「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第123話 終わりよければ全て良し
出荷工程の生産性を計測できますか?
「出荷工程のフォークリフト業務をしっかり管理しなければなりませんね。」
中堅製造企業、経営者の言葉です。現在、品質管理体制の強化を中心に、生産管理の仕組みづくりを進めています。
生産性向上の前提条件として、安定した品質が欠かせません。将来、本格的に生産性向上活動に取り組むことを見通し、現場任せになっていた品質管理の役割分担の見直しや品質見える化に取組んでいるところです。
その経営者は、事業を成長させるのに現場の意識改革が必要であり、従来の仕事のやり方を変えなければならないと考えています。情報収集で外を知ることにも熱心な経営者です。
知り合いの経営者の紹介で、その経営者がある中小製造企業の現場を見学した時のこと。その経営者は、出荷工程の現場が整然としていることに気が付きました。出荷場のフォークリフトも決められたルートを走っており、右往左往している感じを受けなかったようです。
そして、印象的だったのは、そのフォークリフトの作業者が工場見学をしていたその経営者へ挨拶をしたことでした。一旦停止して、フォークリフトに乗ったままですが、「こんにちは」とお辞儀をしたというのです。
挨拶をしたフォークリフトの作業者の姿を目にして、その経営者は自社現場の状況を思い浮かべたと言います。
「工場見学に来てくれた顧客に安心感や好印象を与えられようになりたいですね。」とはその経営者の言葉。
「その時に感じた印象を是非、現場リーダー達へ伝えて下さい。」と伊藤は伝えました。
モノづくりが前のめりになればなるほど、いわゆる前工程へエネルギーを注ぐことになりがちです。固有技術と管理技術の2つで構成されているコア技術。
どちらも、付加価値額を積み上げる源泉には違いありませんが、どちらかというと固有技術に力点を置く経営者が多いのではないでしょうか?
製造業はモノづくりで飯を食べているわけですから、当然です。そこに強みを感じていなかったら、そもそも製造業を志していないでしょう。さらに、強みとする固有技術は前工程を構成していることがほとんどです。
そして後工程となる加工後の検査工程、梱包工程、出荷工程も重要であることに変わりはないですが、あくまで前工程の強みをサポートするのが役割です。それ自体が単独で強みになることはありません。
ですから、設備投資や改善活動の標的として前工程を構成する固有技術が取り上げられやすいのは自然なことです。ただし、儲かる工場経営を目指すなら、後工程にも、経営者の想いを込める必要があります。
中小製造現場が生き残りを掛けて、今後、徹底的に極めるべき2つの方針は、超短納期とマスカスタマイゼーションです。
なぜか?
市場が、顧客が、求めているからです。ですから、現場事情を優先して仕事をしているようでは、将来の顧客に選ばれることはないでしょう。これら2つの方針は、徹底した”顧客視点”に立脚したものです。
そこで、同様に生産ライン、製造現場を顧客視点で眺めたとき、顧客が気になる工程はどこだろうかと考えてみます。どこでしょうか?
検査工程や梱包工程、出荷工程、いわゆる後工程、製造現場の出口側を気にする顧客が多いはずです。多くの顧客は自分の製品の扱われ方を気にします。
指定された置き場に、丁寧に梱包され、表示もしっかりなされて置かれ、出荷を待っている状況を目にした顧客の現場に対する安心感、信頼感は高まるでしょう。
フォークリフトの動きも管理され、整然と仕事が進む様に、この現場には安心してお願いできると思うに違いありません。
顧客にとっての前工程は技術的な観点で興味が沸くところですが、後工程は商売をする上での安心感を感じたいところです。
かって、伊藤が中小現場の管理者時代、出荷工程の製品置き場を顧客別に区分して表示したことがあります。
直接、現場にまで製品を取りに来てくれる顧客あったという背景もありますが、こうした出口側での対応は好評でした。
工場のスペースをある程度確保しなければなりませんが、出口側をスマートにすることは結果として作業効率を高めることにも繋がりました。置き場が明確になっているわけですから、現場の手間も省けます。
検査工程や梱包工程、出荷工程の作業自体は、付加価値額の積み上げに直接関係がありません。しかし、顧客へ安心感を提供する大切な役割を果たします。
弊社ではしばしば、現場のアンテナショップ化を経営者へお伝えしていますが、こうした戦略ではまさにキモです。
後工程の業務を現場任せにしていませんか?また、納期遅れになりそうだ、生産量が増えて混乱している等、バタバタと仕事をしている状態を放置していませんか?
まずやるべきことは、現場の後工程に必要な業務を整理することです。
・検査工程、梱包工程、出荷工程で本当に必要な業務は何か?
・その業務に要する工数はどれだけか?
後工程も付加価値額生産性の分母の一部分を担う工程です。投入される人時工数を現場任せにはできません。いわゆる”間接工程”であるので、人手不足への対応は前工程よりも慎重さを要します。
ですから、まずは、現状把握のための分析からです。
後工程の規律も高め、付加価値額生産性向上への貢献も狙って統制すれば、先の経営者が感じたような印象を将来の顧客へ提供でき、新規顧客開拓に一役買うことは間違いありません。
挨拶をした作業者から受けた先の経営者の好印象は、長期間残るはずです。後工程も付加価値額生産性を高める対象で、その取り組みは、現場のアンテナショップ化にも繋がります。
モノづくりで顧客に選ばれるには、仕様や納期、価格という”理論的”な要因とともに、安心、信頼、印象という”感情的”な要因も重視されつつあるようです。こうした変化にも対応をしたいです。
成長する現場では、終わりよければ全てよし、後工程の付加価値額生産性を高めて、新規顧客に選ばれます。
現状維持にとどまり、今の仕事のやり方でいいと思い込んでいる現場では、後工程は人任せ、誰かがやってくれると考え、既存顧客を心配させます。
後工程の最適化に取組みませんか?