「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第88話 匠の技能を技術へ変換する
ベテランの技能を将来の現場で生かす準備をしていますか?
トヨタ自動車副社長の河合満氏は、現在の自動車業界を「100年に1度の大変革の時代」と表現し、生産現場で造るモノが新しくなり、その造り方も変わっていると指摘しています。
これへ対応するのに、目指しているのが下記の集団です。
「課題や変化に挑戦し、やり切るものづくり集団」
トヨタ自動車は2018年2月6日に2017年度第3四半期の決算および通期の見通しを発表しました。
そこで、河合氏は「ものづくり/技能伝承」のプレゼンテーションを行っています。
(出典:日経ものづくり2018年3月号)
プレゼンテーションでは「ものづくり集団を育てる源泉となる自働化」について紹介がありました。
自働化はトヨタ生産方式2本柱のひとつです。
そのプレゼンテーション中で、河合氏は興味深い実験を紹介しています。
しばしば言われることですが、「品質は工程でつくりこむ」ものです。
机上で検討できるものではありません。
「自働化」は、まさにその考え方を現場で実践するために欠かせない手段であり、不良品をつくらない、異常があれは機械を止めることを実現しています。
自働化では設備の稼働状況を検知するセンサーを設置するなど、最新技術も活用していますが、それだけでは不十分であると河合氏は説明しています。
「匠の技能を標準化して自働化する、を繰り返すことで(自働化)を進化させてきた。」(出典:日経ものづくり2018年3月号)
暗黙知としての技能、匠の技能、人に蓄積されてきたノウハウ・・・。
モノづくりでは、これらが必要なのです。
河合氏は、匠の技能が生かされる例としてロボットに字を書かせる実験を紹介しています。
「同社の技術交流会において書道未経験者と書道経験者がそれぞれ、「技」という字の書き方をロボットに教示して書かせてみたところ、明らかに経験者が教示したロボットの方が美しい字を書けた。
これは、クルマづくりでも同じだ。実際、同社はバンパーの塗装工程でロボットに塗装させる際、手吹き塗装における「匠の技能」の細かい動作を計測し、ロボットの動きに適用。品質が良く、材料の無駄がない塗装を実現している。」
(出典:日経ものづくり2018年3月号)
ロボットのティーチングは動作のデジタル化と言い換えられますが、アナログの強みがあれば最適化できるということです。
アナログの強みがあれば、最適なデジタル設計ができます。
逆に匠の技を知らずして、IOTに代表される情報通信技術を持ってこようが、先端技術を導入しようが、モノづくりの現場では成果は得難いと言えるでしょう。
貴社のコア技術を持続的、継続的にブラシュアップしたいのなら、暗黙知としての技能、匠の技能、人に蓄積されてきたノウハウに着目することです。
河合氏は、「技術と技能のスパイラルアップ」と表現しています。
今、ご支援している企業の工場長に、次のように尋ねました。
「社長はこれから積極的に事業を伸ばす構想を掲げています。現場としては、今、何が必要でしょうか?」
その工場長は即答でした。
「現場のスキルアップです。」
その現場は作業者の技能への依存度が高く、労働集約的です。
いまなら、なんとか、成り行き管理でもやっていけるようですが、場内の物流が多くなると各種問題が発生すると工場長は懸念しています。
数人の技能を持ったベテランだけでは立ち行かなくなるわけです。
それを解決する方針がスキルアップであり、その狙いは「多能化」となります。
それには、匠の技能を生かせる形にしなければなりません。
その企業でも長期的には新たな設備を導入し、自動化を推し進めていくことを考えていますが、その準備として匠の技能を生かせ形に変換する作業が必要となってくるのです。
トヨタは設備へ匠の技能をどんどん移管しています。
我々、中小製造現場ではどのように匠の技能を残していきましょうか?
技能をどのように技術へ変換していきますか?
じっくり取り組みたい課題です。
時間を味方にして暗黙知を形式知化します。
時間をかけて作り上げたものは競合に簡単に模倣されません。
もともと機動力を持っている中小製造現場がこうしたブラックボックス化された強みを持てば、鬼に金棒、弁慶になぎなた、虎に翼となり強みに一層の磨きがかかるのです。
匠の技能を残す仕組みをつくりませんか?