「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第131話 付加価値額を製販一体で共有する

営業部隊と製造現場は判断基準を共有していますか?

「営業の仕事のやり方が担当者ごとに異なるので、日々の生産計画がたびたび混乱します。」

60人規模中小製造企業、現場リーダーの言葉です。その企業も多くの中小製造企業がそうであるように、いわゆる下請け型の事業を展開しています。日々の生産計画を立てる手掛かりは顧客から指定された仕様と納期です。

 

その企業の経営者は業界の「駆け込み寺」を標榜しています。ですから、突発、特急当たり前、小日程計画の変更は日常茶飯事という現場です。

この現場の素晴らしいところは、製造現場を引っ張る工場長、現場リーダー達が、「駆け込み寺」の自覚をしっかり持っていることです。

 

原則、営業からの要望事項は全て受けようという雰囲気があります。そのために、裏技を含め、あらゆる手段を駆使していますが、そういう意味では経営者の想いを実現させようという使命感を持ったプロ集団です。

 

あまりに無理な営業からの要望にはクレームをつけ、衝突することもありますが、それもプロ集団であるが故のこと。

中小製造現場の強みである柔軟性、小回り性、機動性を遺憾なく発揮し、なんとかして「顧客からの要望を日々の生産計画へねじ込もう」としています。

 

経営者の想いが現場の隅々にまで浸透しているか否かは、こうした現場の姿勢に現れるものです。ただ、現場からは今の仕事のやり方でいいだろうか?という疑問も沸いています。

 

 

 

 

 

この企業には3名の営業がいます。各自、自分の営業スタイルを持っているようです。

納期が厳しくても、なんとか顧客の要望に応えてくれという営業担当者。

現場の事情を配慮して、顧客と納期調整しつつ受注を決めてくる営業担当者。

 

営業スタイルに違いはありますが、営業部隊の観点は、とにかく案件を獲得すること、受注件数であり、売上高となっています。

そうした営業部隊の要望に応えるべく、製造現場では滑った、転んだ、ああだ、こうだと、日々、力づくでモノを流しているわけです。

 

これまでは提示された納期をこなすだけの仕事のやり方でしたが、リーダーは生産活動の実績を何ではかるべきだと考えていました。自発性を促し、仕事の水準を高めるためです。

そこで、日々の生産量を設定し、達成できたかどうか見える化して、作業者が達成感を感じられるようにしようとしています。

 

受注情報に基づいて生産計画を立てますから、製造現場と営業部隊と連携が効率の良い生産活動には欠かせません。製造現場と営業部隊との協力関係があって初めて最適な生産量を設定できます。

しかし、現実は必ずしも製販一体とは言い切れず、「駆け込み寺」を標榜するのなら、何かやり方を変えないと現場が疲弊するとも現場リーダーは感じているのです。

先の現場リーダーの言葉は、そうした状況を語っています。

 

 

 

 

 

儲かる工場経営にはお金を生み出す2つの方針があります。利益の最大化と運転資金のスリム化です。中小の製造現場で、焦点を当てるべきは主に前者です。

後者の重要性は言うまでもありませんが、中小の製造現場はもともと少数精鋭でやられています。そうした現場では肌感覚で後者を実践していることが多いです。

 

多くの中小現場が下請け型のビジネスモデルで事業を展開しているという事情もありますが、ムダな棚卸し資産を抱えて資金繰りにアップアップという現場は多くはないでしょう。

原材料、仕掛品、製品の3大在庫は目に見えますから、こうしたムダは見つけやすく、皆さんの現場でも厳しく目を光らせているからです。弊社でも、明らかにムダな棚卸し資産を抱えている現場を目の当たりにすることはまれです。

 

原材料の発注とその消費の時間的なギャップが少々大きいという現場に出会うことはあります。ムダを放置しているというよりは、情報共有化と全体最適化の観点が少々欠けていたということがほとんどです。若干の軌道修正で望ましい仕組みに修正できます。

ですから、弊社のご指導の柱は利益の最大化であり、付加価値額の最大化がその本質です。

セミナーやご指導で詳細をお話していますが、現場で持って欲しい感覚のひとつに「付加価値額を効率よく積み上げる」があります。製販一体で持って欲しい観点です。

 

 

 

 

 

先の企業の現場も同様です。先の現場で扱う製品の生産工程は、十数種類となっており、ハンドリングがしやすい製品、しにくい製品、様々なモノが流動しています。

多くメーカーがそうであるように営業部隊は必ずしも製造プロセスに詳しくはないです。したがって、営業担当者は現場負荷への理解抜きに案件を決めてくることもあります。

 

営業部隊から、手間がかかる上に納期もタイトな受注が届いたとき、現場ではこんなことを考えたくなるはずです。

・日程計画をバタバタしながら調整するだけの意味ある仕事なのか?

・手間に見合った儲けが出る仕事なのか?

 

要するに全体最適化の視点から儲かるのか、儲からないのかです。誰でも気になります。そうしたことがわからないまま、納期のみに追われた仕事のやり方をしていると、顧客視点ではなく、現場事情を優先させた仕事のやり方に流されていくものです。

皆さんの現場はどうでしょうか?使命感を感じる機会がなければ、誰でも報われない頑張りを避けたくなるのは当然のことではないでしょうか?

 

ですから、売上高の積み上げだけでは見えない、儲けの積み上げ、つまり付加価値額の積み上げを見える化したいのです。製品毎の単価だけでなく、製品毎の付加価値額を明らかにすれば見える化できます。

セミナーなどで「目隠してマラソンをやらされたらたまらない」というたとえで説明していますが、製造現場が柔軟性という強みを遺憾なく発揮して、無理とも思われる顧客要求を仕事してこなしていくには状況を知らせ、見える化することが欠かせません。

ですから、「付加価値額を効率よく積み上げる」を見える化します。

 

先の現場でも、現場リーダーがその趣旨を作業者へ説明しながら、見える化の仕組みを順に導入しようと計画したところです。

(1)生産量を積み上げる。

(2)売上高を積み上げる。

(3)付加価値額を積み上げる。

(4)効率よく積み上げる。

これらを見える化します。

 

弊社が重視する付加価値額生産性は(4)です。いわゆる労働生産性と同じ概念です。

こうした数値を営業部隊と製造現場が共有すると、受注した案件の儲けへの貢献度合いが見えてきます。営業部隊と製造現場の間で交わされる会話の質が高まるはずです。

営業部隊と製造現場が付加価値額という判断基準を共有します。

 

 

 

 

 

厚生労働省は先週(15日)、雇用政策研究会を開き、経済成長がない「ゼロ成長」で高齢者や女性の就労が進まない場合、2040年の就業者数は17年に比べて1285万人減るとの推計を示しました。

具体的には、就業者数が2017年6530万人、2040年5245万人。

 

つまり20年後には国内の働き手が20%減る懸念があるというのです。この20年後、20%減というのは人口統計の生産年齢人口(15歳~65歳未満)の推移からも予測されています。

それほど遠くない20年後に直面する国内の働き手減少に我々中小製造現場はしっかり準備をしなければなりません。

 

20年後、国内の働き手が20%減る懸念があることは頭に入れておきましょう。ですから、少子化による人口減に起因する労働力人口減への対応が中小製造企業、喫緊の課題です。

人材を確保するのに、大手よりも厳しい環境に置かれている中小製造企業ならばなおさらです。そこで少数精鋭で筋肉質の現場を目指します。だからこそ付加価値額生産性にこだわりたいのです。

 

 

 

 

 

現在、1か月あたり一人100円の付加価値額を積み上げる50人の職場を仮定します。この職場では全体で1か月に5,000円の付加価値額を積み上げています。

20年後、従業員が20%減ってしまいました。ただし、この職場では生産性向上で1か月あたり一人で積み上げる付加価値額を10%増やしていました。

110円/人/月×40人=4,400円/月

職場全体として積み上げる付加価値額は5,000円→4,400円と減っています。これは残念なことでしょうか?

そうではありませんね。

1か月あたり一人で積み上げる付加価値額は100円→110円へ増えているからです。

ご存知のように、付加価値額は給料の原資ですから、従業員にとっては嬉しいことが待っているかもしれません。

 

これがいわゆる少数精鋭で筋肉質の現場で狙いたいことであり、多くの経営者が願っている状態です。

安価な製品で量を追う新興国と同じ仕事をのやり方をしていては儲かりませんし、従業員も幸せになりません。

 

人員が確保できなければ、確保できる規模に体制をスリム化して、そこで儲かる工場経営を展開すればいいのです。

売上高のみに焦点を当てていては、このような考え方を導けませんし、生産性を指標としないと見えてもきません。

 

製販一体となって、受注活動から付加価値額生産性を高める一気通貫の生産の流れをつくることが求められます。

これからの中小製造現場が目指すのは、獲得案件数でも、売上高でもなく、効率よく付加価値額を積み上げることなのです。これが、ひいては労働生産性の向上につながり、国力アップへ至ります。

先の現場でも、積み上げる仕組みづくりの最初の1歩を踏み出しました。

 

・成長する現場は、製販一体となって「付加価値額を効率よく積み上げる」ことに知恵を絞る。

・現状維持にとどまり、今の仕事のやり方でいいと思い込んでいる現場は、現場事情を優先させた仕事のやり方に知恵を絞る。

 

付加価値額を効率よく積み上げる仕事のやり方を現場へ定着させませんか?