「工場実装コンサルティング」—儲かる工場経営を目指して—第526話 なぜ、売上目標を伝えても現場は一つにならないのか?

●100人規模産業機器メーカー製造担当役員の言葉

 

「売上高の目標などを伝えるのですが、現場に浸透している気がしません。」

 

先日の個別相談でのことです。100人規模産業機器メーカー製造担当役員が経営課題について悩みを語ってくれました。

 

 

 

目の前の収益に問題はありません。新規のお客様開拓も進んでいます。それでも、この製造担当役員には気掛かりなことがありました。ベテラン従業員と中堅・若手従業員の連携が、思うように強まっていないのです。

先代の時代から働いているベテラン従業員は、技能も高く、納期への対応もしっかりしています。現場を支える頼もしい存在です。

ただ、その仕事ぶりや判断の仕方が、中堅・若手へ十分に引き継がれているとは言えません。一人ひとりは一生懸命に仕事をしています。

ところが、ベテランの力と中堅・若手の力がつながり、現場全体の力として発揮されているかというと、まだ十分ではありませんでした。

 

そこで経営陣は、毎年、会社の目標値を従業員へ伝えています。売上高や利益、お客様別の売上高内訳、新規のお客様開拓方針などです。

会社がどこへ向かうのかを全員で共有し、全社の一体感を高めたい。ベテランと中堅・若手の連携も強めたい。そう考えてのことです。

ところが、目標を伝えても、現場の動きが大きく変わる手応えはありません。全社一丸、製販一体で動くところまでには至っていません。

個々では頑張っている。それなのに、なぜチームとしての力に結び付かないのか?

 

 

 

目標がないのではありません。経営陣は毎年、きちんと示しています。足りないのは、経営目標と現場の日々の仕事をつなぐ判断基準です。

ベテランと中堅・若手の連携を強め、個の力を現場全体の力へ変えるにも、目標設定の体系が要ります。ただ売上高や利益を示すだけでは、現場は日々の仕事をどう変えればいいのか分かりません。

現場には、何を追い掛ければいいのか?

 

 

 

 

 

●売上高や利益を、現場が動ける数字へ置き換える

 

売上高や利益は、会社経営に欠かせない目標です。ただ、それだけを現場へ示しても、作業者は今日の仕事をどう変えればいいのか判断できません。

売上高をあと1億円増やすと言われても、自分の工程で何をすれば、その1億円につながるのかが見えないからです。

 

現場が日々見ているのは、もっと身近な数字です。

何時間かかったのか。何人でやったのか。いくつできたのか。「時間」「人数」「出来高」なら、自分たちの仕事と直結しています。

 

そこで、経営者の判断基準として現場へ組み込みたいのが「生産性」です。「時間」「人数」「出来高」で捉えれば、現場も自分たちの仕事として理解できます。

 

・例えば、従来3人でやっていた仕事を2人でできるようになれば、空いた1人を別の仕事へ振り向けられます。

・また、1日100個だった出来高を120個に増やせれば、同じ時間でより多くの付加価値を生み出せます。

・そして、リードタイムを短縮して時間を空ければ、そこへ新たな仕事を取り込めます。「詰めて、空けて、取り込む」です。

 

人数を減らすことや、速くつくること自体が目的ではありません。

限られた工数で、これまで以上の仕事をこなし、付加価値額を積み上げる。その結果として売上高や利益が増えていきます。

 

生産性を追い始めると、チーム力が必要になる理由もはっきりします。

納期を守るだけなら、ベテランが経験と力で帳尻を合わせることもできます。ところが、生産性を高めようとすれば、ベテラン一人の力業では済みません。

前後工程との連携、応援、仕事の分担、手順の見直しが必要になるからです。

ベテランと中堅・若手に「もっと連携してくれ」と求めるだけでは変わりません。チームで動いた方が成果が出る仕事にすることです。

生産性という判断基準には、その役割があります。

 

 

 

そして、もう一つ欠かせないのがフォローと評価です。目標を示したら、実績も現場へ返します。最低でも月に1回。できれば週に1回、日に1回です。

弊社の支援先には、日々是決算として毎日、生産性の実績を現場へ示している企業が複数あります。毎日数字を見れば、自分たちの仕事が良くなったのか、まだ足りないのかが分かるのです。

昨日より良くなった。目標へ近づいた。その手応えがあれば、次はどうするかを考え始めます。誰と組めばもっと良くなるか。どの手順を変えるか。数字が、次の知恵を引き出します。

 

売上高や利益を、現場が分かる「生産性」へ置き換える。そして、その実績まで返す。ここまでやって初めて、経営者の判断基準が現場の日常業務で使われ始めるのです。

 

 

 

 

 

●「生産性」という判断基準が、人の力を引き出す

 

太平洋戦争当時、日本海軍は艦艇の性能向上を重視する一方で、「生産性」という見方は十分ではありませんでした。そこへ、いかに短期間で多くの艦艇をつくるかという新たな判断基準を持ち込んだ人物がいます。

 

戦艦大和の船体建造を任され、現場を率いた西島亮二技術大佐です。

 

西島技術大佐らは、能率曲線の導入、新工法への挑戦、実物大模型の活用、現場がつくりやすい図面、標準化、規格化を進めました。その結果、大和をはじめ、輸送艦艇の建造でも工期を大きく縮めています。

 

工期を縮めたことだけが、西島技術大佐らの成果ではありません。若い技術官や現場にとって、自分たちの工夫が数字で表れるようになったことも大きかったのです。

 

何を良くすれば成果につながるのかが分かる。やってみた結果も数字で分かる。すると、「次はこうしてみよう」と知恵が出ます。ボトムアップのカイゼンが次々と生まれ、現場のやる気も高まっていきました。

 

そして、西島技術大佐は「もっと頑張れ」と号令をかけただけではありません。

現場へ足を運び、事実を確かめ、若手へ戦況や計画造船の状況も伝えました。判断基準だけでなく、その背景まで伝えています。だから若手も、自分で考えて動けたのです。

 

 

 

社長が「生産性」を重要な判断基準にすると決めたなら、右腕役へ「時間」「人数」「出来高」の意味を伝え、現場で使えるようにしなければなりません。

そして結果をフォローし、評価する。判断基準は、伝えただけでは定着しません。使って、振り返って、また使う。その繰り返しで現場の日常業務になります。工場実装です。

 

ベテランと中堅・若手の連携を求める前に、力を合わせた成果が見える環境を整えることです。右腕役と現場キーパーソンがその判断基準で工場を仕切れるようになれば、社長は市場で将来の仕事をつくることに時間を使えます。

現場が「何を良くすれば会社の成果につながるのか」を、毎日の仕事の中で分かるようになっているでしょうか?

 

 

現場を一つにするのは号令ではない。生産性という判断基準が知恵とチーム力を引き出す。