代表者のもうひとつの想い

ノートとペン、スマホ

工場は若手に学びの場を提供してくれます。特に「人」について学ぶ貴重な機会を与えてくれる場です。中小製造企業の経営者を全力でご支援したい背景には、学びの場の役割を今後もお願いしたいとの想いがあります。

大学を卒業して以来、大手企業や中小企業の製造現場で勤務し、実務を重ねてきました。一貫して工場勤務です。そして、社会人として学ぶべきことは、全て工場の仕事を通じて学びました。

当然ですが、工場の仕事は、一人で進めることはできません。周りに共感してもらい、協力を得ることが不可欠です。失敗したり、成功したり。叱られたり、褒められたり。押してみたり、引いてみたり・・・・・。

現場の製造技術エンジニアだった頃、現場責任者(当時は組長と言っていました)や現場作業者が陰日なたと助けてくれた場面が数知れません。仕事だから当然だ、と言ってしまえばそれまでですが、当時、それ以上の「コト」を感じたものです。

エンジニアとして、多くのやりがいのある仕事に出会うことができました。その中で、特に学びが多かったプロジェクトがあります。生産技術/製品開発を伴う新規の事業で、売上高が数十億円規模のプロジェクトです。

数年の開発期間を経て、量産開始段階に至った時のことです。開発品の品質が合格水準に達し量産へ移行しました。しかし、量産を開始してからの品質がなかなか安定しませんでした。

入社してから10年程度経過し、プロジェクトの責任者として踏ん張っていた頃です。土日休みなく生産現場に張り付いていたことを思い出します。

今、考えると、なぜ、あの時、あそこまで頑張れたのだろうか?と不思議な気持ちになることがあります。若かったこともありますが、とにかく理屈抜きで没頭していました。

それは・・・・・、やはり「人」です。一緒に汗をかいてくれた現場責任者と現場作業者。エンジニアとして共に知恵と根性を出し合って頑張った同輩、後輩。そして、進捗を気にかけて励ましてくれた上司。

「人」に恵まれて踏ん張り続けられたことに気が付きます。当然、「ヤラサレ感」などは全くありません。仲間の期待に応えたい!!この一心から、自ら考えて、動いていました。

この経験から、工場経営の主役は「人」であるとの信念に至りました。

技術開発や製品開発、生産性向上の手法は世の中に多数紹介されています。こうした手法やシステムには素晴らしいものが多いです。大いに活用すべきです。

ただ、こうした取り組みの前に、やるべきことがあります。それは、「人」のやる気(DRIVE)を引き出す仕組みの構築です。あの時、会社の仕組みに上手く乗っていた自分がいました。その結果として、踏ん張ることができたのです。

人が人を意のままに動かすことは簡単にできるものではありません。その点、仕組みは素晴らしいものです。心から納得していれば、自然と、望ましい方向へ向かわせるからです。

人を知ることで、人に配慮した仕組みを構築できます。それは前向きな組織風土へつながります。仕組みづくりとは言い換えると組織風土づくりであり、経営者の想いを浸透させることに他なりません。

また、引き出されたやる気は仲間たちを強く結びつけます。競合に勝る製造技術を開発し、競合を出し抜く製品を開発する目標を掲げたことがありました。こうした目標を共有したチームのモチベーションはとても高かったことをおぼえています。

「人の役に立ちたい。」「チームのために頑張りたい。」人の本質にはこうした側面があります。人に配慮した仕組みは善きチームを生むということを知りました。

儲かる工場経営では、固有技術や管理技術の深耕が欠かせません。ただ、それ以上に「人」を研究することが大切です。「人」についてしっかりと学ぶ必要があります。管理者の仕事をしながら強く感じたことです。

情報通信技術(ICT)を活用したもののインターネット(IOT)や人工知能(AI)の目覚ましい進化は、今後、製造業の現場を大きく変えていきます。ただし、これらはあくまで手段です。道具です。何に使うのかが本質的な課題です。

このようなデジタル化が進歩するほどに、人の役割、とりわけ人のコミュニケーション力の重要性が高まります。技術の本質は人間の頭で考え、汗をかいて獲得した知恵にあり、この知恵は多くの人に「言葉」や「想い」で伝わってこそ価値を生むからです。

モノづくり現場でどれだけIT化が進んでも、働く人の役割の重要性に変わりはありません。若手は大いに「人」について学ぶ必要があるのです。

現場は若手の学びを促し、叱咤し、激励する機能を有しています。多くの経営者に現場のこうした役割の重要性をご理解いただき、共感いただけるとありがたいです。

仕事を通じて成長した若手が「この会社に入ってほんとうに良かった。」と思えるほど幸せなことはありません。また成長した若手から「あのときはありがとうございました!」という声をかけられるほど嬉しいことはありません。

従業員よし、顧客よし、地域よし、三方よしとは、まさにこのことです。中小製造企業の経営者にはこのような善き会社の役割を長く続けていただきたいと心から願っています。

加えて、自分を育ててくれた現場への感謝の気持ちもあります。

モノづくりは人づくり。

頑張るモノづくり現場を応援せずにはいられません。

弊社が人材育成を重視する所以です。

株式会社工場経営研究所
代表取締役 伊藤 哉