「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第499話 多品種と多品目のどちらで儲けるのか?

 

「今のままでは、受注が苦しくなってきます。」

先日、訪問した支援先企業の製販会議で、営業担当者がこう切り出しました。

 

年商は5億円前後で横ばい。数年前には6億円から7億円規模で推移していましたが、ここにきて伸び悩んでいます。

従業員数は当時とほぼ変わっていません。その結果、人時生産性の移動累計は、確実に下を向いていました。

 

経営者はこの状況を重く見て、半年前から立て直しのプロジェクトに着手しています。経営者と議論しながら論点を整理し、その論点をもとにプロジェクトメンバーと課題を設定してきました。

製販会議では、まず足元の受注を確保するための短期対応が議論され、その後、将来を見据えた長期対応の話題に移ります。

「お客様からの感触に変化はありませんか?」と問いかけたときに返ってきたのが、冒頭の言葉です。

 

見積もりを出しても、以前ほど受注につながらない。見積提出件数に対する受注率が、数年前より低下しているのです。

この企業では先代の時代から「受注率」を重要な指標としてきました。その数値が下がり始めたという事実は、見過ごせません。

 

ここで注意したいのは、「受注が苦しい=営業が弱い」という短絡的な捉え方です。営業担当者の努力不足や提案力の問題と片付けてしまうと、本質を見誤ります。

営業はあくまで、市場と会社をつなぐ最前線に過ぎません。受注が苦しくなってきた背景には、もっと構造的な要因が潜んでいることが多いのです。

 

受注率を上げなければならない。しかし、黙っていても受注率が自然に回復することはありません。必要なのは、目先の営業強化ではなく、経営としての明確な方針です。

では、なぜ受注が苦しくなってきたのか。その原因は?

 

 

 

 

 

なぜ受注するのが苦しくなってきたのか?

 

市場には、常にお客様と競合が存在します。限られたお客様を、複数の競合先と奪い合うのが市場活動の現実です。

そして、その勝敗を判定するのは、常にお客様です。判断基準も、最終的な決定権も、すべてお客様が握っています。

 

受注が苦しくなってきたということは、言い換えれば「お客様から断られる場面が増えてきた」ということです。その理由は単純です。競合との比較において、選ばれなくなってきたからです。

品質で劣る、価格が高い、納期が長い。このいずれか、あるいは複数が重なった結果として、受注が遠のいていきます。

 

競合との戦いに勝てなければ、受注は難しくなります。

製造業における競争戦略の要点は、大きく分けて二つしかありません。

・コスト上のリーダーシップを発揮する

・差別化によって競争優位を築く

どちらかです。経営資源に制約がある中小製造企業が、価格競争を主戦場にするのは得策とは言えません。価格競争は体力勝負であり、資本力と規模を持つ大手が有利だからです。

 

もし、お客様から事あるごとに値下げの要望が出てくるのであれば、すでに価格競争の土俵に引き込まれている懸念があります。ある程度の価格交渉は避けられませんが、「選ばれる理由」が価格だけになってしまった市場で戦い続けることは、中小企業にとって厳しい道です。

 

人時生産性を高めるうえで最も効果的なのは、単価を上げることです。しかし、価格競争の中では単価は下がる一方です。

したがって、規模を追わない中小製造企業が目指すべきは、差別化です。儲かる商品、儲かる製品、儲かるサービスを持つこと。

 

そのためには、受注が苦しくなった原因を「営業の問題」に矮小化せず、「お客様に選ばれる要因が弱くなっていないか」という視点で、事業構造そのものを見直す必要があります。儲かる事業構想の大部分は、我が社が提供する商品、製品、サービスの構成決まるのです。

 

受注が苦しくなってきたときこそ、経営者は市場での立ち位置を冷静に見つめ直さなければなりません。

価格で選ばれていないか。代替可能な存在になっていないか。その問いに向き合うことが、次の一手を考える出発点になります。

 

 

 

 

 

絞るという観点

 

競争が厳しくなったとき、多くの企業は「もっと幅広く受注しよう」「間口を広げよう」と考えがちです。

しかし、経営資源に制約がある中小製造企業にとって、この発想は必ずしも正解ではありません。むしろ逆で、「何をやらないか」「どこに集中するか」を決められないままでは、差別化は一層難しくなります。

 

競争優位性を築くために欠かせないのが、技術開発、商品開発、サービス開発です。開発をやめた瞬間から、企業は既存の商品・製品・サービスだけで戦い続けることになります。

その結果、価格や納期で比較され、価格競争に巻き込まれていきます。中小製造企業こそ、その柔軟性と機動性を活かして、開発に取り組まなければならない理由がここにあります。

 

開発を考える際の出発点は、我が社のコア技術です。そこからすそ野を拡げます。

切削、研磨、塗装、充填、精密加工など、長年積み上げてきた強みのDNAが必ずあるはずです。重要なのは、そのコア技術を軸に「何を増やすか」を考えることです。

 

ここで混同されがちなのが、多品種と多品目の違いです。多品種と多品目、どちらで儲かるのか。これは事業方針に関わる重要事項です。

多品種とはカテゴリーの多様性

多品目とはアイテムの多様性

少数精鋭の中小で実践すべき開発は、原則、多品目です。コア技術のすそ野を拡げます。

 

たとえば飲食店で考えてみましょう。

多品種とは、おにぎり、海苔巻き、いなり寿司といったように、提供するジャンルそのものを増やすやり方です。一方、多品目とは、おにぎりに絞ったうえで、梅、鮭、昆布、明太子と具材のバリエーションを増やしていくやり方です。

どちらが専門性を感じさせるかは、明らかでしょう。

 

製造業も同じです。コア技術という一本の軸を定め、その技術をさまざまな用途・分野に当てはめていくことで、商品・製品・サービスを多品目化していく

技術を絞るからこそ、その専門性が際立ち、「あの会社に頼みたい」という選ばれる理由が生まれます。

 

開発とは闇雲に手を広げることではありません。絞った観点から、すそ野を広げる。この発想こそが、中小製造企業の開発戦略の要点なのです。

ここは、ご支援先の経営者とじっくり検討する論点となります。

 

 

 

 

 

将来のための投資

 

開発は、重要度が高いにもかかわらず、緊急度が低い仕事です。そのため、日々の受注対応やトラブル対応に追われていると、どうしても後回しにされがちです。

 

しかし、この「後回し」が続いた結果として、数年後に受注が苦しくなるという現実が現れます。開発とは、将来に向けた投資であり、今日の売上を直接生まないからこそ、経営者自身が意志を持って取り組まなければならない仕事なのです。

 

 

 

中小製造企業にとっての財産には、二種類あります。

・ひとつは、お金や設備のように目に見える財産

・もうひとつは、開発力やお客様からの信頼といった、目に見えない財産

後者は貸借対照表には表れませんが、受注が苦しくなった局面で真価を発揮します。

コア技術を軸に多品目開発を積み重ねてきた企業は、価格や納期だけで比較されにくくなり、結果として安定した受注につながります。

 

そして、開発は片手間では成功しません。構想から収益化までには、二年、三年という時間軸が必要です。だからこそ、経営者の時間の使い方が問われます。

経営者が日々、工場の段取りや現場対応に追われている状態では、将来を見据えた開発に専念できません。足元の緊急度が高い仕事は、右腕役や現場キーパーソンに任せる。

そのための指導と仕組みづくりも、経営者の重要な仕事です。

 

つまり、経営者が開発に専念できる環境を意図的に整備しなければならないのです。

・経営者が工場を不在にしても回る体制をつくること

・右腕役と現場キーパーソンに判断を委ねられる状態をつくること

これらはすべて、将来投資の前提条件です。

 

開発業務を成功させるには、行き当たりばったりではなく、先を見通した構想が欠かせません。開発は「やるかならないか」ではなく、「誰がいつやるか」で決まる仕事です。

その構想を具体化する道具がロードマップです。

 

経営者は、将来投資の構想検討にどれだけ時間を割けているでしょうか。その時間の量と質が、事業の成長と発展を、地道に、しかし確実に決めていくのです。

次は貴社が挑戦する番です!

 

・成長する現場は、売上不振の原因は製品の競争力が落ちたからだと考え開発を強化する

・衰退する現場は、売上不振の原因は営業が悪いからだと考え担当者に発破をかけるだけ