「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第513話 「外へ出られる社長」と「現場に戻される社長」の違いとは?
●現場説明会である作業者から出てきた要望事項
「仕事のやり方を構造化したいです。」
40人規模板金加工メーカーで、3か年人時生産性向上プロジェクトの現場説明会を開催したときのことです。ある工程の作業者から、こうした要望事項が出てきました。
この会社の経営者は、今後3年間で大幅な利益アップ、給料アップを目指しています。その地域で給与水準がトップクラスになれば、地元で存在感のある企業になれます。
年商10億円水準を目指すとは、地元志向の新卒から「この会社で働きたい」と選ばれる存在になることです。利益アップ、給料アップは、人材確保戦略そのものです。
この経営者は、すでに外での活動を活発化させています。3年先を見据えた標的お客様、標的市場も設定済みです。新たな問い合わせも入り始めています。経営者は、外を飛び回りながら、将来の仕事づくりに力を注いでいるのです。
ただ、問題がありました。
「せっかく新たな案件を獲っても、納期遅れや品質トラブルになるのです。」
積み上げの機会があっても、目論見通りにいきません。工場のことを現場に任せられる状態に至っていないのです。外での取り組みが軌道に乗り始めているからこそ、この経営者は、内の不安定さが気になっています。
そこで、この経営者は、3年後のゴールへ向けて2つの課題を設定しました。
・ひとつ目は、右腕役の指導と、その右腕役候補の見極めです。
・もうひとつは、数値管理と継続的カイゼンです。
後者は、現場と一緒に新たな仕事のやり方をつくっていく活動になります。ただ、少数精鋭の現場は、日々納期に追われています。そのなかでカイゼンを進めるのです。
長期的には楽になる取り組みでも、短期では現場負担が増えます。だからこそ、まずは現場から協力を引き出さなければなりません。
「まずは取り組みのイメージを共有して、ベクトルを揃えたいです。」
この経営者はそう語りました。
そこで、文字や文章をできるだけ減らし、イラスト中心で説明することにしました。昨今の若手作業者には、文章よりも、一目でイメージできる説明のほうが伝わりやすいからです。
さらに、この説明会には別の目的もありました。作業者一人ひとりの言動を把握することです。現場と一緒に取り組む以上、誰がどんな考えを持っているかを知る必要があります。
そのため、4~5名ずつの少人数チームに分けて説明しました。説明回数は増えます。ただ、それだけの手間ひまを掛ける価値があると考えたのです。
説明しながら、作業者一人ひとりへ問いかけます。すると、いろいろな言葉が返ってきました。そのなかで出てきたひとつが、冒頭の言葉です。
「仕事のやり方を構造化したいです。」
この言葉に、経営者は驚きました。
「まさか、こんな表現が作業者から出てくるとは思いませんでした。」
現場説明会は、単なるプロジェクト説明の場ではありません。経営者にとって、これまで見えていなかった現場の課題と、現場の可能性、その両方に気付く機会になるのです。
この経営者は、ここで2つのことに気付きました。
●この経営者が気付いた2つのこと
「構造化」という言葉で要望事項を語った作業者は、前職で別の製造企業の現場を経験していました。その会社では、仕事のやり方や仕組みづくりを「構造化」と表現していたのです。
「構造化」の定義は様々あります。仕事の標準化やパターン化はそのひとつです。
仕事を業務に分解する。
業務をタスクに分解する。
現場を工程に分解する。
工程を作業に分解する。
仕事や現場は、タスクや作業まで細かく分けて初めて、「どこを改善するのか」が見えてきます。
よくあるのは、「業務改善をしよう」「工程の効率を高めよう」という言葉だけが先行するケースです。しかし、これでは論点が広すぎます。現場のベクトルは揃いません。
効率を高める対象、標準化やパターン化の対象は、細分化された「タスク」や「作業」なのです。
製造現場で作業を標準化する目的は明確です。
①誰でもできるようにする
②現場の底上げをする
③仕事の品質を高める
作業が標準化、パターン化されていれば、作業者は迷いにくくなります。迷いながら仕事をすると、確認が増えます。手戻りも増えます。不安を抱えながら仕事をするので、精神的負担も大きくなります。
一方で、やり方が整理されていれば、作業者は安心して仕事ができます。仕事がしやすくなるのです。結果として、品質も安定します。
つまり、「構造化したい」という言葉は、「もっと仕事をしやすくしたい」という現場からの要望でもあったのです。この経営者は、そのことに気付きました。
そして、もうひとつ気付いたことがありました。
ベテラン従業員は、それなりに仕事をこなせています。しかし、若手やキャリアの短い作業者は、不安を抱えながら仕事をしていたのです。これは、外を経験した作業者だからこそ見えた視点でした。
今の職場では、仕事を覚える際に、「この場合はどうするのか」「どこまでやればいいのか」「なぜそのやり方なのか」が、個人の経験や周囲への確認に依存していたのです。
もちろん、この経営者は現場へ無関心だったわけではありません。むしろ逆です。現場に入り込み、作業者一人ひとりへ熱心に声を掛け、指示や指導、教育も丁寧にやっていました。
だからこそ、自分は現場を把握できていると考えていたのです。
しかし、今回の説明会で、「仕事のやり方を構造化したい」という言葉が出てきました。つまり、経営者が思っている以上に、現場では迷いが発生していたのです。ここに、この経営者が気付いた大事な論点があります。
経営者が作業者へ熱心に働きかけることは大事です。ただ、それだけでは足りません。その場その場で教えるだけではなく、「誰がやっても同じ方向へ進める状態」をつくらなければならないのです。
少数精鋭の工場ほど、この差が大きく出ます。
ベテラン依存では、人が増えたときに教育負荷が急増します。新たな仕事を取り込もうとしても、現場が追いつきません。結果として、納期遅れや品質問題が起きやすくなります。
外で仕事を獲得しても、内が支え切れなければ、積み上げるはずの仕事が、現場を苦しめる仕事に変わります。
だから、生産管理3本柱の基礎知識や、仕事のやり方の共有が重要になってくるのです。そうして、迷わず動ける状況をつくります。
右腕役や現場キーパーソンの役割も同じです。単に現場を回すことではありません。社長の判断基準を現場へ伝え、作業者が迷わず動ける状態をつくることです。
今回、この経営者は、「現場へ寄り添う」姿勢を、改めて考える機会になりました。寄り添うとは、単に優しく接することではありません。作業者の本音を引き出すことです。
本音が出てこなければ、現場の本当の問題には気付けません。今回の説明会で見えてきたのは、儲かる事業モデルを支える土台そのものだったのです。
●経営者の仕事場は外にあるが、内もきちんと把握する
現場から「構造化」という言葉が出てきたこと自体は、非常に良い兆候です。
こちらが問いかけても、まったく言葉が返ってこない現場もあります。指示を出しても反応が薄い。会話が続かない。そうした現場も少なくありません。
その点、この会社の作業者は、自分の言葉で要望を返してきました。そこに、この現場のポテンシャルを感じます。
現場は経営者の鏡です。経営者が日頃からどんな言葉を掛け、どんな判断基準を伝え、どんな姿勢で向き合ってきたのか。その積み重ねが、現場の言葉として返ってきます。
この経営者は、外に熱心です。市場へ足を運び、将来の仕事づくりに力を注いでいます。一方で、内にも熱心でした。
だからこそ、今回の説明会で見えてきた「迷いながら仕事をしている作業者の存在」に気付けたのです。
そして、この経営者は、さらに社長業を強化していくためには、従業員の把握のやり方そのものを変える必要があることにも気付きました。
経営者の仕事場は外にあります。市場を見なければ、将来は描けません。標的市場も、標的お客様も見えてきません。利益アップも、給料アップも実現できないのです。
ただし、それは内のことを把握していることが前提です。内を掌握しているから、右腕役へ任せられるのです。
もし、現場を把握していなければ、右腕役から報告を受けても、その言葉の意味を正しく理解できません。現場で何が起きているのか、頭の中で具体的に思い浮かべられないのです。
これでは、任せているのではなく、丸投げです。
今回の説明会は、プロジェクトのベクトルを揃える場であると同時に、現場に眠っている可能性を確認する場になりました。だからこそ、経営者は現場へ問いかける必要があるのです。
丁寧に伝える。
反応を見る。
言葉を拾う。
この積み重ねによって、右腕役も、現場キーパーソンは育っていくのです。
経営者の仕事場は外にあります。しかし、内を掌握していなければ、外へ出ても将来の仕事を効率よくは積み上げられません。
内を把握し、右腕役に任せ、社長が外で勝負できる状態をつくること。そこに、これからの社長業の土台があります。内を把握し、右腕役に任せられないと、結局、経営者は現場に引き戻され、元の木阿弥になるのです。
次は貴社が挑戦する番です!
外で将来の仕事を積み上げる社長ほど、内を掌握し右腕役へ任せる土台づくりが欠かせない