「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第5話 コア技術戦略では技術力だけでなく〇〇力も

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コア技術戦略ではモノづくりの力、技術力だけではなく、モノづくりを強化し続ける力、組織力も欠かせない、という話です。

組織力を生かして、仕組みを構築していますか?

コア技術戦略でモノづくりの力の他に欠かせない力を意識していますか?

転職で複数の中小モノづくり現場で勤務する機会がありました。中途採用にも関わらず多様な活躍の場を与えてくださった経営者の方々には、ただただ感謝に堪えません。

さらに事情によって、それぞれの企業を去らねばならなかったわけですが、その時も、事情を理解いただき気持ちよく送り出していただいた経営者の方々には感謝の気持ちでいっぱいです。

当時は、その時々で最良と考えた業務を進めてきましたが、私自身が関わった業務は、現在、それぞれの企業によって、次のどちらかの状況にあると推察されます。

・新たな担当者になって、仕事の進め方もその担当者のやり方になっている。

・構築された仕組みが継続され、新たな担当者がその仕組みを強化している。

この違いは、なにから生まれるか?

それは、仕事の狙いや進め方に対する各企業の考え方です。

各職場で出された指示の仕方、仕事の任せ方の違いから読み取ることができるようです。

 

「新たな担当者になって、仕事の進め方もその担当者のやり方になっている」現場では、

・仕事の狙い:生産指示、手配業務を滞りなく処理すること。

・仕事の進め方:困った事態になったら、相談してほしい。

 

「構築された仕組みが継続され、新たな担当者がその仕組みを強化している」現場では、

・仕事の狙い:赤字職場を黒字化すること、ルールを作ること。

・仕事の進め方:いろいろと挑戦してほしい。(だめならばやり直せばイイ)

 

お世話になった複数の職場で業務を進めるに際し、おおむね、上記のように整理される経験をしました。

縁あって入社した、それぞれの中小製造企業では、それまでのキャリアを前提に業務指示をしてもらいましたが、私自身がイメージしている業務の進め方とのギャップを感じるケースもあり、その溝を埋めるのに骨を折ったこともしばしばでした。

これは良いとか悪いとかということではなく、その会社の個性となる組織文化によると感じたものです。

 

 

後者のような指示をうけた企業では、概ね、業務の進め方については任され、権限も与えてもらったお陰で、仕組みづくりにじっくり取り組むことができました。

モノづくりの現場が仕事の舞台ですから、コア技術に着目し、それを軸に1年計画を立てて業務を推進します。数の若手人財へ管理スキルやノウハウを伝授しながら、仕事は仕組み化して進めるべきであることを繰り返し伝えました。

会社の規模にかかわらず、どこの現場にもやる気に満ちた若手人財がいてくれるものです。

一見、結果が出ず覇気が感じられない現場でも、磨けば光る人財、背中を少し押してあげれば俄然やる気を出して現場を引っ張る人財、こうした若手人財が、必ず存在します。おもしろい事実だと感じた次第です。

自社工場で活力ある若手人財がいない嘆いている場合、それは若手人財が持っている良さを引き出すことができていない職場環境である可能性が高いのであろうと感じます。それほどに、どこの現場にも、前例はないが挑戦してみようという働きかけに呼応してくれる若手人財は必ず存在していました。

特に、生産ラインの品質統計処理について学んだY君が「それって、そういうことを意味するのですか。よくわかりました。」と張り切って早速、現場のメンバーに自ら教えていた姿などは印象的でした。

こうした経験から、大手企業であっても、中小現場であっても、やる気に満ちた若手人財は必ず存在しているので、儲かる工場経営でやるべきことは、そうした若手人財が120%の力を発揮でできる仕組みづくり、環境づくりであると確信するに至りました。

ですから、後者の指示を受けた職場では、若手人財の育成と共に、それまでやられていなかった工場オペレーション上の仕組みを構築できました。ですから、私がその職場を去っても引き続き、スキルアップした若手人財がその仕組みを磨き上げてくれます。

 

 

一方、前者のような指示をうけた企業では業務を処理することに軸足がおかれます。まずは、担当者ひとりひとりが工夫して取り組んだうえで、困った事態になったらその時に対応策を考えようという仕事の進め方です。

こうした環境では担当者ひとりひとりが独自に工夫をしています。なるほど、個別の業務では工夫がなされます。しかし、工場全体としての一貫性に欠けるきらいがあり、業務指示を受ける現場が苦労します。そして、特定の担当者が抜けると、そこへ他の担当者が穴埋めに入り、そこではその担当者のやり方が新たになされます。

担当者ひとりひとりは頑張っています。とても忙しいです。忙しいですが、組織としての力が発揮される機会が少ないので、工数をかける割には成果の波及度合いが小さく、結局は無難に滞りなく作業が処理されれば十分だという考え方になりがちでした。ノウハウが組織として蓄積されていないストレスを感じました。

そもそも、”困ったら”相談してほしいという考え方の職場では、トラブルを対処療法で乗り切る傾向にあることも経験しました。トラブル責任の所在が属人的要因として捉えがちで、現場のモチベーションが上がるどころではない。

仕組みが構築されていない状況で各種業務を進めようとしているところに問題の本質が存在しているわけですが、そこに気が付きにくいようです。

上司へ提案したことがあります。「問題発生を未然に防ぐ仕組みづくりに取り組むべきではないだろうか?」その上司からは、「なにせ日々の業務を滞りなく処理するので手が一杯で・・・」というコメントが返ってきました。

手が一杯にならないよう、より上位の業務をすることが求められるのですが、仕事のやり方が属人的で、組織としての力が発揮されにくい状況になると、仕事を処理するための”頭数”にのみ意識がいってしまいます。そして仕事を時間で評価する傾向に陥る。

少ない工数で作業をこなし、より上位の業務に取り組める仕組みを構築しようという発想になりにくいです。日々の業務で関係者の大部分が忙殺されていると、こうした負のスパイラルに陥ってしまいます。

 

 

前者のような会社にも、後者のような会社にも、熱意を持って仕事に取り組んでいる現場メンバーや管理者が存在しています。これは事実です。しかし、同じような熱意を持っていながら、それで、力が120%、200%発揮できるかどうかは、また別の要因で決定されるのだということを知らされました。

組織の力を生かすという発想を持った組織文化が醸成されるか否かは、経営者自身がそう考えるか否かによります。組織の力を生かそうという風土は、トップ自ら現場へ繰り返し、繰り返し、繰り返し語り、経営者の想いが現場に浸透して実現される”場の雰囲気”です。

トップが組織の力を生かそう、という明確な意思を表示しない限り、現場では組織力を磨き上げようという発想に至りません。そもそも、ひとりひとりの働きで、どうなるものでもありませんから、業務は属人的に、ひとりひとりがこなすものという考えに至ってしまいます。

 

 

当社のコンサルティングの柱には、コア技術があります。5年、10年のスパンで目指すべき状態を設定し、ロードマップを描いて、現状を起点としてやるべきことを明確にします。そして計画を立てて実行に移します。

コア技術戦略で構築すべき力は2つあると考えています。ひとつはモノづくりの力、技術力です。工学的な原理原則に基づいて獲得できる経営資源です。そして、もうひとつは、モノづくりの力を強化していく力です。これは、意識されることが少ないですが、とても重要な力であると考えています。

モノづくりの力、技術力そのものが重要であることは当然のことです。この力に独自性がなければ、そもそも付加価値を生みにくい状態になることは理解できます。ただしこれだけではコア技術戦略は成立しません。

継続性が問われる戦略です。ですから、モノづくりの力を強化して、技術力を継続的にブラシュアップできる力も同様に欠かせません。特定の技術は特定の人財によってもたらされる可能性があるという意味では、モノづくりの力、技術力は属人的な成果として獲得できることもあり得ます。

ただし、それのみではコア技術戦略は完結しません。その技術力を組織的に生かし、継続的に磨き上げる能力が必要です。仕組みを構築した後、その仕組みを関係者でブラシュアップできる組織力が大切であるのと同じ理屈です。

モノづくり現場が持続的な競争優位を確立するには、モノづくりの力、技術力そのものに加えて、組織的な力を生かして技術をブラシュアップできる能力が必要です。この組織的な力は競合から見るとブラックボックス化されており、そのもの自体が強力な強みになります。

技術力そのものは、定量的でもあり、目標が設定しやすく、追いつかれ、模倣される可能性があります。しかし、もう一方のモノづくりの力を強化できる能力は、組織力であり、それ自体模倣できるものではありません。

組織力は独自性を発揮する強みであることを重要視したいです。組織力を強化することは、現場のやる気を引き出すことにもつながります。成長して仲間の役に立ちたいという有能性を実感できる機会が多くなるからです。

コア技術戦略では、

・モノづくりの力、技術力

・モノづくりの力を強化し続ける力、組織力

の2つに注目します。

特に後者ではチーム力を生かすことになり、現場からやる気を引き出します。特定の人財に依存せず、組織力を生かしたコア技術戦略を展開します。組織力で仕組みが回るので、経営者は将来を見据えた工場経営に専念できます。将来を見据えた工場経営が儲かる工場経営への第一歩です。

付加価値10年ロードマップ戦略ではコア技術戦略を柱にして未来志向の工場経営を目指します。現場の、特に若手人材のポテンシャルを信じています。経営者には、組織力を生かして、将来の不安を払拭する工場経営を実践いただきたいです。

ここでも、工場経営のキモは下記にあると確信できます。

「工場経営の本質は自分の想いを、他人を通じて実現することにある」

 

まとめ:コア技術戦略ではモノづくりの力、技術力だけではなく、モノづくりを強化し続ける力、組織力も欠かせない。