「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第505話 右腕役の仕事を言語化して伝えたか?
「先生、右腕役の仕事って、何をやればいいのでしょうか?」
30人規模の板金製品メーカー、実践会での一場面です。
現場での打ち合わせが一段落したタイミングで、プロジェクトリーダーである課長は手を止め、まっすぐこちらを見て問いかけてきました。曖昧さのない、率直な質問です。
この企業は先月からプロジェクトに着手しています。テーマは、現場で儲けを生み出すタイムマネジメントの再設計です。
まずは問題の所在を明らかにするため、見積、計画、統制、作業指示、その後のフォローと評価まで、仕事の流れを一つひとつ洗い出してもらいました。
右腕役であるこの課長と現場キーパーソンが中心となって整理していきます。すると、各所で「気になる点」が上がってきました。
ただ、話を深く聞いていくと、どれも現場の努力で何とかしてきた跡が見えます。
納期遅れは前倒しで吸収し、品質トラブルはベテランがカバーし、急な仕様変更も現場判断で対応している。小数精鋭の工場ではよくある姿です。
この課長自身もプレーイングマネージャーとして、溶接や組立に入りながら、日々の問題を処理しています。
工番の八割以上が特注品という事業モデルです。案件ごとに条件が違い、標準化は簡単ではありません。だからこそ、その都度判断し、現場で回してきたのです。
課長の説明は一貫しており、現場の状況もよく把握していました。責任感もあり、現場からの信頼も厚い。いわゆる「任せられる人材」です。
しかし、その課長が「何をやればいいのでしょうか」と問いかけてきたのです。これだけ現場を知り、責任を背負っている従業員が、自分の役割を言葉にできなくて悶々としていました。
任せられる人材が、任され方を知らないのです。つまり、任せているつもりで、任せていない。ここに、この企業の本当の問題があります。
現場は回っています。むしろ、よく回していると言っていいでしょう。それでも、何かが曖昧なまま進んでいる。その曖昧さが、課長のこの一言として表に出てきたのです。視点が高いからこそ出てきた質問と言えます。
右腕役とは何をする人なのか。現場を回すことなのか、問題を処理することなのか、それとも別にあるのか。この問いに答えられないまま、日々の仕事を処理すことに違和感を抱いた課長です。
右腕役は何をやればいいのでしょうか?
貴社では言語化できていますか?
●右腕役の仕事とは何か?
右腕役の仕事とは、「経営者の代わりに、工場を回せる仕組みをつくること」にあります。要点は「経営者の代わりに」です。
ここが曖昧なままでは、優秀な人材でも、焦点を絞り切れなくなります。今回の課長がまさにそうでした。現場は回している。しかし、自分の仕事を言葉にできない。この状態は個人の問題ではありません。業務構造化の問題とも言えます。
まず押さえるべきは、経営者と現場では時間軸がまったく違うという点です。経営者の仕事場は外にあります。
・市場と向き合い、事業成長の機会を探ります。
・お客様に加え、競合、技術動向、業界の変化、金融機関。向き合う対象は広いのです。
・経営者の課題はすべて将来にあります。
・気付いたときには手遅れになる性質のものです。だから重要度が極めて高くなります。
・しかし、緊急度は低く、今日やらなくてもすぐ困らない。だから後回しになりがちです。
一方で現場の業務はどうでしょうか。
・納期、品質、安全。毎日、緊急度も重要度も高い問題が発生します。
・目の前のトラブルに対応しなければ、仕事は止まります。
・対応できなければ、経営者も現場に入らざるを得ません。
経営者が何かと指揮を取らなければならない現場では、次になるのです。
・経営者が現場に引っ張られる
・現場の問題処理に時間を使う
・将来に向けた仕事が後回しになる
一見、忙しく働いているように見えます。しかし、それは経営者にとって「作業」です。将来をつくる仕事ではありません。
この企業でも、同じ構造に陥っていました。工場での対応に追われるあまり、お客様からの技術的な試作トライアルの機会を何度も逃していたのです。これは、すでに起きている機会損失です。
さらに恐ろしいのは、「気付かない機会損失」です。
・気付かないうちに競合は新技術を導入していた
・気付かないうちに業界の流れが変わっていた
・気付かないうちにお客様の関心が他社に移っていた
・気付かないうちに新たな要望が生まれていた
現場で、これらのことに気付けません。現場にいる限り、気付くことすらできないのです。
だからこそ必要なのが右腕役となります。
・経営者に代わって工場を仕切る
・現場の問題を現場で完結させる
・経営者を現場から解放する
その結果、経営者は外に出られる。市場と向き合える。将来に専念できる。
では、そのために右腕役は何をやるのか。
・継続的なカイゼンで成果を出す
・新しい手順を定着させる
・収益につながる仕事のやり方に変える
・個人ではなくチームで回せる状態をつくる
つまり、仕事を回すのではありません。仕事の回し方を設計するのです。そして、生産性はこの設計で決まります。
ここを言語化していない会社では、右腕役は必ず迷うのです。「何をやればいいのか分からない」という状態になるのは当然と言えます。
右腕役の問題ではありません。経営者が役割を定義していないだけなのです。
●右腕役が役割を果たせるように環境を整備したか?
右腕役が機能するかどうかは、その人材の能力ではありません。経営者が、役割をどう設計したかで決まります。
右腕役に任せたいのであれば、任せられる状態をつくらなければなりません。
言い換えれば、「経営者の代わりに工場を回せる環境」を用意することです。その中核が4階層指示導線です。
・経営者は市場と向き合い、儲かる構想を描く
・管理する人はその構想を理解し、社長を支援する
・指示する人は経営者の構想を理解し、管理者を支援する
・作業者は経営者の構想を理解し、指示する人を支援する。
この流れが機能して初めて、工場は社長の判断基準で動きます。
同時に重要なのがボトムアップです。悪い情報が必ず上がる仕組みです。
現場で不具合を見つけたとき、「これくらいならいいだろう」と流すのか、「ここで止めなければ会社に迷惑がかかる」と判断するのか。この違いは大きい。
後者の判断ができる現場は、視線が上を向いています。社長や仲間を支援する視点で仕事をしているからです。
一方で、前者は下を向いています。自分の作業だけを見ています。この差が、会社の成長を分けます。
この上向きの視線は自然に生まれません。経営者の日頃の言動からつくられるものです。
・何を大事にするのか
・何を優先するのか
・どこで止めるのか
こうした判断基準を言葉にして、トップダウンで流しているかどうかです。ここが曖昧なままでは、右腕役も現場も迷い続けます。チームの力も埋もれてしまうのです。
この課長は、自ら問いを発しました。
「右腕役の仕事とは何か?」と。
これは非常に重要なサインです。任せられたい、支えたいという意思の表れです。
そして、その背景には、社長との日々のコミュニケーションがあります。だからこそ、視線は上を向いていました。
実践会を「お勉強会」にせず、リーダーシップを発揮し他のメンバーを引っ張っています。分からないことがあれば、直ぐに問いかけてくれるのです。こちらも一段と、熱が入ります。
チームに前向きの影響力を与えられる人材です。個の力の範囲にとどまらない、よい影響力を広く与えることができる右腕役と言えます。
経営者の日頃の仕事ぶりから、「姿勢」を学んだのでしょう。経営者が白羽の矢を立てたのにも納得できます。
しかし、その意思だけでは足りないのです。役割は「感じ取るもの」ではありません。経営者が設計し、伝え、指導するものです。
「右腕役の仕事を、言語化して伝えましたか?」
もし答えが曖昧であれば、今、現場で起きていることは偶然ではありません。業務の構造の結果です。そして、その構造を変えられるのは、経営者しかいません。
右腕役は自然と育つものではありません。右腕役は社長が設計した通りにしか、動けないのです。だから、曖昧な状態を放置すればどうなるか?
気付いたときには、お客様は別の会社を選んでいます。
経営者はなんとしてでも、右腕役に自分の代替役を果たしてもらわなければならないのです。全ては社長業に専念するための環境整備です。
右腕役の「指導」が大事であると申し上げている所以です。
ここの現場では、カイゼンを進めることと並行して、その課長に大手、中小現場で起きている事例を伝えていきます。感度の良い課長なので、具体的な行動に変換してくれるのです。
次は貴社が挑戦する番です!
成長する現場は、右腕役の役割が言語化されているので経営者が不在でも仕事を回せる
衰退する現場は、経営者の想い込だけで役割が個人任せになっていてチームが機能しない