「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第510話 経営者はなぜ根拠のある勇気を持たなければならないのか?

●勇気を持って決断して実行することが必要だと語った経営者

先日、定期訪問した消費財メーカー経営者が、こんな言葉を口にされました。

「勇気を持って決断して実行することが必要でした。」

 

この企業は、製販一体が機能しています。工場の日常業務は、製販一体チームが中心となって回しているため、経営者は現場に張り付き続ける必要がありません。

訪問時の話題も、目先の工場オペレーションではなく、今後の儲かる事業モデル、人材、次の打ち手といった将来の話が中心です。

当然、工場課題もあります。ですが、議論の中心は「足元」ではなく「将来」です。

 

 

昨今、多くの経営者が外部環境の大きな変化に直面しています。資材価格の高騰、調達難、先行き不透明な需要動向。数年前から続いていた変化が、さらに強まってきました。

何もしなければ、利益は目減りし、場合によっては受注があっても、製造できず儲からない状態に陥るかもしれません。

 

 

 

工場のことを製販一体チームに任せられる状況に至ったこの経営者は、以前から外へ出て情報を集めることに時間を割いてきたのです。市場の声を聞き、取引先の動きを見て、金融機関ともしっかり関係を築いてきました。

そのうえで、資金調達にも動いています。

 

手元資金を厚くすれば、非常時への備えになります。この経営者は売上が2割、3割落ちても耐えられる体力を持っておく。その準備を先に進めていました。知っているとやっているは別です。この経営者は「やれる経営者」です。

 

さらに、守りだけではありません。資材の先行購入、製品の強みを高めるレイアウト変更、外部情報収集を強化する先行投資も考えているのです。

手元資金が厚くなれば、ピンチはチャンス、攻められます。

 

 

 

先が見えない局面ほど、不安に引っ張られ、様子見に入る経営者も少なくないです。その結果、動く企業と止まる企業の差は広がります。

そうした中で、この経営者は「勇気を持って決断して実行する」と言い切りました。

 

誰でも簡単にできることではありません。しかし、この経営者は不確実性が高まっている今、この時に、あえて、腹に力を入れ、勇気を持って決断したのです。

 

勇気を持った決断は、経営者にしかできません。決断の対象が、全て、「経済的損失」を被る懸念のある事項だからです。

 

この経営者とはご縁があって、長年、一緒に仕事をさせていただいています。そして、その仕事ぶりを見ていて感じることがあるのです。

 

勇気ある決断とは、気合いや勢いだけで生まれるものではない。そこには、勇気を後押しする「何か」があるのではないかと。

その「何か」とは?

 

 

 

 

 

●勇気には、根拠のない勇気と根拠のある勇気がある

 

経営者の勇気には、二種類あると感じています。

ひとつは、

・根拠のない勇気

もうひとつは、

・根拠のある勇気

です。

 

創業時や新規事業の立ち上げ時、まだ実績も人材も資金も十分ではない局面では、最後に背中を押してくれるのは根拠のない勇気です。

「まずやってみよう」「何とかするしかない」との熱意による一歩を踏み出す力が必要な場面は確かにあります。

工場経営には、胆力が求められる時期もあるものです。

 

しかし、会社が軌道に乗り、従業員を抱え、取引先を持ち、守るべきものが増えていくと話は変わります。いつまでも気合いや勢いだけで決断していては危ういのです。

熱意だけの勇気は、一歩間違えれば、無謀な勇気、無策な勇気、思考停止の勇気になりかねません。

 

 

 

では、成熟した会社の経営者に必要な勇気とは何か。

根拠のある勇気です。

 

根拠のある勇気とは、将来に対する構想を持ち、その構想を言葉と数字で説明できる状態から生まれる勇気です。

たとえば、今この投資をすれば、三年後にどういう商品構成になるのか。今この人材採用をすれば、五年後にどの工程を内製化できるのか。今この設備更新をすれば、人時生産性はどう変わるのか。

beforeとafterで語れる勇気です。

 

つまり、勇気の正体は精神論ではありません。見えている未来の鮮明さです。言い換えれば、解像度です。

 

 

 

この経営者が、レイアウト変更など先行投資に踏み切れたのも同じです。

ただ不安だから動いたのではありません。その先に、より強い収益構造が見えているから動けたのです。守りの支出ではなく、将来へ向けた投資として判断しているのです。

 

この経営者は、自力と他力を組み合わせた儲かる事業モデルを考えています。

自社だけで完結させる発想ではなく、外部の力も活かしながら、何を売るか、どのように売るかを組み立てているのです。

将来投資とは設備だけではありません。商品、製品、サービス、販売方法、情報収集体制まで含めて、将来の儲け方への投資です。

対象が明確であればあるほど、将来投資は勇気の根拠になります。

 

 

 

ここで経営者が考えるべきことがあります。

「どう造るか」の前に、「何を売るか」「どう売るか」です。

商品・製品・サービスのどこに選ばれる理由をつくるのか。市場で勝てるやり方をどう築くのか。経営者の仕事場は工場の中だけではありません。製造業の事業モデルでは3つのフィールドがあります。

・市場(外)

・工場(内)

・製販一体(外と内の重なり)

この三つを見て、儲かる事業モデルを描くことが社長業です。

 

 

 

そして、その構想が頭の中だけにあるうちは、勇気の根拠にはなりません。言語化し、数値化し、誰が見ても分かる形にして初めて判断材料になります。

言語化、数値化しないかぎり、周囲からの協力を得られません。

さらに、目標年商、固定費規模、人時生産性、リードタイム工場平均、必要人員、利益率など、数字にまで落とし込めれば、迷いは減ります。

 

先が見通しにくい時代ほど、勇気を持った決断の場面が増えるのは明らかです。

だからこそ経営者には、根拠のある勇気が必要なのです。その土台になるのが、儲かる事業モデルを構造で語る力です。儲かる事業モデルは将来投資の対象となります。

 

 

 

 

 

●経営者は頭の中を言語化し、根拠のある勇気を持てているか

 

経営者の仕事は、決定と決断です。

そして、従業員は、経営者が決めた方針にもとづいて実務を進めます。右腕役や現場キーパーソンは、経営者の判断を現場で形にしていきます。

 

しかし、最後に責任を負うのは社長一人です。設備投資をするのか、採用を進めるのか、新分野へ踏み出すのか、価格改定をするのか。誰かが代わりに決めてくれることはありません。

 

それだけに、経営者は自分の頭の中を、そのもやもや状態のまま放置してはいけません。

頭の中にある構想を、言葉にし、数字にし、構造で語れるようにすることです。なぜその投資なのか。なぜ今なのか。何年後にどうなっていたいのか。

そこが曖昧なままでは、決断のたびに迷い、不安に引っ張られます。

 

逆に、頭の中が整理されている経営者は強いのです。

将来像があり、儲かる事業モデルの輪郭があり、そこへ至る道筋が見えている。だから外部環境が揺れても、必要な一手を打てます。勇気があるように見える経営者の多くは、感情で強いのではありません。準備が終わっているのです。

 

経験則ですが、応用力のある経営者ほど、この整理が上手いと感じています。

異業種の話からでも、自社に使える要点を引き出します。現場の小さな事例からでも、経営判断に必要な示唆を拾えるのです。

 

頭の柔軟性に富んだ経営者は応用力が優れていると感じます。

自分の業種や業務と完全一致した話でなければ使えないという思考では、現状維持です。知恵は増えません。

市場の変化が速い時代、外の情報を自社に置き換える力が企業間での差を生み出します。

 

 

 

そこで有効なのが、言葉の壁打ちです。

自分の考えを語り、問い返され、整理し直す。

議論を重ねるうちに、頭の中の曖昧さが消えていきます。見えていなかった課題に気づき、優先順位が明確になり、決断の精度が上がります。

 

ただし、受ける側の頭に柔軟性がなければ意味がありません。思い込みが強いだけでは、壁に球を投げても跳ね返ってこないのです。

 

今後、先行き不透明な局面はさらに増えるでしょう。勇気を持って決断する場面が増えます。だからこそ必要なのは、気合いではありません。根拠のある勇気です。

 

将来投資の対象は明確ですか?

儲かる事業モデルは言語化できていますか?

数字で語れていますか?

そして、頭の中を整理し、外の知恵を取り込み、決断の根拠を持てていますか?

 

もし、そこに迷いがあるなら、何か具体策が必要です。

これは経営者の仕事です。

次は貴社が挑戦する番です!

 

経営者の勇気は、儲かる将来像を言葉と数字で持つことから生まれる。