「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第511話 なぜ「報告が上がらない」のは社長の問題なのか?

●30人規模部品メーカーのプロジェクトメンバーの言葉

「報告してくれない作業者がいます」

 

先月から「実践会」をスタートさせた30人規模部品メーカーでのことです。プロジェクトメンバーのひとりが、現場の問題点を説明してくれました。

 

「実践会」は、右腕役や現場キーパーソンへ、生産管理3本柱の基礎知識を伝える場でもあります。カイゼンには目的があります。生産管理3本柱は、その目的達成までの因果関係を説明してくれているのです。

 

考えるためには知識が必要です。そして、知識があれば、課題を議論する時、メンバーのベクトルを揃えられます。論点が絞られるので、議論も発散しません。

 

 

 

今、この企業では、「日程計画~作業指示~進捗管理」の仕組みづくりに取り組んでいます。経営者抜きで工程管理を回せる体制をつくるのです。

 

これまで、納期遵守のために、経営者が自ら現場に張り付いていました。しかし、それでは社長業に専念できません。その悩みを持っていた経営者が、改革を決断したのです。

 

日程を管理する要点には、リードタイム計算や作業指示など生産管理3本柱からの側面があります。ただし、重視したいのは、フォローと評価です。

 

進捗を管理する目的は、「遅れを認識したら挽回する」ことにあります。管理者が経営者に代わって、現場の活動をフォローし、評価するです。

 

経営者抜きで工程管理を回すには、右腕役や現場キーパーソンが、自ら、作業者の仕事ぶりをフォローし、評価できるようにならなければなりません。

 

 

 

作業指示したことが、そのとおりにやられれば問題はありません。しかし、指示どおりにやられないことがしばしば起きます。だから、遅れを認識したら挽回するのです。

 

右腕役と現場が連携して、遅れを認識することが求められます。管理者一人でできる仕事ではないのです。

 

そして、遅れの認識の多くは作業者でなされます。自分の作業が順調か、順調でないかは、当事者が一番知っています。右腕役としては、作業者からこうした情報を上げてもらいたいのです。

 

 

 

遅れの認識自体を、全て右腕役がやろうとすれば、やたらと手間暇がかかり、それ以外の業務はできなくなります。作業者との連携、作業者からの協力が不可欠です。

 

しかし、この現場には、その点で少々問題があります。

作業指示をした後、問題が起きても報告が上がらないことがあるのです。

 

本来なら、問題が起こりそうになった時点で手を上げてくれるのが望ましい。しかし、現実には、問題が起きても報告を上げてくれない作業者がいます。

 

 

 

これから「日程計画~作業指示~進捗管理」の仕組みづくりを進めます。しかし、報告が上がってこない現場に仕組みをつくっても、それは機能するのでしょうか?

 

作業者には、基礎業務である報告をきちんとやってもらいたいのです。では、作業者へ何を伝えればいいのか。ここが問われます。

 

 

 

 

 

●報告」を構造化したか?

4階層指示導線は、社長業に専念したい経営者に不可欠な現場体制です。

経営者に代わって管理者が現場を仕切る。その要点は、現場からのボトムアップです。悪い情報を素早く上司へ伝える。これが機能しなければ、経営者は裸の王様に陥ります。

 

経営者の耳に入らないところで、現場はジワジワと悪い方向へ進むのです。

 

貴社では、日頃、現場から報告が上がっているでしょうか?悪い情報がすぐに上がってくるでしょうか?

 

 

 

「報告」は現場業務の基礎中の基礎です。これから先も、その重要性は変わりません。

 

設備オペレーションのスキルも大事です。しかし、報告はそれ以上に大事です。ある設備のオペレーションスキルは、数年したら技術進化とともに不要になるかもしれません。

一方で、報告のスキルは時代が変わっても大事であり続けます。時代が変わっても変わらないことを「基礎」と言います。

 

だから、経営者は従業員に、時代と共に変わることのない基礎を教えなければなりません。生産管理3本柱の知識も基礎です。だから、この知識を重視しています。

 

 

 

経営者は現場に報告を求めます。遅れを認識したら報告してもらいたいのです。しかし、作業者から報告が上がってこない場合があります。

報告が上がってこない現場は、どんな状況なのでしょうか?

 

大きく分けると、2つあります。

①報告しようとすればできるが、やらない。

②報告しようとしているが、できない。

 

貴社でもし、報告がなされないという問題に直面しているなら、①と②、どちらの要因が強いでしょうか。

 

経験則ですが、①の現場は少なからずあります。こうした作業者から出てくる言葉は、「面倒くさい」「忙しい」「やる必要がない」「言ってもしょうがない」です。

信じがたいことですが、こうした声を耳にすることがあります。

 

これらの言葉に共通しているのは、作業者自身の勝手な判断基準でそうしていることです。指示導線のトップダウンが機能していません。

トップがバシッと判断基準を示していれば、こうしたことは起こりようがないのです。

 

4階層指示導線が機能していない現場であるなら、これはカイゼンや仕組みづくり以前の状況です。トップダウンを曖昧にしている経営者に問題があります。まず示すべきは、「トップの判断基準」です。

 

 

 

一方で、②のように、報告しようとしているけれどもできない場合もあります。これはスキルの問題です。その場合、できるように「報告」のスキルを指導すればいいのです。

 

「遅れを認識したら報告せよ」

この指示だけでは、作業者は報告したくてもできないのかもしれません。そこで、報告を構造化します。

報告を指示するにあたって、作業者に求めていることは2つです。

 

①処理

②伝達

 

「処理」した何かを、「伝達」してもらいたいのです。そうであるなら、誰でも処理できて、誰でも伝達できる環境を整える必要があります

 

人によってやることが変わらないように、社内定義を明確にします。処理と伝達、それ自体が大事であって、報告で悩ませてはダメです。

 

 

 

①処理では、「何を」「どうする」、を決めます。

 

遅れを認識する。

リードタイムを計算する。

数値を入力する。

リストを作成する。

「処理」では、定義が不明確だと、作業者は自分の判断基準を当てはめなければならなくなります。

 

例えば、「遅れを認識する」を扱うなら、まず「遅れ」を定義します。「遅れている」と「遅れていない」を明確に区別できなければなりません。

たとえば、指示書に記述された作業完了時刻の1時間前に、現在の進み具合を確認し、所定の時刻までに終われなさそうなら遅れそうだと判断する、という基準です。

 

次に、「認識」を定義します。

遅れの結論を出す判断基準を明文化するのです。たとえば、指示書に記述された作業完了時刻の30分前に遅れの結論を出す、という基準です。

 

②そして、伝達では、「誰に」「何を」「いつまでに伝える」、を決めます。

 

このように報告を構造化すれば、指示は具体化されます。曖昧さがなくなれば、作業者は手順を踏んで報告できます。「手順を踏ませる」ができれば、誰でもできる可能性が高まるのです。

 

 

 

 

 

●業務への深い理解がなければ構造化はできない

「報告」を構造化すれば、「報告」に必要なことを全て具体化できます。そして、具体化できれば手順化もできます。手順化できれば、新人も理解しやすいのです。

 

これは報告に限りません。業務全般に言えることです。指示を具体化すればするほど、誰でも、同じ品質で仕事ができる環境が整います。

 

同じ品質で仕事ができるようになれば、人材の底上げを図れます。判断基準が同じになり、ベクトルが揃うからです。

仕事のばらつきが減り、人による差も小さくなります。少数精鋭の中小現場でパワーを最大化させる要点は、このベクトル揃えです。

 

 

 

この構造化は、DXでも欠かせません。手書き帳票に数字が残っているだけでは、そのデータは使えません。データをデジタル化しても、業務の手順が決まっていなければ、自動処理もできません。

 

ここで大事なのは、業務への深い理解です。一見複雑で、絡まった毛糸のように見える業務を紐解き、構造化する。業務への深い理解がなければ、構造化はできません。

 

新たにシステムを入れたが活かされず、1000万円の投資が無駄になったという話を耳にしたことがあります。

これはシステム屋さんが悪いのではありません。システム屋さんに過大な期待をし、業務の構造化を手渡さなかった経営者側の問題です。

その企業では、システム屋さんに言われた様式のまま、それを使おうとしていました。

 

DX化したい業務を深く理解しているのは、経営者です。経営者が業務を構造化し、それを手渡さなければならなかったのです。

そもそも、生産管理3本柱のシステムを活用する目的は、経営者ごとに異なります。まったく同じケースは一つとしてありません。

 

 

 

業務の構造化が進めば、右腕役が経営者に代わって現場を仕切る環境が整います。だから、右腕役には、構造化をしっかり教えたいのです。

報告が上がらないという小さな現場問題に見えることも、突き詰めれば、社長の問題なのです。

 

社長が現場に張り付いている限り、市場を見る時間は増えません。右腕役に何を教え、どんな判断基準を渡すか。ここに、経営者が将来に専念できるかどうかの分かれ目があります。

 

この支援先での実践会では、今「報告」の構造化に取り組んでいます。これはその後のDX化への橋渡し役も担っているのです。

次は貴社が挑戦する番です!

 

報告が上がらない原因は社長が判断基準を右腕役と現場へ明確に渡せていないことにある