「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第129話 高い価格
貴社はリピート品で儲けが出ていますか?
「毎年、値下げがあるために、生産性を高めても儲けが出ていません。」
30人規模中小製造企業、現場リーダーの言葉です。その企業はいわゆる下請け型の事業を展開しています。特注品が大部分を占め、リピート品は2割程度です。
リピート品は文字通り、繰り返し生産する機会があります。累積生産数が増えるにしたがって所要工数が減少する”学習効果”が得られやすい製品です。
生産性が高まって、製造原価の上では、コスト削減がなされていきます。
ただ、下請け型の事業では、顧客からの厳しい値引き要求がしばしばありますから、生産しながら、儲け代が年々減っていくことも実感せずにはいられません。
ですから、先の現場リーダーのように、リピート品に関連して、生産性は確実に高まっているけれども、儲かっているのだろうか?という疑問を持つことになるのです。
・値付けの決定権が全くないので、単価をUPさせることなど絶対にできない。
・値下げ要求が厳しくて儲けが出ない。
セミナーや講習会の場に参加された方々からもこうした言葉が聞かれます。
電化製品や自動車の部品などは、一度、受注が決まると、最低でも3年程度、長ければ5年以上、原則的に、毎月ある一定量の生産量が約束され、こうした製品は儲かる工場経営にとってありがたい存在です。
計画的に付加価値額を積み上げ、固定費を確実に回収してくれるからです。毎月、毎月、新規の受注を開拓しなければならない特注品に比べて、工場経営に安定感をもたらします。
リピート品には、毎月の固定費回収にしっかり貢献してくれる頼もしさがある一方で、避けられないのが定期的な値引きです。
「経験を積めば、コストが下がりますよね?下がったコストを折半しましょう。」というのが顧客側の論理となっています。
この要望に反論できなるなら、反論したい経営者は多いはずですが、反論してしまうと。。。。。。もっと安値を提示している競合へ、次の製品が流れてしまわないだろうか?
こんな不安を抱えるがゆえに、長い間、定期的な値引きを甘受している経営者も少なくないと推察されます。
先の現場リーダーのように、生産性を高めても儲けがでないのでは?と感じてしまうようでは、頑張ろうという気も湧きにくいです。
固定費回収を計算できるリピート品で少しでも儲け幅を拡大させることが、儲かる工場経営上、重要な戦略であり、現場のモチベーションを高めるのにも欠かせません。
先の現場リーダーのように、生産性を高めても儲けがでないのでは?と感じてしまうようでは、頑張ろうという気も湧きにくいです。
固定費回収を計算できるリピート品で少しでも儲け幅を拡大させることが、儲かる工場経営上、重要な戦略であり、現場のモチベーションを高めるのにも欠かせません。
伊藤が自動車部品を製造する工場に勤務していたときの話です。
足回り部品を扱っていましたが、部品の見積もりは単純に、原材料単価×重量をベースに加工費などを積み上げていました。ですから、軽量化要求があって、重量が軽減されると単価が安くなってしまうのです。
製造側は生産技術、製造技術を駆使して軽量化を図るわけですから、これではなんとも納得できないぞ、ということで、一定水準以上の軽量化へ対応した場合、技術料を加算することを顧客に合意してもらった経験があります。
担当技術者として営業担当者といっしょに顧客のところまで足を運びましたが、顧客にも顧客の事情があることも実感しました。
顧客も最終消費者をターゲットに、自動車の原価を1円単位で削減していたわけです。高くても買ってくれるような価値を加えない限り、値上げに納得してもらうことは当然ながら困難でした。
つまり、高く買ってくれないということは、顧客に選んでもらえるだけの価値を提供できていないということです。
値下げによる赤字垂れ流しスパイラルから脱するには、認め難いことですが、経営者はそこに焦点を当てて事業のステージを高めます。
定期的な値下げが避けられないリピート品であるならば、受注の段階で価格を高くつけてもらう商売のやり方へ変える必要があります。
リピート品でも多くの付加価値額を積み上げる仕事のやり方に挑戦したいのです。
顧客に届ける価値の大小を説明する理論として「スマイルカーブ」があります。笑った時の口の形を思い浮かべてください。両端が少し上がった形の曲線になります。
上流や下流は高い利益率を上げられますが、中流の部分は厳しいことを意味しています。製造業に当てはめれば、上流は設計・開発、下流は流通・メンテ、中流がいわゆる加工、組み立てです。
特に特徴もなく、顧客から言われたままの仕様での加工、組み立では儲からないことをスマイルカーブは示しています。
加工、組み立てがスマイルの底辺を構成するに至った理由は2つです。
・技術革新
・グローバル化。
つまり、設備さえ手にできれば、アジアの新興国でも同じものができるようになったということです。
もう、新興国と同じような仕事のやり方をしていても儲かりません。国内中小製造現場は、先進国ならではの仕事のやり方を目指します。
今後、中小製造企業の経営者は”付加価値額を積み上げる”観点を持つ必要があるのです。
お金を生み出す具体策には6つありますが、そのうちの単価を上げることに、是非、挑戦して下さい。
削減策やスリム化も現場活動で重要なテーマですが、それだけでは付加価値額の積み上げ額にインパクトがありません。
具体的には3つです。
1)スマイルカーブ上流側の業務を取り込む
設計・開発業務に参画することです。顧客の懐へ飛び込み、デザインインで顧客へ貢献できれば有利な価格交渉が可能ではないでしょうか?また、現場が製造しやすい仕様に導くこともできます。
あるいは、困りごとを解決する”御用聞き”の事業も付加価値額の積み上げに貢献するでしょう。中小現場の管理者時代、顧客の声を手掛かりに、”御用聞き”の事業を始めて、成果を出したことがあります。
2)スマイルカーブ下流側の業務を取り込む
納入後のメンテナンスを強化することです。貴社で扱う製品が完成品に近いものなら、可能ではないでしょうか?
米、ジェネラル・エレクトリック社の旅客機のジェットエンジンやガスタービンのIOTを活用したメンテナンスサービスは有名です。
3)圧倒的なQCD
圧倒的な仕様、圧倒的なコスト、圧倒的な納期。スマイルカーブの底辺部分、中流でも付加価値額を一層積み上げることはできます。
国内電子部品メーカーなどは、圧倒的な仕様で世界を凌駕している場合があります。ソニーのイメージセンサーが一例です。部品自体が、唯一の価値を提供しています。
また、圧倒的な納期という点では、中小現場の管理者時代、現場の頑張りで、夕方以降に受注した製品を翌朝までに完成させる体制を敷いたことがあります。通常価格の2倍、3倍でも顧客に感謝されました。
”圧倒的”は戦えます。
従来の仕事のやり方に固執していると「そんなことできるわけがない!」と思い込んでいる経営者も少なくないでしょう。せっかくのリピート品を儲からないまま続けたかったら、従来の仕事のやり方で結構です。
しかし、これでは、現場リーダーが現場に活気を注入しようにもやりようがありません。儲からないとわかっている仕事では、やる気も湧かないのは当然のことです。
そこで、リピート品でも多くの付加価値額を積み上げる仕事のやり方に挑戦したいのです。そして、付加価値額を積極的に積み上げ、固定費を少しでも早く回収し、利益を確保します。それには、顧客に高く買ってもらうしかありません。
上記の3つを貴社の現場に当てはめて、顧客へ働き掛けて下さい。経営者が「そんなことできるわけがない!」と思い込んでいるうちは何も変わりません。
昨今、「ディスラプション(Disruption)」という言葉を耳にすることが増えましたが、まさにこれを現場で実践していただきたいのです。
より多くの付加価値額を積み上げるのに、現場を「変えて」ください。従来の延長線上には大きな夢は描けないからです。
・成長する現場は、値引きされても儲かる仕事のやり方へ変えようと行動する。
・現状維持にとどまり、今の仕事のやり方でいいと思い込んでいる現場は、値引きはしょうがないと考える。
高い価格を付けられる仕事のやり方へ変えませんか?