「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第126話 付加価値額を積み上げる作業

自動設備の稼働状況を見守っている作業者はいませんか?

 

「現場の作業者は設備の稼働ボタンを押した後も、じっとその設備を見ているんです。」

ある中規模製造企業、経営者の言葉です。現場には複数の設備が並んでいます。全て自動運転の設備です。したがって、作業者の仕事の流れは下記となります。

原材料をセットしてから設備を稼働させ、自動運転が完了したら製品を取り外し、そして、次の原材料をセットする・・・。

これの繰り返しです。自動運転の設備が並んでいる現場では、概ねこのようなものではないでしょうか?

 

さて、この作業の流れで気になるところがあります。それは稼働ボタンを押してから、自動運転が完了するまでの間での作業者の動作です。

設備は加工の真っ最中であり、原材料に価値を加えているわけですが、一方、その間、作業者は何をしているのか・・・・。

 

 

 

 

 

経営者が望む利益の最大化は、付加価値額の最大化と言い換えられます。

従業員の給料がその大部分を占めている固定費は、いわば将来へ向けた投資のようなもので削減の対象ではありません。

したがって、利益を最大化するには、人と設備を生かして固定費の効率を高め、ただひたすら付加価値額を積み上げるのみです。

 

顧客へ届けたい「情報」を原材料へ転写することが”加工”であり、この行為のみが付加価値額を積み上げるのに貢献します。

工程分析で分類される加工以外の他の3つ、すなわち停滞、運搬、検査は原則、価値を生み出さないということはご存じのとおりです。

 

ですから、現場では”加工”に焦点を当て、それ以外の行為を可能な限り除去します。いわゆるムダ取りです。

生産3要素、原材料、人、設備をいかに”加工”に関わらせるか、ここが経営者の腕の見せ所となります。

 

現場に並んでいる設備には、自動機と手動機があります。

自動機は、文字通り、稼働後、人手を煩わせることなく加工を完了させる設備です。稼働ボタンが押されて設備が稼働したら、”加工”をその設備に任せられます。

自動運転中、付加価値額を積み上げている担い手は設備です。作業者がその設備を監視していても、付加価値額の積み上げに、直接に貢献はしていません。

先の経営者は付加価値額生産性を高めるため、作業のやり方を変えようとしています。

 

 

 

 

 

生産活動へのかかわり方の違いから、作業は、直接作業と間接作業の2つに分類できます。

製品の工程分析で工程経路図を作成しますが、その経路図に描かれた加工、運搬、停滞、検査の実施に関わる作業が直接作業です。

さらに、この直接作業は主体作業と段取り作業に分類されます。そして、このうち付加価値額を積み上げるのに貢献している作業は原則、前者です。

 

先の経営者はこの主体作業に言及していました。

「ボタンを押して設備が動き始めたら、空いた手を使って、別のことをやるように指導しようと考えています。」

主体作業に焦点を当てて、作業内容を検証するところからです。その現場では、もっと多くの付加価値額に貢献できる作業のやり方を考えています。

 

直接作業=主体作業+段取り作業ですから、作業者が付加価値額を積み上げるのに貢献する度合いを高めたかったら、課題は作業全体に占める主体作業時間を増やすことです。

ただし、ここで、明らかにしておかなければならないことがあります。それは、主体作業の定義です。

具体的には、付加価値額を積み上げるのに貢献する作業を明らかにして、経営者と現場の判断基準を揃えることです。

 

稼働を開始するボタンを押してから、その設備が稼働している状況を見ている作業は付加価値額を積み上げるのに寄与しているのか?それともしていないのか?

先の企業の経営者は、ムダ取りの対象として”見る”作業は除去し、価値を生み出す別の作業をするべきだと考えました。

 

一方、稼働を開始するボタンを押してから、その設備の稼働状況を見守っていた作業者にも言い分があるでしょう。

その設備には癖があって、稼働途中でなんらかの異音がすると、それは治工具の破損の前兆であり、それを耳でしっかりとらえようとしていたのかもしれません。

 

そこを手抜きして、治工具の破損を起こしてしまったら、稼働率低下で機会損失によるマイナスは避けられません。その作業者にとって”見守る作業”は、付加価値額を積み上げるのに貢献する作業なのです。

 

 

 

 

 

主体作業に厳密な定義はありません。経営者の考え方ひとつです。

付加価値額の積み上げに貢献する作業とは何かを明らかにしていない現場では、価値観の相違によって経営者と現場がすれ違ってしまいます。

一体化が儲かる工場経営の土台である中小現場でこの事態は避けなければなりません。

 

汎用旋盤のように、人が直接、刃具のオペレーションをする設備では、設備の稼働と主体作業が一致しています。

人が直接、「加工」に関与する設備での主体作業は議論の余地は少なく、明らかである場合が多いです。

そうした設備では稼働率が高まれば、それに伴って自然と主体作業が増えます。

人馬一体です。

 

ここに、設備の自動化が加わると少々話は複雑になります。設備の稼働率が高まっても、それが直接に主体作業とつながっているわけではないからです。

”設備を見守る作業者”は、付加価値額を積み上げるのに寄与しているのか?それとも、寄与していないのか?経営者が明確な判断基準を示さなければなりません。判断基準の明示は経営者の仕事です。

作業者の働きぶりはどれだけ付加価値額を積み上げるのに貢献したか、いわゆる主体作業をどれだけこなしたかで判断できます。主体作業率です。

 

現場には主体作業に焦点を当てて作業をするよう指導する必要があります。

段取り作業は大切な仕事ですが、価値を生み出しません。だから作業短縮の対象なのです。シングル段取りという考え方はそこから来ています。

動きを働きに変えなければなりません。経営資源に制約がある中小現場ならなおさらではないでしょうか?

 

 

 

 

 

手でオペレーションする汎用旋盤のような人馬一体型の設備では主体作業率は設備稼働率と連動しています。ですから作業者は設備にへばりついて一生けん目に動かすことに知恵を絞るべきです。

ただ、自動機の場合は必ずしも主体作業率と設備稼働率は連動していません。自動機と人の動きの分析は通常、連合作業分析で行いますが、ここでの論点は人の動きが付加価値額の積み上げに貢献しているかどうかです。

 

特に自動機が稼働している時間帯で作業者は何をやっているかに焦点を当てます。設備と作業者の両者で並行して価値を生み出している状況が理想的であるのは言うまでもありません。そこで、経営者にはやることがあります。価値を生み出す主体作業の定義です。

設備を見守ることが付加価値額の積み上げに貢献しているか否かを現場へ意思表示します。付加価値額を積み上げる作業に焦点を当てて仕事をする現場が儲かることは言うまでもないことです。

 

成長する現場は、付加価値額を積み上げる作業に焦点を当てて儲かる。

現状維持にとどまり、今の仕事のやり方でいいと思い込んでいる現場は、やりたいようにやって失注する。

 

主体作業の定義をする仕組みを作りませんか?