「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第125話 任せる
右腕役のメンバーに仕事を任せていますか?
工場長や現場リーダーへ仕事を任せていますか?
「3人で定期的に集まって話し合いをすることにしました。」
60人規模中小製造企業、スタッフの言葉です。その企業では、現在10数億円規模の事業を数年のうちに、大きく成長させようとしています。
しかしながら、仕事のやり方が従来ままでは、事業を成長させようとしても、いずれ行き詰まるだろうと経営者は考えていました。
従来、スタッフや工場長が取り組む業務のきっかけの多くは経営者の指示でした。指示した業務は確実にこなしてくれるものの、経営者は何か物足りない感じがしています。
その経営者は、トップ営業、国内業界および国外動向の調査など、社外での活動を積極的に進めたいと考えています。したがって、現場の仕事を自分の右腕役に任せられるようにしたいのです。
ですから、その経営者はスタッフや工場長からの自発的な提案を期待していました。自ら問題を提起し、その解決策も自ら探って欲しいと考えています。
そうした経営者の想いを受けて、スタッフや工場長が連携し、そうした仕事のやり方に挑戦しようと考えました。一人では荷が重いけれども、仲間と取り組めば、少々気が楽になるし、(文字通り)3人寄れば文殊の知恵にもなります。
その経営者の右腕役の人材が3名もいること自体素晴らしいことですが、経営者の想いを受けて行動を起こそうとする姿勢にも頼もしさを感じます。(だからこそ、その経営者は期待しているわけなのですが。。)
ご指導のテーマでもある品質水準のレベルアップをネタにした3人のキーパーソン達による定期的な打ち合わせが始まりました。自分たちで問題を見つけ、課題に変換、作業者を対象にした継続的な勉強会を計画しています。経営者が期待している自らの業務です。
現場を任された経営者の右腕役のメンバーは経営者の期待に応えようと少しずつですが進み始めています。「トロイカ参謀会議ですね。」とメンバーに声をかけているところです。
右腕役とは経営者の懐刀、参謀役です。経営者の期待に応えよう、外に誇れるいい会社を作ろう、こう言った熱い気持ちを持つメンバーが経営者の右腕役です。
こうした雰囲気は現場へ浸透していきます。現場の活気を生み出すのは右腕役の工場長や現場リーダーだからです。今後の成長が楽しみな現場です。
中小製造企業経営者が現場の豊かな成長を願い、事業を発展させたいと考えたとき、経営者の右腕役となる工場長や現場リーダーの存在が欠かせません。「工場経営の本質は他人を通じて自分の想いを実現させることにある。」からです。
事業を始めたばかりの頃、十数人で仕事を回しているうちは、経営者も自ら現場で汗をかき、従業員を直接に引っ張っていたことでしょう。
20人以下の規模であるなら経営者の目も行き届きます。現場も経営者の言動に直接に触れながら経営者の想いを理解できるのです。小規模であるなら、現場の中心に経営者がいます。
しかし、20人を超え、30人、50人、100人と中規模、中堅企業と成長するにしたがって、その仕事のやり方を変えなければなりません。
なぜか?
理由は簡単です。経営者の目が行き届かなくなるからです。
組織規模が大きくなると、経営者が全てのことに直接関与することは難しくなります。「任せる」という仕事のやり方を導入する必要に迫られるのです。
プレーイングマネージャーから本来のマネージャー、経営者の役割を果たすことが求められるとも言えます。これは事業を成長させる中小製造経営者が必ず直面する課題です。
逆に言うと、こうした課題を直視せず(知ってか、知らぬか)、昔のままの仕事のやり方で今も事業を続けているとしたら、それは事業が成長していない証左です。
それはたまたま運良くそうしたやり方で継続できていただけであり、早晩、顧客の変化(値下げ交渉、短納期化、小ロット化・・)へ対応しなければならなくなった時、行き詰るのは火を見るより明らか。
属人的な仕事のやり方のままでは、生産の流れが悪くなり、現場にはひずみが生じるのです。これは動機づけの上でも看過できない問題です。
事業を成長させる経営者は「任せる」仕事のやり方に腐心しています。そして、ここで重要なのは「任せる」と「丸投げ」の違いを知ることです。
「任せる」とは、経営者が仕事の目的、役割分担、納期を現場へ伝えた上で、その過程と結果をフォロー・評価することです。
経営者と右腕役とのやり取り、意見交換、コミュニケーションで構築された信頼関係の上に成り立つのが「任せる」であることは言うまでもありません。そうして、経営者は直接業務にかかわることはありませんが、経営者の想いが浸透した現場ができあがるのです。
先の企業の経営者とトロイカ体制を組んだメンバーとの間には事業承継後の苦労を共にした仲間意識に基づく、厚い信頼関係がありました。
仕事の上での「パーソナル」な関係もなければ「任せる」ことはそう簡単にできるものではありません。コミュニケーションが重視される所以です。
一方、「丸投げ」は、文字通り、丸投げなので「よきに計らえ」状態で、仕事の過程を気にしていません。
現場は勝手にやります。あるいはやらざるを得ません。その結果、経営者の想いが浸透するどころか、浸透するのは現場で仕事を采配するベテランの考え方です。現場にはそのベテランのコピーが知らず知らずのうちに増えます。
不満や不平もコピーされるでしょう。ベテランの知恵や経験を間違った方向へ生かす事態に至ることは避けないといけません。ベテランも不幸な気持ちを感じるのは明らかです。皆さんの現場ではいかがでしょうか?ベテランが抵抗勢力になる懸念はないでしょうか?
そもそも、人間、経験を積み、年を重ねるにしたがって「変える」こと自体に抵抗を感じます。それまで、自分なりのやり方で良かれと考え仕事をしてきたベテランであるならなおさらでしょう。
ですから、もし、仕事のやり方が「丸投げ」となっている現場では、経営者が先頭に立って、「任せる」仕事のやり方に変えることが欠かせないのです。過去は過去、気が付いた今からです。ベテランの気持ちを奮い立たせて下さい。
事業を成長・発展させるには、経営者は経営者の業務に専念することが求められます。現場業務を兼務しながらの社長業はあり得ません。プレーイングマネージャーから本来のマネージャー、経営者の役割を果たすことです。
右腕役のメンバーに熱く想いを語り、「任せる」仕事のやり方の構築に挑戦してください。経営者の仕事は、仕事の目的、役割分担、納期を現場へ伝えた上で、その過程と結果をフォロー・評価することです。信頼関係がベースにあります。
成長する現場では、任された仕事をチームでこなし、経営者へ成果を報告する。
現状維持にとどまり、今の仕事のやり方でいいと思い込んでいる現場では、丸投げされた仕事を抱え、不満を抱く。
「任せる」仕事のやり方を構築しませんか?