「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第220話 内製か?外注か?その判断基準とは?

「外へ出している分を内製化しなければなりません。」

生産性向上活動に着手した経営幹部の言葉です。

 

人時生産性向上の論点は「詰めて、空けて、取り込む」にあります。リードタイムを短縮しただけでは儲かりません。

新たな案件を取り込んではじめて付加価値額の積み上げにつながります。

 

先の企業では、忙しくなると仕事を外へ出して切り抜けていました。従来の生産性では、自社でさばけないことがあるのです。

仕事のやり方を変え、生産計画を詰めて、空ければ、自社でやれるようになります。冒頭の言葉です。人時生産性が高まります。

 

 

 

 

 

忙しくなると、受注した仕事の一部を外へ出すことがあります。機内損失は明らかです。内製化が課題となります。議論の余地はありません。

ただし、外注か?内製か?で悩む場面もあります。

貴社では、こうした場合での判断基準を持っていますか?

 

当然のことですが、まずは収益上の検討です。論点は2つあります。

1)内製化による付加価値額増分で固定費増分を回収できるか?

2)外注による利益上乗せ分を把握できているか?

「外注はお金が出ていく。できるだけ減らしたい。」と考える経営者は少なくありません。当然です。ただし、一方で固定費の増分にも目を向けなければなりません。

 

内製化による付加価値額増分、つまり費用節約分は下記です。

・付加価値額増分=外注費―内製化で必要な原材料費

 

一方で内製化による固定費増分を評価します。

・新たな人の採用、新たな残業分の労務費・人件費

・新たに導入した設備やシステムの減価償却費

・その他、内製化で新たに発生する諸経費

内製化による固定費増分を付加価値額増分で回収できるか?これが論点です。

 

例えば、下記のように検証できます。

・単価:110円

・1個当たり外注費:100円

・内製化で必要な1個当たり原材料費:80円

・内製化による固定費増分(外注時基準):2,000円

 

1個当たり付加価値額増分=100―80=20円

固定費増分を回収する生産数量=2,000円/20円=100個

 

つまり100個以上生産するなら、内製化による固定費増分を回収できます。100個で内製と外注が同じということです。100個以下なら外注が収益上は有利になります。

 

また、生産数量200個で外注を継続したときの利益上乗せ分は下記のように検証できます。

外注による1個当たり付加価値額=110―100=10円

外注による付加価値額の積み上げ:10×200=2,000円

 

200個なので内製の方が収益的に有利です。内製なら6,000円の付加価値額を積み上げられるところでした(固定費増分を差し引いても4,000円の積み上げ)。

しかし、外注のままでも2,000円は積み上げているという事実を認識する必要があります。場合によっては、人時生産性も高まるのです。

 

 

 

 

 

外注か?内製か?収益上の有利、不利だけで判断できません。外注・内製は経営者の戦略的意思決定によるものだからです。一筋縄ではいきません。

・内製できないから外注に出す

・内製できるけれども外注に出す

いろいろあります。

 

設備を目一杯稼動させてもこなしきれないので、さばけない分を外注に出す。機会損失を避けたいので当然の対応です。ただし、ここで現場へ問いかけなければなりません。

現行の設備、現行の人員で本当にこなしきれないのか?リードタイムを短縮し、詰めて、空けて、取り込む余地はないのか?ということです。

 

中小製造現場の管理者時代、赤字職場黒字化の論点はここでした。納期や仕様で、少々難易度の高い案件が届いたら、「即、外注!」が常態化していたのです。

利益アップ、給料アップを目指そうと!と現場へ働き掛け、現場活動に着手しました。そして1年半後、1人当たりの月間付加価値額を50万円から75万円へ高め、黒字化できました。

 

安易な外注は安易な思考回路を定着させます。先の経営幹部の言葉がそうです。経営者の姿勢が問われます。

 

 

内製化できるけれども、グループ会社の収益対策のため、あえてそこへ外注を出すこともあります。こうした場合、なぜ外注化するのか?経営者は外注戦略を現場へ伝えなければなりません。そうでないと現場に「わざわざなんで外へ出すのだ?」という不満が生まれます。

現場にとって、外注は手間を省くことにならないからです。管理業務が煩わしく感じます。

 

 

技術を持っていないから、外注に出すことはしばしばです。ただ、将来的に自社でやりたいと考える経営者もいます。外部へ出るお金を減らすためです。

現在、内製化できないことを、設備投資でできるようにしたいのなら、設備導入による減価償却の増分、その他に注目しなければなりません。

・コア技術の設備投資

・コア技術以外の設備投資

 

板金メーカーがプレスやベンダーを増設する場合等は前者です。いわゆる生産能力アップ投資です。市場規模が拡大している時代なら、機会損失回避の設備投資となります。事業を成長発展させる機会ですからスピードも求められます。

ただし、外部環境変化大きい昨今、生産能力アップ投資には慎重さが求められます。設備を一旦背負うと、その分の受注を確保し続けなければなりません。不確実性が高いので辛くなります。

 

コア技術以外の設備投資では一層の慎重さが求められます。切削加工や射出成形をコア技術としている現場に塗装ラインを新たなに導入するようなケースが後者です。

コア技術以外ですから、試行錯誤することになります。設備導入しました、電源入れました、生産開始できました、とはなりません。

 

コア以外の技術ですから、分からないことだらけです。トラブルが発生しても対応ノウハウがありません。復帰にも時間がかかるでしょう。不良品や手直し品も増えます。

余分なコストが掛かるのです。新技術導入時には、避けられない各種トラブル分のコストも加味する必要があります。

 

 

 

 

 

内製か?外注か?これは経営者の戦略的な意思決定によります。将来構想次第です。外注が安いとか、高いとか、目先の収益だけで考えている限り、正しい将来を決められません。

 

外部環境変化が大きい昨今、外部の力を上手く活用する力も大切です。

外注先の囲い込みで事業を安定させる戦略が考えられます。また、地域の外注先のネットワークを活かしモノづくりをプロデュースする戦略もあります。

 

儲かるモノづくり戦略を考える根拠のひとつがスマイルカーブです。外部の力を使って独自モデルを構築できます。何でもかんでも時前でやればイイという時代ではありません。

その一方で、新たなコア技術への挑戦も事業成長発展では必要です。競合ができないこと、やらないこと、言わないことをお客様に伝えて、選んでもらわなければなりません。

 

結局、内製か?外注か?

・目先の収益確保

・将来構想

この2つで考える課題です。自前だけでなく、外部の力も活用します。経営者にしか決められない経営課題です。

 

内製か?外注か?これは将来が問われる問題でもあります。新技術への挑戦をロードマップで明らかにすれば、一歩踏み出せます。ロードマップに挑戦してください。やるべきことが整理され、見えてきます。

 次は貴社の番です!

 

成長する現場は、将来を正しく決めるため収益に加え将来構想でも内製、外注を決定する。

停滞する現場は、外注が高い、安いという目先の収益だけで内製、外注を決定する。