「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第221話 中小製造企業の差別化集中戦略とは?
「売上高が減る一方です。事業の立て直しを図らなければなりません。」
先週の個別相談で伺った小規模機械加工企業、経営者の言葉です。
典型的な下請け型のビジネスモデルです。先代から事業を引き継いだ3代目経営者は売上高の減少に歯止めを掛け、復活しようとしています。
まずは、現場の体制強化が必要だと考えました。工場長以下、管理者や現場のベクトルを揃えなければ復活も絵に描いた餅になってしまいます。
経営者の考えや意図を現場に浸透させなければなりません。管理者育成と人時生産性向上のプロジェクトです。
「内」の仕組みづくりをやる前に検討すべきことがあります。「外」の取り組みです。そもそも儲かる事業モデルになっているか?
「内」ばかり磨いても儲かりません。「外」と連動して「内」を変えます。コア技術を明らかにすることからです。
マイケル・ポーター氏は企業の競争戦略を3つに類型化しました。
経営戦略での有名な論点です。
・業界全体を対象として、低価格で優位性を構築する戦略(コストリーダーシップ戦略)
・業界全体を対象として、製品やサービスの差別化で優位性を構築する戦略(差別化戦略)
・特定の狭い領域を対象とし、低価格、若しくは、差別化に向けて資源を集中させる戦略(集中戦略)
さらに集中戦略は、コスト集中戦略と差別化集中戦略に分けられます。したがって、競争戦略は下記の4つです。
・コストリーダーシップ戦略
・差別化戦略
・コスト集中戦略
・差別化集中戦略
貴社はどの戦略で持続的な競争優位性を確立しようとしていますか?
中小製造企業が取り組んでいる競争戦略の割合は下記です。2,286社を対象にしています。東京商工リサーチによる「中小企業の付加価値向上に関するアンケート」の結果です。
・コストリーダーシップ戦略 4.3%
・差別化戦略 24.2%
・コスト集中戦略 11.8%
・差別化集中戦略 59.7%
(出典:中小企業白書2020版)
中小製造企業の6割は特定の狭い領域を対象にして差別化をはかろうとしています。一方、価格競争に挑んでいる中小製造企業も16%あるようです。
製造業大企業の定義は「資本金3億円を超える」、あるいは「従業員300人を超える」ですから、定義上、大企業に近い中規模企業が規模の経済を活かしていると推察できます。
価格競争は体力勝負です。関連市場での競争が低価格競争に移行したら、価格競争を回避するため、新たなフィールドを探さないと辛くなります。
中小製造経営者は常にアンテナをはり、時代の流れを読まなければなりません。経営者の仕事場が「外」にある所以です。
その意味で、85%程度が差別化戦略であるのは必然的な選択であり、さらには、6割が特定の狭い領域を対象にしています。
勝つための当然の選択です。貴社では勝つためにどんな特定の狭い領域を選択していますか?
差別化集中戦略での選択肢はコア技術と市場です。ここで、自動車産業向けプレス加工に特化して事業を展開している企業を考えます。
・コア技術はプレス加工。
・市場は自動車産業向け。
事業を成長させる選択肢は次の2つです。
●コア技術の多様化
塗装技術と組立て技術を加えて、プレス製品を製造できるようします。
●市場の多様化
自動車産業だけでなく、他業界へも市場を広げます。
したがって、現行を起点にした差別化集中戦略
現行 コア技術のプレス加工で自動車産業を攻める。
選択1 コア技術のプレス加工で他業界も攻める。
選択2 塗装技術と組立て技術を加えて、プレス製品で自動車産業を攻める。
少数精鋭の中小製造企業が考えるべき事業戦略は選択1です。コア技術のプレス加工を圧倒的に深耕させ、他社を凌駕する水準に引き上げながら、多様な業界のお客様と商売ができるようにします。
コア技術を選択した後、技術は集中させ、お客様を分散させるのです。選択と集中、そして分散です。自動車業界一辺倒では「生殺与奪の権」を自動車業界に握られます。
昨今、自動車業界に関連した企業様の業績は2極化しているようです。
「先生、仕事が激減しました~!」という企業様がある一方で「順調に受注を確保できています。」という企業様もあります。これはお付き合いしているお客様次第です。
そこに自らの決定権はありません。自動車産業以外の食品製造業界や汎用機器製造業界、電器機器製造業界など、自動車業界以外の市場も取り込めばリスクを分散できます。
選択2は選択1の逆です。選択と分散、そして集中。プレス加工の他に塗装技術と組立て技術を新たに取り入れなければなりません。技術習得のコストが重くのしかかります。
加えて、市場は相変わらず自動車業界です。新たな技術をなんとか操って、プレス製品ができるようになったとしても、競合が多数、待ち構えています。レッドオーシャンです。もともとプレス-塗装―組み立ての一貫ラインを持つライバルもいます。
私達は技術の世界で戦っています。そして、その技術は進化を加速させています。生き残りを掛けて、技術を使いこなそうと競合も必死です。
したがって、技術開発を怠り、現状維持に始終している製造企業はその規模に関係なく生き残れません。技術力を高めなければ、持続的な競争優位性を確立できないのが製造業です。
会社の規模に関係なく技術を進化させないと生き残れません。したがって、現行のコア技術を深耕させるだけでなく、コア技術を軸に技術領域を広げる取り組みも欠かせないのです。
いわゆる開発業務です。
選択2はコア技術の分散になります。技術習得のコストが重くのしかかることでしょう。製品でも新たな競合が待ち構えています。
ただし、そもそも「技術力」で戦うのが製造業です。新たな技術に挑戦し、競争力を高め、市場選択の幅を広げます。これは開発戦略です。
技術の進化を機会とするか脅威とするか。これは開発戦略次第です。少数精鋭の中小製造企業は選択1と開発戦略の組み合わせで考えます。
中小製造企業の事業方針は、原則、「コア技術を選択した後、技術をコアに絞り深耕させ、多様なお客様とお付き合いできるようにする」ことです。選択と集中、そして分散。少数精鋭の中小製造企業の生き残り戦略です。
ただし、コア技術を広げる開発戦略も忘れてはなりません。技術の進化を機会とするためです。開発業務の経営資源確保も必要となります。だから、人時生産性を高めるのです。
そこでは、管理者は時間を味方につける仕事のやり方を学ぶ必要があります。経営者の思考回路を共有できれば、経営者の仕事が楽になりませんか?
ロードマップとプロジェクトで将来の幹部を育成するのです。
冒頭の経営者はコア技術で新たに開拓できそうな顧客の検討に着手しました。一方で、「外」で頑張る経営者を支援するために、仕事の流れを変えて、自律性を強化することが現場の課題です。「外」と連動させて「内」を変えます。
次は貴社の番です!
成長する現場は、技術をコアに絞り深耕させ、お客様を多様化させる。選択と集中、そして分散。
停滞する現場は、技術を無計画に広げ、お客様を絞って依存度を高める。選択と分散、そして集中。