「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第3話 ”他人”に活躍してもらい問題を解決する工場経営

第3話

経営資源上の問題を解決する手段のひとつは「工場経営の本質は自分の想いを、他人を通じて実現することにある」を実践することである、という話です。

組織力や”他人”を生かす意識を持って現場に仕事を任せていますか?

目の前の業務に煩わされず腰を据えて、将来を見据えた仕事に取り組めていますか?

「工場経営の本質は自分の想いを、他人を通じて実現することにある。」これはコンサルティングを通じて多くの経営者へお伝えしたいメッセージのひとつです。この想いは複数の中小製造業の現場で働く機会を通じて至った私の考えに基づきます。

私は大手企業から複数の中小モノづくり企業へ転職する経験をしました。仕事のやり方で大手企業との違いに戸惑ったりもしましたが、オーナー経営者の考え方に触れて大いに学ぶこともできました。その中で最も強く感じたことが、会社を「守る」という強烈な責任感です。

私が担当していた現場でカイゼンの成果が現れ、収益が向上した際の話です。現場の頑張りを評価して、現場メンバーの昇給を提案しました。提案に対して、その昇給の裏付けとなる将来での収益見込みの提示を求めた社長がいらっしゃいました。

「現場の給料は可能な限り上げてやりたい。が、来年、実績が出なかったからと言って下げられるものではない。継続して実績を上げられる状況が確認できなければ、職場の維持の観点から昇給は難しいと言わざるを得ない。収益の継続性が確認できればそうしよう。」

地域の雇用を責任をもって担い、維持し、守ろうと考えるが故に発生せられた言葉でした。雇用を維持するためには、それを裏付ける継続的な収益の存在が重要であると話され、給料は上げたいが、それ以上に従業員の雇用を守ることはもっと重要であるという強い気持ちを直接に感じたことがあります。

また別の社長は、自らが目で見て、実際に確かめない限りは許可できないとおっしゃり、徹底して3元主義を実践していました。この時は、工場経営の責任は最後はすべて経営者にあり、間違った判断を下す可能性を排除したいとの思いを感じたものです。

こうした中小モノづくり経営者の責任感やリーダーシップを感じる機会が度々あった一方で、多様な業務に自ら対応するために、色々と苦慮されている姿も目にしました。

そもそも、想いを実現するのに必要な経営資源が、中小モノづくり現場に潤滑に存在しているわけではありません。したがって、あらゆることに自ら乗り出して処理せざるを得ないと考えている経営者は多いはずです。

経営者は雇用の維持に代表されるような強い責任感をお持ちです。しかしながら、その一方で、多くの制約条件の中では、手薄にならざるを得ないところも多々あります。経営者がストレスを感じることがあるとしたらこうした状況に直面した時でしょう。

会社を守り、発展させるために思い描いた戦術や戦略がなかなか進まずストレスを感じるけれども、自分ももう手がいっぱいで仕事を進めようがない・・・。

そこで、「工場経営の本質は自分の想いを、他人を通じて実現することにある」のメッセージになります。

組織力を最大限に生かした工場経営を実践していただきたいと考えています。経営者がやらねばならないのは5年先、10年先の将来を見据えることです。

先が読めない不確実性が高い時代だからこそ、経営者が会社や工場の将来を予測して明確な方向性を提示する必要性が高まっています。

発言に責任のない巷の経済評論家なぞの言葉を当てにすることなく、経営者が自ら時代を感じ、自ら考えて自社工場の成功へのシナリオを描きます。未来志向の工場経営であり、これは経営者の方にしかできない仕事です。

ただし、これを実践するには「今」の業務を現場へ任せることが必要です。従来通り「今」にかかわる業務も経営者が自ら対応していては、未来にかかわる業務をこなすのは当然に無理です。

経営者にはモノづくりを通じて成し遂げたいと考えている想いがあります。地域に根差して豊かに発展し、雇用を継続、拡大させ、存在感のある企業へ成長したいという強い想い。

その想いを実現させる手段として”他人”に活躍してもらうという発想を取り入れます。

そもそもなぜ会社組織にして事業を営んでいるのか?という根本に立ち返って考えるとその発想を取り入れるべき理由が見えてきます。他人に活躍してもらうのが、想いを実現させる最も効率的な方法だからです。

組織力を生かすことで仕事の質もスピードも規模も高まることに注目します。これは、生かされていると感じた現場メンバーからやる気が引き出されることで得られる効果です。

総勢50名程度で構成させれている現場の管理者をやっていた頃、現場リーダーを3名任命し、現場管理を彼らに任せたことがあります。当初、任命された現場リーダーに戸惑いがあったものの、次第に各現場リーダーの個性が反映された職場ごとの仕事の進め方が出来上がっていきました。

そうした経過の中で、やらねばならないことを各現場リーダーへ定量的に見える化して伝達し続けました。現場リーダーの能力の差により達成された時期に早い遅いの差はあったものの、全ての現場リーダーが新たな独自の仕事の進め方を確立するに至りました。

おかげで管理者として、さらに上位の業務に取り掛かることができました。部門全体の業務を網羅的にこなしていた時よりも明らかにきめ細かい部門運営が可能となり、私以外の他人に活躍してもらうことで、仕事の質もスピードも規模も高まるのを実感したものです。

他人に活躍してもらうためには、自らの想いを伝達する努力も必要にはなりますが、その結果、考え方が現場へ浸透します。組織の基盤となる双方のコミュニケーション能力が高まる効果もあり、これは経営者に注目していただきたい効果です。

こうしたコミュニケーション能力の不足が起因する問題が組織において意外と散見され、そしてこの能力は、訓練によって確実に向上します。

さらに、”他人”に活躍してもらうという観点を持つことで、経営者は、分業と統合・調整の機能を有するモノづくり現場から一歩引いたところに立ちます。この状況は人財育成に適した環境を形成します。

経営者は近い将来、あるいは遠い将来、必ず、事業を継承しなければならない状況に直面します。この時の課題は事業承継者の育成と共に次世代経営者を支える経営幹部の育成です。

特に次世代経営者を支える経営幹部が育っているか否かはかなり重要であり、ここに問題がある状況では、結局、現経営者が後ろ盾にならないと事業が継続できないリスクが残ります。それであるなら、日常の業務を通じて人財育成ができる仕事の進め方をするのが実践的です。

経営者がやらねばならない業務は多いです。特にこれからは、将来を見据えた意思決定業務とそのフォローと評価の位置付けが高まってくると考えています。

モノづくりの事業では日常の生産活動に加え、技術動向を見据えた自社の技術開発や製品開発もやらねばなりません。既存顧客を維持しながら新規顧客を拡大するための販路開拓もやらねばなりません。

複雑化する時代の流れの中でこうした多岐にわたるモノづくり事業を展開して、企業と従業員の豊かな発展と成長を願うならば、経営者ご自身の仕事の進め方も見直します。

経営者には未来志向の工場経営に専念していただきたいです。強い責任感から抱きがちな全てを自らやらねばならないという気持ちを、まず改めます。他人を生かすこと、組織力を生かすこと、チームを信頼して任せることに挑戦です。

自分とは生まれも、育ちも、現在の家庭環境も異なる”他人”に自分の想いを理解させ、自在に活躍してもらうことは簡単なことではありません。”人”のことを理解する努力や知恵と工夫が必要となりますが、それでもなお、”他人”を生かすことに挑戦です。

経営者から信頼され、任せられた現場はその期待に応えようと頑張ります。人生をかけて働いている自職場を少しでも良くしたいといつも考えている現場のメンバーですから、経営者から期待をかけられて頑張らないわけにはいきません。

こうした組織力を生かすことで、自分の想いを実現させるシナリオの完遂の確度を高めます。経営資源上の制約条件で苦労される経営者は少なくないですが、その解決策のひとつに”他人”に活躍してもらうことがあることを知っていただきたいです。

実践を通じて現場従業員も成長し、頼もしい組織へと生まれ変わっていきます。これまで業務が進まないが故に経営者が感じてきたストレスを軽減してくれる力強いチームを手にすることができます。

モノづくりを通じて実現させたいと経営者が抱いている想いは、価値あるものです。価値があるからこそ、未来志向の工場経営を実践して、必ずその想いを実現させていただきたいです。

やはり、工場経営のキモは下記にあると確信しています。

「工場経営の本質は自分の想いを、他人を通じて実現することにある」

 

まとめ:経営資源上の問題を解決する手段のひとつは「工場経営の本質は自分の想いを、他人を通じて実現することにある」を実践することである。