「工場実装コンサルティング」—儲かる工場経営を目指して—第519話 なぜ、ベテランが抜ける前に工程を分けておく必要があるのか?

●プロジェクトリーダーを担う設計課長の言葉

 

「ここの工程を分けることを考えてみたいです。」

 

実践会の途中で、プロジェクトリーダーを担う設計課長が、図面を見ながらそう切り出しました。

 

この支援先は50人規模の板金製品メーカーです。日程計画と進捗管理で納期遅れを潰し込み、突発要求にも製販一体で対応する仕組みをつくってきた現場です。

プロジェクトも3年目に入り、焦点は納期対応から、次世代へ向けた課題へ移っています。

 

「今は、あの人がやってくれているから回っています。」

「ただ、抜けたらすぐに代わりができるかと言われると難しいです。」

「頭数を入れ替えれば済む工程ではありません。」

 

中小製造現場の社長なら、似たような会話に覚えがあるはずです。

少数精鋭の現場には、ベテランの技能に依存せざるを得ない工程があります。その人がいる間は、何とか回ります。ところが、抜けた瞬間に「実は仕組みではなく人で持っていた」と気付くのです。

 

ベテラン引退への対応は、単なる頭数の穴埋めでは済みません。技能の補填もできなければ、製造に支障が出ます。

 

本来なら、2年後、3年後までに技能の引継ぎを終わらせておくべき課題です。ただ、目前の出荷やトラブルに引っ張られ、分かっていても手がつかない少数精鋭の中小現場は少なくありません。貴社ではどうですか?

 

この現場にも、ベテラン依存工程が複数あります。

代替の作業者を配置しても、すぐには即戦力になりません。作業が暗黙知のままだからです。経験を積み、勘やコツを覚えてもらうしかない状態では、引継ぎに時間がかかります。

 

一昔前なら、そうしたやり方でも許されていました。しかし、今の外部環境で「そのうちできるようになる」では、競合に置いていかれます。

「串打ち三年、割き八年、焼き一生」というウナギ職人のような時間軸では、将来を守れません。

 

そこで出てきたのが、冒頭の設計課長の言葉です。

社長の判断基準は「次世代へ向けたゼロベースのレイアウト変更」。その判断基準を受けて、ベテラン依存工程を誰でもできる工程へ変える。そこで工程を分けるという発想です。

 

工程を分けることが、なぜベテラン依存から抜け出す対策になるのか。

その裏付けの考え方があるのです。

生産管理3本柱の基礎になります。

 

 

 

 

 

●手順計画で考える工程分割

 

人時生産性向上の方針はいくつもあります。ただし、本命は出来高アップです。限られた工数で、どれだけ付加価値を生み出せるかを考えます。

ここを外すと、改善活動は忙しいだけで、儲けの積み上げにつながりません。

 

出来高アップを考えるときに欠かせない基礎知識が手順計画です。

手順計画とは、どの工程を、どの順番で、どの作業に分けて仕事を流すかを考えることです。つまり工程設計と言い換えられます。

 

・3つの工程でつくるのか、5つの工程でつくるのか。

・工程A、工程B、工程Cの順番で流すのか、別の順番にするのか。

それだけで、リードタイムも、作業の難易度も、必要な技能も変わります。

 

 

 

基礎とは、時代が変わっても変わらない考え方です。デジタル化や生成AI活用が進んでも、モノづくりの本質は変わりません。

工程の流れが悪いまま、暗黙知に頼ったまま、情報処理ツールだけを新しくしても成果は限定的です。情報の流れをスマートにしても、モノの流れが変わらなければ革新が起きないのが製造業です。

社長が生産管理3本柱の基礎を右腕役や現場キーパーソンへ伝えなければならない理由がここにあります。

 

工程設計の要点のひとつに、分割と統合があります。ひとつのプレス工程をプレス1工程とプレス2工程に分けるのが工程分割です。その逆が工程統合です。

 

リードタイム短縮では、原則は工程統合です。工程と工程の間に存在する運搬や停滞を減らせるからです。組立工程でセル生産や一人屋台方式が有効とされる理由もここにあります。

 

 

 

ただし、この支援先の現場で論点になっているのは逆です。工程統合ではなく、工程分割に注目しています。狙いは、ベテラン依存から抜け出すことです。

 

工程を分けると、分けられた工程ごとに必要な作業は少なくなります。ひとりのベテランが抱えていた作業を、2人、3人で担える形へ変えられます。

 

新人や代替作業者も、いきなり全体を任されるより、限定された作業から覚えた方が、一人前になるまでの時間を短くできます。これは、人材確保の論点としても外せません。

 

 

 

中小製造現場で人材を確保するには、「採用」だけでなく「定着」も重要です。

定着とは、受け入れ態勢のことです。

新人が配属された先が「串打ち三年、割き八年、焼き一生」の職場では、難易度が高すぎます。工程分割で作業の範囲を絞り、標準化と手順化を進めておけば、新人も仕事に入りやすくなります。

 

さらに、工程分割は暗黙知を形式知へ変える機会です。ベテランの現物合わせに頼っていた作業を、数値化し、言語化します。

その過程で、見えなかったムダや判断のばらつきも見えてきます。数値化、言語化できる工程は、自動化の検討もできるのです。

 

工程分割であっても、標準化、手順化が進めば、リードタイムを短くできる可能性があります。ベテランによる現物合わせが、必ずしも効率的とは限らないからです。

社長は、この基礎を右腕役と現場キーパーソンへ伝えるのです。

 

 

 

 

 

●社長の判断基準があれば、工場見学は見て終わりにならない

 

「ここの工程を分けることを考えてみたいです。」

 

設計課長がこの言葉を口にした背景には、ひとつの経験がありました。

最近、業界主催の工場見学会で、大手競合先の現場を見る機会があったのです。そこには、同種の製品を製造している工程がありました。

 

そして、ただ見てきただけではありません。

作業の区切り方、流し方、人の配置を見ながら、「この考え方を自社の工程に入れたら、ベテラン依存から抜け出せるかもしれない」と考えたのです。

 

ここが大事です。工場見学へ行けば、誰でも気づくわけではありません。

同じ現場を見ても、ある人は「大手は設備が違う」で終わります。別の人は「ウチでは無理です」で終わります。しかし、社長の判断基準を日頃から伝えられている右腕役は、見方が違います。社長の視点で見るのです。

 

この支援先の社長は、プロジェクトを通じて、次世代へ向けた「ゼロベースのレイアウト変更」を繰り返し伝えてきました。

 

今の延長で少しだけ直すのではありません。

ベテラン依存を前提にしない。誰でもできる工程へ変える。そうした判断基準があったから、設計課長は他社の現場を自社の課題に当てはめて、観察できたのです。

 

 

さらに、外を見る機会をつくるだけではなく、何を見てくるのかを決めておく必要があります。見たものを自社のどの課題へ結びつけるのか。その見方を右腕役と現場キーパーソンへ伝える必要があります。

生産管理3本柱の基礎を伝え、社長の判断基準で現場を見られる人を育てる。これが工場実装の実践です。

 

 

 

社長が市場で将来をつくるには、現場が社長の判断基準で動けることが欠かせません。現場で何かあるたびに社長が現場に呼ばれるようでは社長業に専念できないのです。

 

ベテラン依存工程をどうするか。工程を分割するのか、統合するのか。何を残し、何を変えるのか。その判断を現場任せにしていては、次世代の工場はつくれません。

 

社長は、右腕役に何を見させるのか。何を考えさせるのか。何を判断基準として伝えるのか。そこを曖昧にしたままでは、右腕役や現場キーパーソンが外を見ても、現場が変わる機会になりません。社長の意志や意図を判断基準で伝えるのです。

次は貴社が挑戦する番です!

 

工程分割でベテラン依存工程から抜け出し、社長基準で誰でもできる次世代現場へ変える