「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第124話 プロ意識
現場リーダーにはどんなプロ意識を持ってもらいたいですか?
「現場の作業者にはもっとプロ意識を持ってもらいたいです。」
不具合品の発生状況に対する現場リーダーの言葉です。その企業では、現場の品質水準を高める活動に取り組み始めました。
みなさんの現場でも、品質上、問題のある製品が見つかったら、関連職場を対象に勉強会等を開催することがあるのではないでしょうか?
現場の作業者に注意を促し、問題事例を頭の中にインプットして、再発防止を目指します。先の現場リーダーの職場でもそうです。
現場リーダー自身の判断基準で、「今回は現場へ伝えた方がいいな」と思われる事象を選択していました。これは問題だな、と感じた時に開くので、その勉強会は不定期開催であり、1~2か月に1回程度のペースです。
従来、このようなやり方をしてきましたが、不具合品の発生頻度が低下するわけでもなく、相変わらずでした。そこで新たな手を打とうということになり、まず現状の立ち位置を知る調査に着手したのです。
それまで、勉強会で不具合品の発生状況を伝達し、作業者へ、都度、対応策を教育していました。ただし、発生頻度などの数量的把握はなされていませんでした。
どのような水準の不具合がどれだけ発生しているのか?不具合の発生原因工程の内訳はどのようになっているのか?改善活動の初手は現在の立ち位置を知ること。
「標準のないところにカイゼンはない」というあれです。
そこで、発生した品質上の不具合を調査、分析して、品質水準の数値化、つまり見える化をしました。初めて定量的に把握できた品質不具合の発生状況を眺めて、現場リーダーが発した言葉が先のコメントです。
いくつかの現象は繰り返し発生していました。そこで、その現場リーダーは現場にはもっと自覚と責任感を持ってもらいたいと感じたのです。
万が一にでも顧客の手に不良品が届いてしまったら・・・・・、現場にはこのような想像力を働かせて欲しいわけです。そうしたら、不具合品を放置できるわけはないだろう・・・・。
ここでの「プロ意識」は「顧客視点を持つこと」とも言い換えられます。
自社製品が顧客に選ばれない限り、儲かることはあり得ないモノづくりにおいて、顧客視点が欠けていたらどうなるでしょうか?
自社製品を差別化するのに、品質、価格、納期、あるいは受注時やクレーム時での対応の仕方、あらゆることを徹底的に顧客視点に合わせることがキモです。
この現場リーダーは、品質クレーム時に客先まで足を運んで選別し、そこで手直しをしながら客先の担当者とやりとりをする経験を何度もしています。
そうした背景もあり、その現場リーダーは「顧客視点」の重要性を痛いほど理解しており、現場のひとりひとりにもそうなってほしいと願っているのです。そうなれば自然と不具合品も減るはずだ・・・。
その現場リーダーはこのように考えています。
一緒に仕事をしていて、その現場リーダーには別の意味での「プロ意識」を感じます。現場の豊かな成長のために事業の水準を次の段階へ高めようと戦略を練っている経営者の右腕役として、これからますます活躍してくれる人だろうと感じさせてくれるのです。
しばしばお伝えしていることですが、昨今のモノづくりは高度化、複雑化してあおり、技術、特にICT(情報通信技術)の進化も日進月歩です。モノづくりのデジタル化も加速されています。
製造現場のあらゆる業務をデジタル化する必要は決してありませんが、顧客に選んでもらう観点、および効率良く仕事をする観点でデジタル化への対応は欠かせません。
この流れに逆行するということは、スマホなどの携帯電話を拒否して、固定電話のみで商売に臨むようなものです。一部の特殊分野ではそれでも十分かもしれませんが、それにしても成長が限られるのは火を見るより明らか。
また、故無く従来のやり方に固執していると「取り残されている感」を感じることすら無いかもしれません。なぜなら、あらゆる情報やサービスがスマホなどの携帯電話で公開、提供されているわけです。
固定電話のみに固執していると、そもそも、そうした情報にも触れる機会がありません。井の中の蛙です。プラットフォームが違えばまったくそうしたことを知ることすらありません。
昨今の中小製造企業の取り巻く環境の難しさのひとつには、「知っている」と「知らない」あるいは「やっている」と「やらない」企業間格差の拡大があると感じています。
例えば中小製造企業の経常利益率は平均で2~3%ですが、これはあくまで平均での話。経常利益率上位25%の中規模企業の平均は約13%、下位25%の中規模企業の平均は約▲13%(出典:中小2015年版中小企業白書)。
その格差は広がりつつあります。2極化です。従来のやり方の固執していると、気が付いたら負け組になっていた・・・、これは絶対に避けなければなりません。
今後、ますます、外部環境の不確実性が高まる中で、中小の現場が生き残りをかけてやるべきことがあります。それは「変える」ことです。
顧客要望も標的顧客も変化します。競合も変化します。強みとしている固有技術も変化します。外部だけではありません。社内も少子化で新人の採用が難しくなっています。現場の年齢構成も変わります。
外部も内部も変化しているなか、特に外部に合わせて内部を「変える」ことが求められているのです。いつまでたっても現場の事情を優先させた仕事のやり方をしていては、早晩、顧客に選ばれない企業になるのは疑う余地もないことです。
先の現場リーダーは、まさに、この「変える」ことを先頭に立ってやっています。従来の仕事のやり方はやり方として、これから経営者の描く夢を実現させるのに、どう変えるかに挑戦しています。
みなさんの現場で頼りにしている現場リーダーの多くも技能で優れている人が多いのではないでしょうか?その現場リーダーも同じです。ある意味で職人気質です。
職人気質と言うと、従来の仕事のやり方に固執するイメージがあります。本来、職人の強みはそこに現れるので、そうしたこだわりがないと仕事を極められないというのは事実です。
ただし、外部環境の変化に合わせるために「変える」ことができないとなると、これは改革の抵抗勢力となります。
「ほんとうの職人」は発想が柔軟です。長年、染みついた仕事のやり方はすぐには変わらず、3歩進んで2歩下がり、4歩進んで3歩下がるような状況にはなります。しかし、今やるべきことへの理解力があるのも「ほんとうの職人」です。
こうした「ほんとうの職人」は外部からの意見や情報、教えに耳を傾けます。聞いて、まずやってみようとします。ここが似非職人との大きな違いであると感じています。
先の現場リーダーはまさにしく、「ほんとうの職人」です。ノリのいい方でもありますが、好奇心を持って伊藤が提案する仕事のやり方や情報に聞き入っています。「ほんとうの職人」がなぜ、外部からの意見や情報、教えを取り入れようとするのか?
それは、やり方を変えて現場を良くしたい、経営者の夢を実現させたい、やりがいのある職場にしたいという、成果を出すことに焦点を当てているからです。成果を出すためなら、外部の話も取り入れようと考えます。
成果を出すためには外部の力も生かそう、外部からの意見や情報、教えにも耳を傾けようという姿勢をとれる職人を「ほんとうの職人」と言います。これが、今後、経営者の右腕役に求められる「プロ意識」です。
優先されるのは、現場の事情や自分のこだわりでは無く、成果を出すことにあると理解しています。
モノづくりが複雑化、高度化するに従い、属人的な頑張りに代わってチーム力、連携力が現場の命脈を左右することは間違いありません。
外部環境が明らかに変化しているとき、自分だけでやれるからそれでいい、人からあれこれと言われたくないと従来のやり方に固執する似非職人の存在が許されるほど余裕のある現場は少ないはずです。格差拡大の2極化ましの時代ですから。
今後、不確実性の高まるモノづくり業という大海での航海を続けていくのに経営者の右腕役の現場リーダーの役割は大きくなります。
ですから、外部からの意見や情報、教えにも耳を傾けようという「プロ意識」を持った現場リーダーを育成しなければなりませんし、そのれは経営者の仕事です。
それには現場リーダーとの継続的なフェイス ツゥ フェイスのやり取りで想いを語り続けることです。
経営者の想いに共感した職人は、成果を出すことにこだわる「プロ意識」を持った現場リーダーになってくれることでしょう。
成長する現場では、成果にこだわるほんとうの職人が、外部からの意見や情報、教えにも耳を傾け現場を栄光の道へ導きます。
現状維持にとどまり、今の仕事のやり方でいいと思い込んでいる現場では、似非職人が従来の仕事のやり方を続け現場を衰退の道へ導きます。
現場リーダーとの継続的なフェイス ツゥ フェイスのやり取りをする仕組みをつくりませんか?