「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第156話 原価

現場活動が価格設定と紐付けられていますか?

 

「回収すべき固定費とは製造コストのことなんですね。」

中堅金属加工メーカー経営者の言葉です。現在、現場活動と価格設定を連動させるしくみづくりに挑戦しています。

 

儲かる価格設定体系を構築するとき、多くの経営者が直面する「壁」のひとつが「レート(賃率)」です。レートの考え方を自社の価格設定体系へ当てはめるのに知恵を絞ります。

 

先の経営者も多くの経営者と同様、自社現場の実態に適したレート設定に試行錯誤しました。「ここがヤマです」と伊藤も事例を提示しながら最適解を探ります。

思考と検討を重ね、式や図で原価や価格の構造を明らかにしていくにつれ、理解が深まってきました。

レートの考え方が固まりつつあったある時、独自の価格設定体系に、腹落ちする瞬間があったようです。それが先の言葉です。

 

儲かる価格設定のやり方に唯一の答えはありません。考え方の原理原則はあります。ただし、原理原則の活かし方は、当然ですが、業種業態で異なるのです。

それ以上に、経営者の意思が大きく反映されます。事業の特性や現場の特徴を踏まえて、儲かる価格を設定するやり方を体系付けるのです。

その体系は、経営者の事業にかける想いや意図に他なりません。ご自身で頭に汗をかきながら構築した体系は最強です。

 

 

 

 

 

固定費を健全に成長させる将来投資固定費戦略では、儲かる価格設定の体系が欠かせません。固定費を回収する付加価値額は、そのほとんどが価格で決まるからです。価格設定後の現場活動でも、付加価値額を積み上げられますが、限りがあります。

 

”富士山”水準の付加価値額を積み上げたかったら、”富士山”水準の価格が必要です。価格は”裏山”水準なのに、現場活動で”富士山”級の付加価値額を積み上げろと言ってもできるわけがありません。

 

IEや5S、赤札作戦など現場活動のスキルは多種多様ですが、それらのスキルが「儲け」につながるか否かは、現場力が価格力と連動するか否かによります。現場力が如何なく発揮されるのも価格力あってのことなのです。

これが価格力を重視する所以であり、弊社のプログラムの前半戦で「製販一体儲かる価格設定実務」をやるのには、そうした背景があります。

 

 

 

 

 

さて、貴社では、製品毎の原価を把握しているでしょうか?原価の把握抜きに、儲かる価格は設定できません。そして、原価は、一般に下記で表されます。

総原価=製造直接費+製造間接費+販管費

※製造直接費=直接材料費+直接労務費+直接経費

※製造間接費=間接材料費+間接労務費+間接経費

 

直接費は文字通り生産された一定単位の製品との関連でその発生が直接的に認められるものです。木製机の原材料である木材や時間給で働く従業員、外注先などの各種費用。これらの費用を製品1個当たりのコストで評価するのは比較的、容易です。

一方、間接費はそうはいきません。全社に共通な研究開発費や教育費、修繕費など。そこで、出てくるのが「配賦」の考え方。これが原価把握の敷居を高くしています。

 

配賦ルールを決め、そして、状況変化に応じて、そのルールを変えながら、組織的な原価計算を継続できるなら、このやり方でもいいでしょう。しかし、中小現場にとって、このやり方は負荷が大きいです。

柔軟性、機動性、小回り性を身上とする中小製造現場でやろうとすると、配賦基準が目まぐるしく変わります。複雑で手間暇が掛かるのです。

 

原価評価は価格設定に欠かせないので重視したいのですが、原価評価や価格設定そのものに多くの時間を割きたくありません。

中小現場では、「儲かる価格を設定しやすくする活動」、つまり生産性向上の方に時間を割きたいのです。

 

 

 

 

 

総原価をシンプルに考えます。

@変動費+@投入固定費 (@は製品1個当たりという意味)

 

@変動費は材料費や外注費、場合によっては残業費、昨今は運賃にも注目です。

そして、@投入固定費で、製品1個当たりに投入される固定費を明らかにします。固定費の大部分は従業員の給料です(当然、経営者ご自身の給料も含みます)。

さらに、研究開発費や教育費などもあります。これらの固定費は生産活動に無関係に発生するものです。

 

したがって、製品1個当たりに換算すること自体、そもそも、無理があるわけですが・・。そこで、改めて、固定費が利益へどのように貢献しているかを考えます。

固定費は生産活動の原動力です。

(1)固定費を生産現場へ投入→(2)生産活動→(3)原価の発生

 

この後、製品を販売して売上を獲得すれば、付加価値額で固定費を回収できます。固定費は投入されて、原価となり、最終的に回収されるのです。シンプルに考えます。

冒頭のコメントはこの一連の流れのことです。配賦というめんどうな考え方を省けます。

 

 

 

 

 

(1)固定費を生産現場へ投入→(2)生産活動→(3)原価の発生

・(1)と(3)は金額

・(2)は時間

投入された固定費(金額)を時間で評価される生産活動と紐づけし、原価(金額)を算出します。投入される金額と生産活動時間を紐付けるのがレート(賃率)です。

 

そして、原則、固定費を投入する主体は下記です。

・工場の設備

・工場の人

それぞれ、マシンレートとマンレートと呼ばれます。

 

固定費を健全に成長させ、それを回収していくのが将来投資型固定費戦略です。したがって、レート算出(投入固定費÷総稼働時間or総実働時間)の分子は”固定費全額”としています。原価の実力値が明らかにできるからです。

 

また、儲かる価格は@変動費+@付加価値額から構成されます。

ですから、総原価と儲かる価格の構造を知れば、現場活動でやるべきことが見えてくることに気付かれるのではないでしょうか。

 

こうなれば、IEや5S、赤札作戦など、現場活動のスキルも、価格設定と無関係ではいられません。先の経営者が腹落ちしたのは、現場活動が価格設定と紐づけられると気が付いたからです。

 

 

 

 

 

独自の価格設定体系を持つということは、現場活動→価格設定→固定費回収で、付加価値額を積み上げて利益を獲得する「宝島への地図」を手にするようなものではないでしょうか?

儲かる工場経営では、紆余曲折する場面も少なからずあるでしょうが、判断基準があれば、宝へ向かう方向を見失いません。

 

独自の価格設定体系は、経営者に代わって、現場へ判断基準を提供します。

独自の価格設定体系は、経営者の事業にかける想いや意図に他ならないからです。

 

また、独自の価格設定体系は、現場活動のベクトルを揃えます。

儲かる価格を設定しやすくすることこそが現場活動の目的だからです。

 

そして、独自の価格設定体系は原価の把握抜きには語れません。

 

「利に合えば而ち動き、利に合わざれば而ち止まる」

好き嫌いで判断する現場を卒業できます。すべては固定費を健全に成長させたいからです。

判断基準を「利」に置ける現場は、「固定費を健全に成長させる」意味を理解しています。

 

・成長する現場は、儲かるか儲からないかで判断する。

・停滞する現場は、好き嫌いで判断する。

価格設定の体系を構築して、現場活動と紐づけませんか?