「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第137話 現場の言葉

現場に数値目標を掲げて、現場の”言葉”を引き出していますか?

「最近、工場長が日々の生産量実績で”社長に負けた”とか”前年に勝った”とか言うようになりました。」

生産量の目標値を社長方針に掲げ、現行の生産ラインでどこまで生産量を伸ばせるか挑戦し始めた経営者の言葉です。

 

従来から、目指すべき日々の目標生産量を口頭で現場へ伝えていました。その経営者が業界の実績から判断した目標値です。現場にはこの数値をクリアして欲しいと考えています。

この現場は昼夜連操職場であり、24時間稼働するなかで、いかに生産性を高めるかが経営課題でもありました。ただ、そうした取り組みの必要性を感じつつも、生産に追われ現場改革に着手することができなかったのです。

そこで、いよいよ、経営者が現場改革を決意し、行動し始めました。

 

伺うと、いろいろな夢を描いているとのこと。従業員には良い仕事をしてもらって、幸せになってもらいたい、そうした職場を創りたいと熱く語る経営者です。

熱い想いがあるからこそご相談をいただくわけで、そうした”熱さ”がなければ、そもそも外部の力を借りてまで、現場を豊かにしようと考えないでしょう。先の経営者も熱量の多い、想いを持った経営者です。

 

事業のステージを高めるのに、工場長のリーダーシップを強化することが必要だとその経営者は考えていました。事業のステージアップには新規顧客の開拓が不可欠であり、経営者自身で外へ働きかける機会が増えます。

その分、現場のことを工場長やスタッフへ任せなければいけません。そこで、工場長のリーダーシップの強化と現場リーダー達のベクトル合わせが喫緊の課題であると判断したのです。

そこで、昨年、工場長にはベクトル合わせの活動に汗をかいてもらいました。その結果、現場リーダー達が連携し始め、工場長をトップとした現場力が強化されたのです。そこで、いよいよ、経営者は、社長方針として、生産性向上の具体的な目標値を掲げました。

 

 

 

工場長以下、現場リーダーにとって、掲げられた数値は、日頃から”口頭”で伝えられたものですが、「社長方針」として文字になり、文面化され、社長の想いとして現場へ伝えられたのは初めてです。

現場はこの経営者の想いに反応しました。現場力を発揮して社長が掲げた数値を達成しようという気運が工場に生まれたのです。社長の想いを”文字”として明確に伝えた効果です。

経営者の想いは明確に文字にして、できることなら”数値”にして現場へ訴えることを経営者へお伝えしています。現場のベクトル合わせで醸成された工場長を先頭にしたチーム力、組織力が、経営者が提示した”数値”で一気に活性化されました。”数値”の威力です。

 

 

 

繰り返し申し上げていることですが、儲かる工場経営の要諦は、「顧客に選ばれる製品を効率よく造ること」です。

・顧客に選ばれること

・効率よく造ること

両方揃って、儲かります。ですから、現場の使命は”効率よく造ること”にあります。納期に合わせて造ればイイ、ではないのです。

 

付加価値額を積み上げなければ儲からないという理屈を理解できていれば、納期に合わせて造っていればイイという発想にはなりません。少しでも多くの仕事を現場に”ねじ込めないか”と考えたくなるはずです。

それが実現できて始めて、給料や賞与の原資となる付加価値額を”余分”に積み上げられるので、その結果、何を期待できるかは自明でしょう。

 

こうしたことも知らず、納期通り仕事ができていれば問題はないと思い込んでいる工場長や現場リーダーは論外です。少しでも高い給料を部下のために獲得しようという意欲に欠けていると言わざるを得ません。

 

 

 

先の現場の工場長は意欲的です。経営者の姿勢が工場長に映し出されている感じがしています。工場長は、昨年からの取り組みで”積み上げる”ことの意味を理解していました。

ですから経営者が、社長方針として、これまでなかった”数値目標”を掲げた、目論見も理解してるようです。ですから仕事にも熱が入ります。

工場長の熱の入れようは、社長方針の数値目標対して、もう一つの目標値を提案してきたことからも伺えました。

 

社長方針の数値目標は、現場にとって、まだまだ高い水準であると工場長は考えています。そこで、社長目標と平行して、”前年度実績値”も目標にしたいと提案してきたのです。そこで、積み上げの見える化で社長方針と昨年実績の2つを目標としました。

社長方針と前年度実績の2つを生産量の積み上げ目標値に掲げると、社長目標以下、前年度実績以上がゾーンとして提示されます。

 

社長方針として掲げられた数値の技術水準は理解しているので、通年で達成するのは困難であるとの見通しも持っていました。

したがって、社長方針のみでは、現場の実績として、目標未達を毎月繰り返すことになり、それでは現場のモチベーションを維持することも難しいだろうと考えたのです。そこで、先に示したゾーンに入ることを最低限の目標としたのです。

 

社長目標を目指すものの、その目標は今の現場にとっては若干、ストレッチな目標となっています。そこで、少なくともココは上回ろうと掲げたのが前年実績です。それだけ、掲げた目標に対して本気度を持って臨みたいという工場長の意思の表れでもありました。

数値管理を普通にやられている現場であるなら、前年度対比で現状を”計測”するのは普通かもしれません。ただ、この現場では、意思を持った数値管理をやるのは初めてです。前年度対比で現状を”計測”することは、現場リーダーや作業者に新たな視点を提供します。

 

 

 

 

 

儲かる工場経営で現場が持つべき観点は”付加価値額”の積み上げです。

固定費 vs 付加価値額。

その観点に従えば、積み上げによる儲けの見える化ができます。具体的なやり方はセミナーやご指導のなかで、現場独自のやり方を考えてもらっていますが、この現場でも、オリジナルのやり方を考えました。工場長とスタッフの合作です。

そうして、年明けから、積み上げによる儲けの見える化に取り組みはじめました。

 

1月、2月の生産実績を社長へ報告するなかで、工場長が連発し始めた言葉が、冒頭の”勝った”や”負けた”です。目標対比での達成、未達をこのように表現していました。目標を上回れば”勝ち”、下回れば”負け”とその工場長は言い始めた訳です。

「社長が数値目標を掲げたので、現場から本気の言葉を引き出せましたね。」と伊藤は経営者へお伝えしました。

 

この現場で、目標を上回れば”勝ち”、下回れば”負け”と表現することが普通になれば、新たに加わった仲間は、そういうモノだと考えます。

この職場は毎日、毎月、毎年、”勝負”をしているのだ。戦う相手は”社長”と”前年”。この職場では、少しでも多くの生産量の積み上げが求められているのだ・・・ということを新たに加わった仲間は肌感覚で理解できます。

いわゆる、これがその現場の風土であり文化であり、〇〇ウェイです。経営者が数値目標を掲げることで、現場の本気を引き出し、現場独自の言葉が生まれました。こうした現場の言葉こそが、現場の思考回路を形成します。

 

 

 

付加価値額にせよ、売上高にせよ、生産量にせよ、より多く”積み上げる”ことが現場の使命です。これが生産性向上に他なりません。

そうした現場を持った経営者が豊かな成長路線を見通せます。「納期さえ守っていればいいではないか」と考えている職場にはない活気が生まれるのです。

どうせやるなら、勝ちにいきたいとの工場長の思いから生まれた表現が現場に浸透する頃、先の現場でも収益力150%アップを実現していることでしょう。数値にこだわる、勝負強い現場に変わっていきそうで、これからが楽しみです。

 

数値目標を掲げて、現場の本気を引き出し、現場の言葉を生み出してください。現場独自の言葉が経営者の想いを浸透させます。工場長や現場リーダーが繰り返し語る”言葉”で作業者は教育されていくのです。

・成長する現場は、数値目標に意気込みを示し、独自の言葉を生み出す。

・今の仕事のやり方でいいと思い込んでいる現場は、数値目標に関心を示さない。

現場の言葉を引き出す数値目標をつくりませんか?