「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第222話 経営者がロードマップで事業を躍進させられる3つの理由
「ちょっと時間が掛かってしまいましたが、やっとできあがりました。」
ロードマップを完成させた30人規模電子部品メーカー、経営者の言葉です。
5月に着手しました。コロナ禍で売上が減少しています。受注確保に奔走しながらの仕事でした。ただし、ロードマップを作成しても、今日の売上高は増えません。
それでも「重要度は高いけど、緊急度が低い業務」に挑戦しました。「そもそも、こうして苦労しているのは、今までのやり方に問題あるからです。現場を変えなければなりません。」と言いながら半年間、試行錯誤して手にした成果物です。
問題が起きる度に、都度、すったもんだする「モグラ叩き式」から解放されたいとの強烈な思いがありました。このままでは、いつまでたっても楽になりません。
「大手のイイどこ取りと言っても、元々、それを知らないので先生のアドバイスがなければできませんでした。」とは経営者の言葉。時間を買ってロードマップを手にした経営者です。
戦略抜きの戦術は行き詰まります。現場活動の実務を急ぐ経営者もいますが、結局、壁に当たると感じます。現場活動の理論的裏付けは生産管理3柱です。これらは「お作法」です。観点、論点さえ外さなければやることは見えてきます。
しかし、現場活動は一筋縄ではいきません。「人」次第、「チーム力」次第です。ベクトル揃えを丁寧にやりたいのです。
「お作法」だけで結果は出ません。ロードマップで人時生産性向上の論点やゴールも共有したいのです。遠回りのようですが、戦略からスタートした方が、結局、コミットメントを高めます。
伊藤自身も中小現場で実感したことです。ロードマップは現場を動かすリーサルウェポンです。有益な道具に会社の規模は関係ありません。
経営者がロードマップで事業を躍進させられる理由
1.経営者の言葉を後押しする道具が欲しいから
2.失敗は成功のもとではないから
3.時代のうねりを読みたいから
ロードマップを使えば、できそうでできないこと、分かっているけどできないこと、やりたいけどできないことを進められます。伊藤もそうでした。大手や中小で結果を出せました。
●経営者の言葉を後押しする道具が欲しいから
経営者の仕事場は「外」です。「内」にありません。経営者は「内」を現場に任せる必要に迫られます。「社長が不在でも回る現場」に変えなければ生き残れないのです。
経営者の構想を現場に理解させ、浸透させます。ベクトルを揃えるためです。
経営者は繰り返し語ります。朝礼で、昼礼で、夕礼で。工程会議で、品質会議で、収益会議で。繰り返し、繰り返し、繰り返しです。経営者の「言葉」が現場を変えます。
言霊(ことだま)という表現があります。日本は言霊の力によって幸せがもたらされる国であると、万葉集や古事記に記述されているようです。
昔から、声に出した言葉が、現実の事象に対して何らかの影響を与えると信じられ、良い言葉を発すると良いことが起こり、不吉な言葉を発すると凶事が起こると考えられてきました。
昨今、SNSで問題になっている誹謗中傷の類いを思い浮かべれば納得できます。誹謗中傷を耳にしてやる気が出る人はいません。負の力です。
その逆を考えれば「社長の言霊」の重要性が分かります。チームのベクトルを揃えるのは「社長の言霊」以外ないのです。
ただし、経営者は不在がしばしばです。外を飛び回り、姿を見せることがまれな場合もあります。そこで欲しくなるのがロードマップです。
経営者の構想を文字や数字、文章、図表で表しています。明文化されたものや図表は現場を動かす力があるのです。
伊藤は中小現場で中途入社の管理者を経験しています。役割を担った時点で、実績があるわけではなく、顔も効きません。それでも赤字職場を黒字化しなければなかったのです。現場を納得させ、動かす必要がありました。
経営者が考えている程には、現場は経営者のことを理解していません。「社長の言霊」に加えて、形があって、目で見えるもので腹落ちさせます。
目で見て納得すると人はさらに動きたくなるものです。マラソンでもゴールが見えるとラストスパートできます。ロードマップは社長の助っ人です。
●失敗は成功のもとではないから。
ロードマップは目標達成までの工程を示した計画表です。技術開発プロジェクトで活用されます。伊藤も自動車部品を開発していた頃、使いました。
ご支援先で拝見する経営計画の目標の多くは前年度対比で示されています。基準が「過去」です。一方、ロードマップの基準は「未来」です。
技術開発では目標から逆算してマイルストンを設定します。技術開発には明確なゴールがあるからです。
部品軽量化プレス機の開発を想定します。
開発納期が3年です。まず2年後までに新構造の金型を完成しなければなりません。と言うことは材料開発を1年後までには目処をつけないと・・・。実際の技術開発ロードマップではテーマがもっと細分化されていますが、考え方はこうなります。
技術開発のスタンスは「困難は分割せよ」です。分割されたテーマを順次解決します。目標値のBMは現行の技術水準です。マイルストンで目標値と実績を比べます。
順調ならその調子で!となります。遅れていたら挽回策です。遅れを放置できません。マイルストンで実績のフィードバックです。
フィードバックがあるから様々なノウハウを積み上げられます。フィードバック抜きの失敗は単なるロスです。やりっぱなしの失敗は成功のもとにはなりません。時間のムダです。
マイルストンでフィードバックするから失敗に意義を見出せます。ノウハウをチームに蓄積する手段です。
マイルストンは長期プロジェクトに緊張感をもたらしてくれます。中だるみを抑止できます。人はそもそも怠け者です。きつく締めたネジも緩みます。失敗したらマイルストンで締め直しです。
●時代のうねりを読みたいから。
今から10年前を思い浮かべて下さい。2010年です。
iPhone 4が世界的にヒットし、初代iPadが発売された年です。スマホが普及し始めたのはこの頃と言われています。ちなみに、iPhoneが世に出たのは2007年です。
当時はガラケー全盛期でした。一方、スマホは、今日「インフラ」と化しています。当時こうした状況を予想できたでしょうか?しかし、起きてしまえば、見方が変わります。
ガラケーを使っていたときに、もう少し画面が広いと使い勝手がいいのにと感じたことを思い出します。10年前、真剣にガラケーのロードマップを考えていたら、スマホの普及を予測できたかも知れません。
変化の判断軸を持つからです。アフターを認識できるのはビフォーがあるからです。
海面に漂う落ち葉は波に翻弄されるだけです。海底にガッチリ打ち込まれた防波堤は打ち寄せる波を受けとめます。固定されているので波からの負荷を感じ取れます。落ち葉との違いはここです。今後に備えて防波堤の高さや厚さを増やそうと考えたくなります。
ロードマップで示されるのは、今、考えた貴社の願望です。今、ガッチリ打ち込まれた経営者の想いです。これが時代のうねりを読むためのビフォーとなります。
私達がキャッチしたいのは技術の進化や競合の台頭、お客様欲求の高度化などの変化です。ビフォーがあると比較対象を手にします。変化を感じやすくなる所以です。
現場を漠然と眺めても問題点を見つけられないのと同様、日々、ボーッと過ごしていては変化を認識できません。ロードマップがあると論点が明らかになります。ご自身の事業を豊かに成長発展させる論点です。
変化があれば気になります。ロードマップがビフォーとなって、比べられるからです。
ロードマップで5年先、10年先のマイルストンを設定すれば、時代のうねりを感じやすくなります。先見性も比較対象があって磨かれるものです。
自動車部品開発を主導していた頃、ロードマップで技術と競合の動向にアンテナを張っていました。5年間、変化に注視していたのです。出し抜かれないためです。開発競争で2番手に意味はありません。
計画通り進まないので長期計画は役に立たないと考える経営者がいるようです。逆です。計画通りに進まないからロードマップが必要なのです。
外部変化の荒波に抗ってご自身の夢を実現させなければなりません。変化を認識できれば、どう立ち向うか考えられます。落ち葉は大波に翻弄されるだけです。
ロードマップで時代のうねりを読みます。変化を認識し、夢の実現に向けて、マイルストンを修正、変更、改良、発展させるのです。
そうして、人時生産性を高め続け、現場を豊かに成長発展させます。時間を味方につけて、人時生産性を3,000円、4,000円、5,000円台の現状に甘んじることなく、大手の水準6,000円、7,000円、8,000円、9,000円台へ挑戦するのです。
時代のうねりを読むロードマップが羅針盤となります。船長は船を難破させてなりません。
ロードマップは究極の人材育成教材になります。
経営者の思考回路が反映されているからです。
管理者がロードマップを使って現場を対象にした勉強会をやり続ければ、人材の再生産体制ができます。経営者は、ますます楽に社長業に専念です。
「マップが出来上がったこれからが現場改革の本番ですよ。」と先の経営者に声を掛けると。「分かっていますよ!」とにこやかに答えられました。作戦書を手にした連合艦隊司令長官です。先を見通せているので気持ちも前向きで表情も晴れやかに見えます。
次は貴社の番です!
成長する現場は、ロードマップで時代のうねりを読み、マイルストンでネジを締め直す。
停滞する現場は、事が起きてから都度対応する「モグラ叩き式」を続けて疲弊する。