます。また、仕事のやりがいを感じるために、仕事の成果と会社への貢献との紐づけも大切です。

現場は仕事の成果がどのようにお金にむずびつくのか知りたがっています。

 

少数精鋭で筋肉質の現場を作ろうとするなら、現場力を図る指標とするべきは売上高よりも付加価値額生産性です。

豊かな成長のためには”規模”はずせない観点ですが、それよりも重視すべきは”生産性”や”効率”です。それも、儲けに直結する数値が現場を動かします。

ですから、自社製品を生産ラインの流れを律速する主因で分類すること、製品毎を付加価値額(限界利益、スループット)で整理することからです。

そのために仕事の成果を計測して見える化します。そうした仕掛けを作りつつ、現場の一体化を促すのです。

 

取り組みの方針はこうしたものですが、その具体策は現場独自です。現場の成り立ちや現状を踏まえます。

先の現場でも、いくつも仕掛けを考えましたが、その中で興味深い方法も取り入れました。BYOD(Bring Your Own Device)です。

ルールや場合によってはセキュリティーへの配慮が必要ですが、私的デバイスを業務用途で利用することです。今や、現場では若手も含めて多くの作業者はスマホを持っています。

それを互いの連絡ツールに活用することも考えています。Line電話の活用です。ご存知のようにLine電話はインターネント回線を使って音声データを送っています。

会話自体は無料です。音声のクリア度には若干難はありますが、仕事の報連相程度でしたら、まったく問題ありません。

現場から営業担当者やスタッフへ連絡取りたい場合、人を探しながら移動する手間を考えるとお手軽です。

少なからずのコストを各個人に負担してもらいながらということにもなりますが、納得感があれば、おもしろがって現場はそれを意思伝達のツールに使い始めたりしています。

 

こうした仕事のやり方で工程間の壁を取り払い、一体化を促して組織で仕事をする流れを作ることもできます。それが顧客視点の土台となるのです。

顧客視点と作業者視点のバランスをコントロールできる状況に至ります。現場リーダーがリーダーシップを発揮するにも、こうした土台がなければ、やりにくいでしょう。

 

 

 

 

 

現場には従来から、作業者視点はあります。そこへ顧客視点を導入するのです。多くの現場で取り組むべき課題であると考えています。

この顧客視点抜きに、自工程の事情を優先する思考回路しか持たない現場では儲かる工場経営を実践することはできません。

結局、儲かる工場経営の要諦は”顧客に選ばれる製品”を”効率良く”つくることにあるわけで、それは徹底して顧客に耳を傾けることでしか実現できないことです。

顧客視点がお金を生み出します。そのことに現場を気が付かせることが重要です。

顧客視点と従業員視点。従業員視点の重要さも変わりませんが、それ以上に、顧客視点の重要度が高まっています。

顧客視点と従業員視点のバランスを考え、そのために仕事のやり方を変えるのです。企業の本質は「変化対応業」、「変化創出業」と表現できることを思い出して下さい。

現場に顧客視点を持たせる仕組みをつくりませんか?