「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第489話 天の声に耳を傾け、我が社をつくり変えているか?

「先生、痛いことを言われました。」

ある支援先へ伺った際、開口一番、A社長から緊張感のある報告がありました。

 

先代が築いた主要お客様との信頼関係のお陰もあって、これまでの受注環境は悪くありませんでした。そうした背景もあって、工場の強化に力を注いできた経営者です。

そこで、一層、事業を豊かに成長させたいと考え、プロジェクトに着手しました。利益アップ、給料アップを目指します。大手平均の人時生産性を掲げた経営者です。

 

具体策として、内(工場)での仕組みづくりをさらに強化するとともに、これまで手薄だった外(市場)への働きかけを並行して進めることにしました。

人時生産性を高める要点は付加価値額の積み上げです。そして、付加価値額の源泉は工場の外にしかありません。したがって、経営者は市場に向き合うのです。

 

ただ、慣れないと、なかなか、市場と向き合う一歩目が出ません。それでもやらなければならないのが、お客様への働きかけです。

 

そこで、熱心で誠実なA社長は、お腹に力を入れ、主要お客様の営業所へ足を運ぶことを始めました。お客様の声に触れるためです。厳しい言葉がありました。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

●製販一体会議で天の声を共有する

 

人時生産性を高める鍵は、付加価値額の積み上げです。そして、その源泉は工場の外(市場)にあるので、市場と向き合う仕事が積み上げのきっかけをつくります。

市場と向き合う仕事が、自転車やバイクの後輪のように、前へ進む力を生み出すのです。そして、内(工場)はハンドルです。進む方向を正しく決める役割を担っています。

 

製造と販売は両輪と言いながらも、明確な役割があるのです。

 

製造業では、両者がかみ合わないと目的地へたどり着けません。「私、つくる人。あなた、売る人」という、バラバラの意識では儲からないのです。

 

工場だけで改善を進めても、営業が闇雲に仕事を獲りにいっても、大きな儲けは生まれないでしょう。だから、両者が重なる領域を議論する「製販一体」がカギになります。右肩上がりのご支援先に共通することのひとつとして、この製販一体があると感じるのです。

 

製販一体会議は、付加価値額を生み出す重要会議です。

 

製造業は技術の世界で戦っています。技術は進化しているので、止まっていると、相対的に後退するのです。市場は待ってくれません。

製販一体会議は、経営者、右腕役、現場キーパーソン──この三者が顔を合わせ、ベクトルを揃える場。「お客様に選ばれる我が社」へ変える議論をする場です。

そして、議題の中心に据えるのは「お客様の声」です。

 

A社長が、主要お客様のなかのある営業所を訪問したとき、矢継ぎ早に要望が飛んできました。見積もりの件、品質の件などなどーーーーーーそして、最後に放たれた一言。

 「最近ね、新しいサプライヤーがうちに毎日のように来てるんですよ」

 その瞬間、A社長の背筋に冷たいものが走りました。耳に痛い言葉です。

 

 

 

お客様からの指摘は、外から見た我が社の現実。内部からは見えなくなった課題を鮮明にしてくれます。競合先との比較は、お客様にしかできないことです。

ただ、競合先のほうが高く評価されていたとしても、嘆く必要はありません。指摘をしてくれているということは、まだ期待してくれている証拠です。

縁を切るつもりなら、黙って離れていきます。静かに、そして確実に──。だから、お客様の声は、我が社を儲かる体質に変えるヒントであり、ありがたい「天の声」なのです。

 

だからこそ、経営者は、いの一番に、お客様の声を会議の場へ持ち込みます。現場も右腕役も、その声を共通認識とし、対応策を検討するのです。

・「できること」はすぐやる。

・「できないこと」はできるように変える。

変われば、お客様の評価も変わります。

 

とはいえ、お客様の厳しい言葉に触れたメンバーから不安の声が上がるかもしれません。 「お客様からそんなことを言われたら、ウチはもうダメなのでは?」

その気持ちは、もっともです。しかし、まだまだ、挽回の機会はあるのです。むしろ、その危機感こそが成長を加速させます。

「気づけたこと」を前向きに捉え、「変われる機会を手にしたこと」を喜ぶべきです。だからこそ、お客様の声を天の声として捉えます。

 

 

 

お客様の声を共有できていない組織は、暴走列車のようなものです。進む方向が見えず、やがて脱線してしまいます。

逆に、お客様からどう見られているかを共有している組織は、常にライトで照らされたレールの上を進む、コントロールされた列車です。

いま何をすべきか、次に何を準備すべきか、明らかにできるので、迷いません。

 

製販一体の本質は、現場を責めることではありません。みんなで「選ばれる会社」へ近づくことです。

お客様の声を真ん中に置けば、社長の意図も、現場の判断も揺らがなくなります。「選ばれる我が社」を実現する指針がそこにあるからです。

 

外(市場)で触れた「天の声」を、内(工場)へ伝える。その循環が生まれたとき、会社は確実に強くなります。

 

そして、情報共有の速さも生命線です。

一日遅れれば、一歩遅れる。

たった一日遅れるだけで、改善の着手も遅れ、信頼は揺らぎ始めます。市場のスピードに対し、社内の意思決定が遅い企業は、知らぬ間に競争から脱落してしまうのです。

だから、製販一体会議は、後回しにできない会議となります。

 

お客様の声が届くたびに、会社は試されているのです。「その声に応える会社か?」「耳を塞ぎ、変わらない会社か?」。変化を楽しめる会社だけが選ばれ続けます。

 

 

 

 

 

●工場を変える前にやること

 

お客様の要望に応えられないのであれば、できるように我が社を変えなければなりません。それが、内(工場)での経営課題です。

ただし、変える前にやっておかなければならないことがあります。それは、日々の生産活動を現場に任せられる仕組みづくりです。

 

経営者は市場と向き合わなければなりません。つまり、工場を不在にする時間が必ず増えます。そのとき、工場が自律的に回っていなければ、経営者は安心して外に出られません。

納期問題、品質問題、安全衛生の問題……こうした火消しに追われていたら、市場に向き合うどころではなくなります。

 

だからこそ、まず整えるべきは「日々の生産活動を乱れなく回せる仕組み」です。これが整ってはじめて、経営者は安心して、外へ出られます。

任せられる右腕役と現場キーパーソンが育ち、仕組みを使いこなしている状態──これが、経営者が外での仕事に専念する前提です。

 

工程管理とは「生産計画」と「生産統制」の2本柱。これを仕組みとしてつくり込み、現場が自ら状況を把握し、遅れを察知し、自律的に挽回し、経営者へきちんと報告ができる。

これが「任せる」ということです。

「経営者が見ていないとできない」ではなく、「経営者が見ていなくてもできる」状態を実現するのは、経営者の責務です。

 

例えば、お客様から問い合わせがあったとき、すぐにLT(リードタイム)を計算し、LTデータを根拠に納期を回答できる体制を構築する。中日程計画、小日程計画をきちんと立て、作業指示を出し、遅れが出たら挽回策を打つ。

この一連の流れが仕組みとして回っていれば、経営者が工場にいなくても、工場は安定して機能します。

 

この土台がなければ、いくら「お客様の要望に応えよう」と意気込んでも、実現できません。勇ましい戦略も、土台がしっかりしていなければ、工場改革も絵に描いた餅です。

そもそも、変える対象がきちんとしていなければ、変える効果がはっきりしません。工改革の前段階として、貴社には「生産計画」と「生産統制」の土台がありますか?

土台がなければ、工場改革も絵に描いた餅です。

 

 

 

 

 

●外に専念できるように動いた企業だけが生き残る

 

工場を整えてから市場に向き合うのではありません。

市場に向き合うために、工場を整えるのです。

右腕役と現場キーパーソンへ工場のこと任せられない状況は成長のボトルネックになります。仕組みの未整備は、商機を逃す病巣です。

 

A社長の工場では、一定水準の仕組みはありました。ただし、日程計画で強化すべきところがあったのです。そこで、標準化の考えに従って、LT自動計算を強化しました。

そこまでの準備をしたから、A社長は「お客様の要望に応えられないのなら、できるように、我が社を変える取り組み」の実践に踏み出せたのです。

 

「これからは計画的な訪問をやります。」A社長の言葉です。

 

市場から届けられた声は、我が社を儲かるように変えるヒント。そして、それは「天の声」その声を受け止め、動く覚悟を固めた経営者だけが、お客様に選ばれ続けます。

 

A社長は、これから、ますます工場を不在にすることになるでしょう。しかし、それで良いのです。右腕役と現場キーパーソンが支えてくれます。

4階層指示導線が機能しているから。仕組みがあるから。トップダウンが機能するから。

だから、外に出て、攻められるのです。

 

工場に縛られる経営者は必ず負けます。

お客様が離れる音が聞こえた時は、もう手遅れです。

 

 動かない社長は、衰退を選んでいるのと同じです。天の声を聴き、その声に応える会社へ。生き残る会社は――動いた会社だけです。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、お客様の声を天の声と捉えて、選ばれる会社になるために工場を変える

衰退する現場は、自分がイイと考えたことしかやらないので、お客様が離れていく