「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第132話 大手水準を目指す

現在の仕事のやり方の延長線上に、夢の実現は無いと気づいていますか?

 

「価値を生む作業の時間をもっと増やすことです。」

今年から、付加価値額積み上げの見える化に取り組み始めた現場リーダーの言葉です。

大手製造現場の付加価値額人時生産性が6,500円であるのに対して、中小のそれは3,600円であることを当コラムでもご紹介しました。

そのことを先の現場リーダーへ説明したところ、「えっ?」という表情をした現場リーダーです。そんなにも差があるのかという驚きの表情とともに、「ほとんど半分ですね。」という言葉も返ってきました。

 

さらに、「中小が大手の水準に近づくことはできると思いますか?」と問かけたときのリーダーの答えは下記です。

「いろいろとやってみればできるのではないでしょうか。」

挑戦することを大いに奨励している経営者の右腕役だけに発言が前向きです。具体的に、何ができるかを議論していたとき、先の言葉がありました。

 

その現場には設備が工程順に並んでいます。ホイストで製品搬送しており、自動搬送設備ではありません。工程間を同期させるのはペンダントを操る作業者の仕事です。

つまり、生産の流れづくりに作業者の裁量が反映されます。そうしたことも踏まえると、まだまだ、作業者の主体作業時間を増やす余地があるとそのリーダーは考えたのです。

「価値を生み出す仕事のやり方を徹底すれば、1日あたり、無理なく、1~2ロット分の材料を追加投入できるかもしれません。」

 

その現場の1日当たり製造ロット平均数は50ロット程度ですから、2ロット加えれば、4%の付加価値額を上乗せできるのです。この分、丸儲けとなります。

価値を生む時間を現場でかき集め、それを付加価値額の積み上げにつなげることの重要性を理解している経営者ならさっそく現場へそうするよう指示することでしょう。

この現場でも、付加価値額積み上げの見える化に取り組み始めました。

 

経営者の意向を受けて、この右腕役のリーダーが現場を引っ張り、仕事のやり方を変えて、付加価値額の上乗せをしてくれそうな手ごたえを感じます。

現状の固定費を生かした付加価値額の上乗せですから、生産性アップです。

 

 

 

 

 

中小製造現場の付加価値額生産性、いわゆる労働生産性が大手の55%程度にとどまっている事実は頭に入れておきたいことです。

この事実をどのようにとらえますか?

大手だからそれだけことができるのだ、単価アップができれば儲けも増えるがそんなことはできない、という声が聞こえてきそうです。

ご指導やセミナーで「単価を上げることはできない」という経営者の言葉をしばしば耳にします。

 

大手と中小の現場を経験しているだけに、そうした言葉の意味するところは理解できますし、中小の現場管理者のときに直面した価格交渉時のたいへんさは今でも覚えています。

半端な対応で単価アップを顧客に納得してもらうことはできません。当時の仕事のやり方の延長線上では、さらなる付加価値額の積み上げは難しかったという現場事情もありました。

ですから、「単価を上げることはできない」という”弱音”もよく理解できるのです。

 

ただ、そうであっても、これから従業員の豊かな成長を実現させ、少しでも多くの給料を払ってあげたいと考えるなら、付加価値額を今よりも多く積み上げるか、あるいは効率よく積み上げるか、どちらかを実践するしかありません。

ですから、中小も大手の水準を目指すのです。現在の仕事のやり方の延長線上に、大手の水準は無いと認めるところからになります。

「単価を上げることはできない」という経営者へ、「これまでとはやり方を変えた仕事の領域で単価アップに挑戦しましょう。」とエールを送りたいです。

 

 

 

 

 

弊社のご指導では、今の仕事のやり方の延長線上での単価アップを目論んでいるわけではありません。おそらく皆さんの既存製品、既存設備、既存生産ラインでは、長年、かなりの改善活動をすでにやられたきたでしょうし、その自負もあるでしょう。

実際、製造業は、生産性向上、改善活動が他業種よりも積極的にやられている業界とされています。製造業の労働生産性が大手も中小も、卸売業・小売業や宿泊業・飲食サービス業のそれと比べて、上回っているのが証左です。

 

ちなみに卸売業・小売業と宿泊業・飲食サービス業、それぞれの付加価値額人時生産性はおおよそ下記です。

卸売業・小売業

大手 3,800円

中小 3,500円

宿泊業・飲食サービス業

大手 1,900円

中小 1,800円

(出典:2018年版中小企業白書)

だから、これまでとはやり方を変えた仕事の領域を考えたいのです。当然、これまでやってきた仕事の延長線上で付加価値額を積み上げるのに見落としていたこと、やり残したことがないかを確認することが先にあります。

 

 

 

 

 

 

経営者が付加価値額のさらなる積み上げを決断したら、次の2段階を考えてください。

1)まず、現状の延長線上での忘れ物、落し物がないかの確認

2)その後、付加価値額を積み上げる新たな仕事のやり方の創出

単価アップなどをめざす2)の前に、まずは、1)です。具体的には先の現場リーダーも言及していた主体作業時間率を高める余地があるのか、ないのかの確認です。

 

ワークサンプリング法は主体作業率を計測する手段のひとつであり、ラフでもいいので一度やられることをお勧めします。

主体作業を定義するところからですが、就業時間に占める主体作業時間の割合の低さに作業者も驚くはずです。

 

伊藤も中小現場の管理者時代、金属加工職場を対象に実施したことがありますが、その時ほとんど50~60%程度でした。

これは作業者の怠慢でもなんでもなく、これが”普通”であるとの認識が共有されている職場だったということです。

 

そこへ、主体作業時間に焦点を当てて、この時間が占める割合を増やそうという具体的な数値目標を掲げれば、現場の意識は変わります。

主体作業時間の割合を高めることが自らの評価UPにつながると理解すれば、現場も主体作業時間をどうすれば増やせるか考えるのです。作業のムダ取りをやる必然性が出てきます。

まずは、こうした観点で、付加価値額を積み上げる上での忘れ物、落し物がないかを確認して下さい。

 

1)の段階はもうやりつくしたという現場もあるかもしれません。あるいは、1)を検討する余地があることはわかっているが、効果が限定的であると感じている経営者もいるかもしれません。

こうした経営者、経営幹部が、しばしば「単価を上げることはできない」と口にされるように感じます。

 

当然です、現状の仕事のやり方の延長線上で、付加価値額を”さらに大きく”積み上げるのは難しいからです。生み出される価値の量と労働時間とが比例する現場での特徴でもあります。

改善活動、生産性向上活動、多能工化も含め、あらゆることをやった現在、この後に、どれほど単位作業者あたりの主体作業時間を増やせるだろうか。。。。。。。

こうした段階でしたら、ここで2)へ移行するのです。皆さんとは、1)の重要性を確かめつつ、今後は、2)に焦点を当てます。

 

 

 

 

 

現在の仕事のやり方の延長線上に、大手水準の生産性は無いと認めるところからです。現在、ご一緒に仕事をしている経営者が現場で目指す状態を次のように語っていました。

「作業者は機械に使われるのではなく、機械を使いこなせ。人は楽して機械に稼がせる。」

いい得て妙です。まさに2)の発想になっています。

 

作業者が各自、NC旋盤、マシンニングセンタなど、自動運転機能を有する設備を担当している職場です。

自動機ですから、自動ボタンを押せば1サイクル完了までは自動であり、この間、作業者は設備の稼働に関与しません。

 

汎用旋盤のような”人馬一体型”の設備ならば作業時間=稼働時間=価値創出時間です。

しかし、自動運転機能を有する設備の場合、同じではありません。設備を操る作業者の作業時間とその設備の稼働時間との紐づけは緩やかになります。

つまり自動運転機能を有する設備は稼働することで価値を創出していますが、その間、作業者の貢献度は低いということです。

自動運転機能を有する設備は、文字通り”自動”ですから、人馬一体の必要性がありません。ですから、2)へ移行した現場では作業者の仕事の質が問われてくるのです。

 

 

 

 

 

単純作業は機械に任せて、作業者は新たな価値を生み出す仕事をせよと先の経営者は考えています。こうした経営者の思いが浸透すれば、仕事のやり方が大きく変わり、儲かる工場経営を実践できそうです。

では、2)において、具体的に、どんなことが考えられるでしょうか?

設備間の連携や連動という課題はありますが、たとえば。。。。。。

 

・作業者全員の役割分担をプログラム担当と工程担当の2つに集約する。

設備を稼働させる作業者が協働で工程管理を担う体制を作り、特急、突発、変更への対応をあたりまえにできるようにします。プログラムの専任化して効率を高めます。

 

・職場を工程別ではなく、商品群別(顧客別)で編成する。

全従業員が全ての設備を稼働させるスキルを身に着ければ、顧客視点、タテ連携のチームをつくれます。

 

・全員が見積もりスキルを身に着ける。

顧客からの問い合わせに、いつでも、どこでも、即、その場で見積もり回答できます。圧倒的なリードタイム短縮はお金を生み出します。

 

これらは、中小の現場管理者時代に考えたことです。前述のように、その現場での仕事のやり方の延長線上には、付加価値額を追加で積み上げる作戦を描けなかったからです。

ただし、当時、これらを実現させる取り組みはできませんでしたし、今も、簡単に実現できるとは考えていません。だからこそ、経営者が先頭に立って挑戦することなのです。

 

これからの中小製造現場で付加価値額をさらに積み上げようと考えるなら、成果を労働時間で計測するような仕事は機械に任せることになります。

作業者は成果を労働時間で計測できない仕事に従事するのです。単価をアップさせるのは、2)に移行する必要があることに現場も気づく必要があります。

 

トップが決断しているにも関わらず、「うちの現場に問題はない」、「今の仕事のやり方でいい」と言っているリーダーがいたらそれは論外でしょう。

そのリーダーは知ってか、知らぬか、自分の部下の給料を少しでも上げてやりたいと考えている経営者の想いに反対していることになるからです。

経営者は考え違いをしているリーダーに、なぜ、仕事のやり方を変える必要があるのかを理解させる必要があります。

2)では「想像力」と「創造力」が問われるのです。

 

 

 

 

 

弊社が願うのは「顧客に選ばれる製品を効率よく造る」現場を実現させることです。儲かる工場経営で付加価値額をドンドン積み上げられ、それが将来投資の原資になります。無い袖は振れるようにしなければ、豊かな成長戦略も絵に描いた餅です。

1)まず、現状の延長線上での忘れ物、落し物がないかの確認

2)その後、付加価値額を積み上げる新たな仕事のやり方の創出

成果を付加価値額生産性で計ります。

 

大手の水準を目指すには、現在の延長線上に答えは無いと認めるところからです。大手にできることですから、中小にもまだまだ挑戦する余地があると弊社は考えています。先に示した、付加価値額人時生産性の大手と中小の差は、中小が挑戦するべき余地なのです。

これからも弊社は挑戦する経営者の後押しをして参ります。

 

・成長する現場は、現在の仕事のやり方の延長線上に目指す状態がないことを知っている。

・現状維持にとどまり、今の仕事のやり方でいいと思い込んでいる現場は、現場に問題はないと考える。

現場にも、時間で成果を評価されない仕事に従事してもらう仕組みを作りませんか?