「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第498話 右腕役に工場経営の基礎を繰り返し伝えたか?
「先生、作業者の個別面談を計画します。」
先日、訪問した支援先企業で、プロジェクトリーダーから報告がありました。
人時生産性向上プロジェクトに着手して一年が経過した企業です。足元の業績は安定しており、大きなトラブルもありません。
しかし、経営者が気にしているのは五年後、十年後の姿でした。ベテラン依存が強く、仕事が属人化しています。このままでは、ベテランが一線を退いた瞬間に、工場の推進力が落ちかねないという危機感です。
このプロジェクトの表の目的は人時生産性向上ですが、裏のテーマは次世代メンバーの指導にあります。経営者と幹部経営者と幹部と一緒にたてた作戦です。
1年経過して、プロジェクトリーダー自身が変わり始めました。作業者一人ひとりと向き合い、何を伝えるのかを考え始めたのです。
「作業者には何を伝えるのですか」と尋ねると、返ってきた答えは「出来高を増やすポイントです」でした。
数字を押し付けるのではなく、協力を引き出す対話をしようとしている。その姿勢に、次世代を導くリーダーシップの芽が見えてきました。
こうした状況に至るまでにまでに、伝えなければならないことがあります。プロジェクトリーダーはそれを活かし始めました。
伝えなければならないこととは?
●次世代メンバーを導く
経営者の視線は、常に将来を向いています。
目の前の受注や納期対応に追われながらも、五年後、十年後に工場を任せられる右腕役や現場キーパーソンが育っているかどうか。この問いは、多くの中小製造企業経営者が胸の内で抱えている不安でしょう。
候補となるメンバーはいる。しかし、どう導けばよいのか分からない。その戸惑いは決して珍しいものではありません。
中小製造企業は少数精鋭です。この体制は弱みではなく、むしろ強みです。一人ひとりが経営者の背中を間近で見られる距離にいます。
しばしば「人は育てるものではなく、育つものだ」と言われますが、この言葉は中小企業にこそ当てはまります。一方的に教え込むのではなく、考える環境と判断の材料を与えることで、人は自ら成長していきます。
そのために、経営者がやるべきことは、次世代指導に時間を割こうと構えることではありません。社長業に専念することです。
社長業に必死になっている経営者には、次世代を育てる時間も余裕もありません。
しかし、その経営者が日々発する何気ない言葉こそが、経営者に代わって次世代メンバーに有形無形のメッセージを刻み続けています。
「言霊」という言葉が示すように、日本では太古より、言葉には想いを実現させる力が宿ると考えられてきました。
経営者の言葉は、経営者が思う以上に、聞かれています。見られています。そして、残っています。だからこそ、経営者は自らの言葉を大事にしなければなりません。
さらに、定期的な製販一体の会議の場で、自身の意志や判断基準を言語化し、数値として示すことが重要です。
市場で何を見て、何を判断材料にし、どこを目指しているのか。それを語り続けるだけで、次世代メンバーは多くを学び取ります。
ただし、それだけでは足りません。
次世代メンバーが現場で判断し、作業者を導くためには、共通の思考の土台が必要です。その土台として、経営者が必ず伝えなければならないものがあります。
工場経営の「基礎」です。
生産管理3本柱です。
基礎を繰り返し伝える
1)時代が変わっても不変なので基礎である
考えるためには知識が必要です。
人に腹落ちしてもらう説明のためにも、知識が欠かせません。熱意や想いだけで人を動かそうとしても、裏付けとなる理屈がなければ、相手の納得感は高まらないものです。
特に製造現場では、「なぜそうするのか」が理解されなければ、行動は長続きしません。
次世代メンバーが作業者を導き、現場をまとめていくためには、感情論ではなく、判断の拠り所となる知識が必要になります。
工場経営で必要な知識は、生産管理3本柱に集約されます。
品質管理、原価管理、工程管理です。ここに、モノづくりで儲ける手掛かりとヒントが詰まっています。
そして、右腕役や現場キーパーソンは、この知識を「知っている」だけでは足りません。判断し、説明し、納得を引き出すための道具として使いこなす必要があります。
品質管理は、後追いで不良を見つけるためのものではありません。先手を打って品質を造り込むための考え方です。
原価管理は、売上から費用を引く結果論ではなく、製造業の収益構造を理解し、どこで付加価値を積み上げるかを考えるための道具です。
工程管理は、単なる納期管理ではありません。人時生産性を高めるための「我が社が儲かる納期」を目標に、限られた時間でより多くの付加価値を生み出すための管理です。
これらはすべて、現場を動かす「基礎知識」です。
次世代メンバーには、教科書的な生産管理ではなく、「儲ける」視点で再構成された生産管理を伝えたいのです。
なぜなら、現場で直面するのは、正解のある問題ではなく、状況に応じて判断しなければならない課題ばかりだからです。そのときに頼りになるのが、基礎となる考え方や知識です。
基礎は、時代が変わっても変わりません。自動化が進もうが、DXが進もうが、AIが導入されようが、QCDという枠組み自体は揺らぎません。だからこそ「基礎」なのです。
スポーツでいえば、どんな競技でもまずは足腰を鍛えるのと同じです。派手な技術や新しい手法は目を引きますが、それを支える基礎がなければ成果は出ません。
時代が変わっても不変なので基礎です。
2)知識は自信のあと後押しにもなる
基礎は、一度教えれば終わりというものではありません。繰り返し、繰り返し、伝えるものです。理解したつもりでも、実際の現場では迷いが生じます。
その迷いを修正するために、経営者は時間を割いて、次世代メンバーに基礎を伝え続けなければなりません。丸腰で現場に立たせてはいけないのです。
作業者からの反発や疑問に向き合うための武器として、基礎知識を持たせてあげる。それは、経営者の大切な仕事です。
この支援先企業でも、次世代メンバーに対して一年という時間をかけて、基礎を繰り返し、繰り返し伝えてきました。
その積み重ねが、プロジェクトリーダーの言葉や行動に表れ始めています。基礎が思考回路に組み込まれたとき、現場は自ら考え、知恵を絞り始めるのです。
このリーダーは出来高を増やすポイントを伝えようとしています。つまり、このリーダーはリードタイム短縮をはじめとした出来高アップの論点を理解していると言うことです。
基礎知識を手にした結果、思考が巡り始めました。基礎という知識の力です。自信を持って、作業者を導けます。知識は自信のあと後押しにもなるのです。
●繰り返し、繰り返し伝えることとは?
繰り返し伝えるとは、単に同じ言葉をなぞることではありません。考え方を、判断基準を、次世代メンバーの思考回路に染み込ませることです。
一度理解したつもりでも、現場に戻れば迷いは必ず生じます。そのたびに立ち返る拠り所として、基礎が体の芯に入っているかどうかが問われます。
基礎が思考回路に組み込まれると、現場は、静かに、知らないうちに、変わり始めます。指示を待つ現場から、自ら考え、工夫し、提案する現場へと変わっていくのです。
その変化は派手ではありません。しかし確実に、経営者の手を離れても工場が回る状態に近づいていきます。
ここで大事なのは、繰り返し伝える対象は生産管理3本柱だけではないという点です。
貴社に、時代が変わっても変わらないものはありませんか?
貴社の社是や経営理念です。
時代が変わっても揺るがない価値観が、会社の基礎であり本質だと言えます。経営戦略や方針は変わっても、社是や経営理念が変わらないのは、それが企業の本質、魂であり、判断軸だからです。創業時に掲げた想いです。
だからこそ、理念もまた、繰り返し、繰り返し伝えなければなりません。
基礎が共有され、理念が腹落ちしたとき、右腕役や現場キーパーソンは自律的に動き始めます。すると経営者は、工場のことをことを従業員に任せられるのです。
経営者は本来向き合うべき市場と将来に時間を使えるようになります。
工場経営の基礎を右腕役に伝えたか。それは教育の話ではありません。経営者が将来に専念できるかどうかを左右する、経営そのものの問いです。
次は貴社が挑戦する番です!
成長する現場は、基礎を理解した右腕役が自信を持って作業者に指示を出し仕事をこなす
衰退する現場は、基礎を教わっていない右腕役は熱意が空回りするだけで仕事が進まない