「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第133話 思考回路

現場はどんな思考回路を持っていますか?

 

「工場長の姿を見ていた現場が自分達でやらねばと考えたようです。」

昨年からご指導をしている30人規模、中小現場、スタッフの言葉です。近いうちに実施する大きな設備投資(工場の設備新設)へ向けて、現場改革に着手しました。

生き残りをかけた、経営者が振り絞る渾身の一手となる設備投資です。成功させるには事前の準備が欠かせません。

 

詳細はセミナーやご指導でお話ししておりますが、そうした事前準備のひとつが生産性向上活動であり、特に付加価値額積み上げの見える化です。

継続的な現場活動を核にして、生産性向上を現場で実践します。納期以外の指標に注目、QCDのどれかに焦点を当てて、生産性向上のターゲットを決めるのです。

 

その現場では、検査作業を現場活動の「ヘソ」に据えました。従来から検査作業はあったものの、そのやり方は現場任せになっていたため、「抜け」も多く、不良品がスルーして、クレームに至るケースがたびたびあったことも検査作業に焦点を当てた理由です。

 

そこで、現場のとりまとめ役を担っている工場長が自ら実践して、「検査工程の再構築」に取り掛かったのです。

生産性向上活動のキモは「連動」にあります。検査すべき箇所の明確化、原因工程の特定、検査結果記録の残し方、記録の集計、集計結果の見える化、工程別成績表、工程別勉強会・・・・。あらゆる活動が連動し、生産性を高めるのにつながっていることが必要です。

 

工場長は地道に、しかしながら着実に活動を進めていきました。そして、成果の手ごたえを感じ始めたのを機会に、自らの業務を部下へ引継ぎしようとしていたところ。。。。

 

その工場長が体調を崩し、しばらく出勤できない状態になったとの連絡が経営者から届きました。現時点では、工場長の現場復帰の目途もたち、工場長が戻ってくるまで、現場では業務を補完しながら頑張っているところです。

 

ただ、工場長が復帰するまで、工場長が主導していた生産性向上を目指す「検査工程の再構築」の取り組みは保留にする必要がありそうでした。そこで、工場長が不在となった現場での状況をスタッフに確認したところ、意外な言葉が返ってきたのです。

「リーダーと作業者が手分けしながら、工場長がやっていた業務をなんとか継続していますよ。」

 

現場への業務移管というか、引継ぎは始まったばかりで、やるべきことは、まだ、ほとんど伝えていない状況であり、明確なマニュアル、手順書はありません。

そうした状況にもかかわらず、リーダーを中心にして現場が(不完全にせよ)新たな業務を加えてやり始めたというのです。

 

伊藤もリーダーと事前の打ち合わせをしたわけではありません。それでも、現場は自らやり始めました。そのスタッフに「現場は何をきっかけとして、この新たな仕事に取り組み始めたのですか?」と問わずにはいられませんでした。

それに対するスタッフの答えが最初の言葉です。工場長が不在となった時点で、現場は自分達でやらなければと「自ら」考えました。

 

 

 

 

 

弊社では、経営者とのお話の中で、しばしば「思考回路」という表現を使います。皆さんの現場はどのような思考回路を持っていますか?

思考回路とは、現場の組織風土、文化のことです。具体的には、次のように表現できると考えています。

現場で影響力を持っている人物が、経営者からの言葉に対してどのような反応を示すか。

 

例えば、皆さんが現場の基礎体力を高めようと、5Sを強化しようと考えたと仮定します。その新たな取り組みをリーダーや各工程キーパーソンへ投げかけたときの反応はどんなものですか?

「なるほど、まずはやってみましょう。」と、ノリのいい答えが返ってくる。

あるいは、「納期遵守はできているし、現場に問題はないからやっても意味ありません。」「毎日の仕事が忙しいのに、なぜやる必要があるのですか」と、”現場事情”を優先させた答えが返ってくる。

前者の現場では、挑戦してやってみようと「考える」のが普通になっています。一方、後者の現場では、今の仕事のやり方で十分だと「考える」のが普通になっています。

 

また、皆さんの現場が受注生産体制を敷いていると仮定して、特急、突発の案件が営業部隊より届いたときのリーダーや各工程キーパーソンの反応はどんなものですか?

「う~ん、なんとかねじ込んでこんでみよう。」と、一瞬、表情を曇らせるものの、次の瞬間には現場へ飛び出し、調整業務に取り掛かる。

あるいは、「もう計画が入っているからできない。」と、表情を曇らせると同時に、”現場事情”を優先させた言葉が返ってくる。

前者の現場には、営業部隊の後ろにいる顧客の姿が見えているので、可能な限りなんとかやってみようと「考える」のが普通になっています。一方、後者の現場には、自分たちの姿しか見えていないので、できないと「考える」のが普通になっています。

 

 

 

 

 

これが現場が持っている「思考回路」です。多くの現場の言動に触れて感じるのは、現場の思考回路には大きく2つに分類されるということです。

・顧客視点を優先する思考回路。

・現場事情を優先する思考回路。

 

さて、これらの思考回路はどのように形成されるのでしょう。当然のことですが、経営者の想いや言動です。それ以外はありません。

経営者が現場へ日ごろから、我々はどうあるべきかを繰り返し、繰り返し、繰り返し伝えることで初めて形成されるのが顧客視点の思考回路だからです。

 

そうした想いを伝えず、あらゆることを現場任せにすると、どうなるか。。。。現場は自分たちのことを優先させるでしょう。

人は自分を正当化するために他を批判する性質があることを踏まえると、現場任せにした当然の帰結です。

 

我々はどうあるべきかを繰り返し、現場へ語ることで、そう「考える」ことが普通になるのです。これが、いわゆる組織風土、文化になります。

5Sのひとつ「躾」の結果とも言えるのではないでしょうか?組織風土、文化は意図的につくらないかぎり、経営者の想いとして現場へは浸透しないのです。

 

 

 

 

 

先の現場では、工場長が体調を崩して、いつもいるはずの管理者が急に不在となりました。ある意味、緊急事態ですが、そうした状況に直面して、その現場では、自分達でやる必要があると「考える」のが普通だったのです。

リーダー以下、作業者は「工場長がいないから、やらなくてもいい。」とは考えませんでした。代わりに自分たちがやるぞと普通に「考える」思考回路を持っていたのです。

 

顧客視点を優先する思考回路を持った現場と言えますが、先の経営者や工場長の言動に触れていれば、そうした現場になるであろうことは十分に考えられました。

現場を厳しくもしっかり見守っている経営者とその経営者の意向を踏まえて現場を真剣に誠意を持って引っ張っている工場長です。

顧客のほうを向いて仕事をしようという経営者の想いが現場へ浸透しています。その結果、先のような行動を普通にやれるのです。

 

そうした現場は、自分の仕事をやる上で使命感のようなものを自然と感じているのではないでしょうか?肩ひじ張らずに使命感を発揮させる思考回路を現場に持たせるには、経営者の日ごろの言動しかありません。

繰り返し、繰り返し、繰り返し、想いを語ります。

 

経営者の想いが浸透している現場の思考回路は経営者のそれと連動します。ですから、効率よく付加価値額を積み上げようという経営者の意思が現場へドンドン反映されていくのです。

弊社はこれからも挑戦する経営者の後押しをして参ります。

 

・成長する現場の思考回路は経営者と連動している。

・現状維持にとどまり、今の仕事のやり方でいいと思い込んでいる現場の思考回路は現場事情を優先している。

顧客視点の思考回路を現場へ定着させませんか?