「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第90話 生産技術を知り尽くし問題を未然に防ぐ

問題を未然に防ぐ体制になっていますか?

 

”起こしてしまった”問題に対して、再発防止、歯止めを掛ける・・・。

これは、これで正しい対応です。

 

しかし、中小製造現場にとって、これでは不十分であることに留意する必要があります。

起こってから手を打っていては、現場のストレスは増すばかりです。

多品種少量、変種変量、現場は変動へ柔軟に対応しなければなりません。

 

再発防止をさらに進め、未然防止、問題をそもそも発生させない観点を持つことがこれからの現場に求められます。

限られた経営資源で付加価値額を最大化するには欠かせない論点です。

 

 

 

自動車部品製造ラインの管理者を担っていた頃の話です。

10人ほどで構成されている、昼夜2交代の職場でした。

機械加工工程が中心の生産ラインであり、工程間の物流はフォークリフトによる運搬です。

工程順に設備が並ぶレイアウトでした。

 

機械加工工程の中に、特殊鋼の棒鋼を切断する精密切断工程があり、自動設備が稼働していました。

φ20~30の長尺棒鋼を50mm~80mm程度の寸法に自動切断していきます。

 

あるとき、自動設備の出口シューター部で、切断済製品が詰まるトラブルが発生しました。

当初は重視するトラブルと認識していなかったこともあり、気にかけていなかったのですが、散発するようになり、無視できない状況に至りました。

 

そこで、観察したところ、切断品が落差のあるスロープの途中で引っかり、それがシューター出口詰まりを誘発していました。

ひっかっかりの原因は、切断時に発生したバリでした。

バリがスロープに引っかかっていたのです。

 

その自動設備では、バリの発生を未然に防ぐために、ルールを決めていました。

所定の個数を切断したら、切断砥石の交換をします。

そしてトラブルが散発した時も、ルール通り交換されていました。

 

そこで、再発防止で手を打たねば・・・・・・・、と対策を検討したわけですが、そこでは、切断砥石の交換頻度を変えることにしたのです。

交換のきっかけとなる所定の切断個数を減らしたのです。

 

その自動設備は立ち上がってから、すでに2年以上経過していて、ルールは十分に機能していると判断されました。

ですから、本来なら、なぜ交換間隔を短くしなければならない状況に陥ったのかを考えなければなりません。

 

ルール通りに交換されていたのに、バリが発生した・・・。

それは、以前はなかったことだ。

何か”変わった”のか?

これを追求するべきでした。

 

しかし、その時は、そうしませんでした。

当初ルールで決めた切断砥石の交換頻度よりも短い間隔で、切断砥石を交換すればイイとしてしまいました。

 

そこで、交換間隔を短くし、交換頻度を増やす標準の変更をして生産を継続したのです。

この対応のお陰で、シュータートラブルがゼロとなり、しばらくはいい感じでしたが・・・・・・。

 

バリ発生を根本的に防止する対策を打ったわけではありません。

根本対策をしていなければ、忘れた頃にトラブルは再発するものです。

 

このケースでもそうでした。

また、トラブルが再発したのです。

 

 

 

この段階になって、やっと、根本原因を探ることになり、なぜ?ということで、切断機の構造からじっくり調べました。

新たに分かったことがありました。

 

切削油供給装置の切削油噴出口が、細かい切粉の堆積で、詰まり気味であったことを現場でみつけたのです。

詰まり気味のため切削油の供給が不安定となっていました。

 

その結果、

1)十分な切削油が切削面に供給されず

2)切断砥石の劣化が当初よりも早まり

3)劣化した切断砥石で切断するとバリが発生

4)スロープで引っかかり

5)シューターが詰まる。

 

つまり、なぜなぜ分析で言えば、3)どまりであったということです。

3)→2)→1)までなぜなぜ分析を深掘りする必要がありました。

 

ここまで至って、バリ発生を「根本的に」防止することができます。

つまり、問題を未然に防ぐ発想です。

これは品質原価の考え方に繋がります。

 

 

 

 

 

弊社では、この問題を未然に防ぐという考え方を品質原価を活用して説明しています。

再発防止策、歯止めから、さらに一歩踏み込んで、未然防止策へ。

 

ただ、こうしたことは、生産設備を知り尽くしていないとできないことです。

このケースでも、切削油供給装置への理解度が低かったということが反省事項となります。

その後は、日常点検に、この切削油供給装置のチェックを加えました。

 

設備を知り尽くしていないと工学的な因果関係は見えてこないので、未然防止策に至りません。

現場はモノづくりのプロですから、現場の生産技術を知り尽くし、使いつく、しゃぶりつくしています。

そうした現場の知恵を生かして、的確な未然防止策を立てるのです。

 

問題を未然に防ぐには、生産技術や工学的な因果関係を知りつくすことが必要であり、学ぶ場も必要となりますが、こうした、事前に手を打つ行動は、自律性を促し、若手のやる気を引き出します。

 

未然防止策とは、経営者にとっての、転ばぬ先の杖であり、濡れぬ先の傘です。

備えあれば患いなし、ですから、事前にしっかり手を打ちたいものです。

そこの手を抜いて、後悔先に立たず、は避けなければなりません。

用心は前にあり、です。

 

問題を未然に防ぐしくみを作りませんか?