「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第141話 儲かる価格

儲かる価格を設定していますか?

「とてもじゃないですが、価格は上げられないですね。」

100人規模、金属素材加工メーカー経営幹部の言葉です。大手自動車メーカーが主要顧客となっています。

 

伊藤も20年余、自動車部品の製造工場で勤務していましたから、その幹部の言葉は理解できます。自動車の足回り部品を扱っていましたが、自動車メーカーの担当者から提示される目標単価、目標重量は1円単位、1g単位です。

自動車では「バネ下1kgの軽量化は、バネ上(つまりボディ)10kgの軽量化に相当する」とされます。ですから製品重量も厳密に設定されました。

 

しばしば言われることですが、製品の電子化、電動化が進み、高機能化されている割には、自動車の価格は維持しています。排気量別の価格ゾーンはそれほど上がっていません。

消費者には嬉しい状況ですが、部品サプライヤーには厳しい取引きが待っています。

 

自動車メーカーの購買部門はサプライヤーを複数抱えるのが普通です。供給責任を果たすととともに、サプライヤー間の競争を促すためでもあります。

3万個にものぼる部品から組立てられる自動車です。一律に1円値下げすれば、それだけで3万円、10円値下げすれば、30万円の原価低減となります。そうした商品を数万、数十万台と販売するわけです。

当然、自動車メーカーはサプライヤー間での”健全な”価格競争を促します。

 

ですから、ティア1として多くの自動車メーカーと仕事をしていたとき、競合先が提示する価格に神経を尖らせていました。したがって、先の幹部が値上げするとか、しないとかという状況にないことは理解できます。

大手のパートナーになれば、ある一定規模の生産量を確保できるメリットはありますが、代替品のない稀少性の高い製品でもないかぎり、競合との価格競争は避けられません。

成熟技術によるコモディティー化した部品であるならなおさらです。価格の決定権も供給側にほとんどありません。

 

そもそも、自動車部品サプライヤー業とはそうしたビジネスモデルだということです。この手のモデルでは、ある程度、規模の経済で付加価値額を築くことになります。ですから、継続的な売上は確保できますが、原則、薄利多売にならざるを得ないのです。

そうしたモデルであっても、「儲かる価格とは?」を考え続けなければなりませんねと先の経営幹部へお伝えしました。

どんなビジネスモデルでも、価格から利益を生み出すのは同じです。儲かる価格の検討を抜きにカイゼンや5Sをやっても、利益への貢献度がはっきりしません。現場動機付けの観点からも問題です。

 

 

 

 

 

「儲かる価格」とは何でしょうか?

製造業には、現場で製品自体の価値を生み出し、高める機会があります。その分、本来なら、価格設定の余地がありそうです。

しかしながら、多くの経営者から、指値で決まるから検討の余地はない、市場価格で決められるのでやりようがないとの言葉を受けるときがあります。

 

誤解をしている経営者も多いようですが、「儲かる価格」で問いたいのは、外部環境ではありません。経営者として本来設定したい価格です。

利益最大化のためにやるべきことは、付加価値額の積み上げです。そして、付加価値額はΣ(単価-@変動費)ですから、やるべきことは3つしかありません。

1)@変動費を下げる。

2)単価を上げる。

3)販売数量を上げる。

 

どれも重要な項目ですが、当然ですけれども、最重要課題は2)の単価を上げる、です。というと、そんなことはできない!という声が、またまた、上がってきそうです・・・・。

 

稲盛和夫氏も喝破されていますが、「値決めは経営である」です。儲かる価格がなければ儲かる工場経営はできません。ですから、

・今の価格で儲かるのか、判断する。

・その判断基準を持つ。

この2つが求められるのです。

 

判断基準にしたがい、本来設定したい価格を決めたうえで、その価格を顧客の指値や市場価格と比較します。

・本来設定したい価格>顧客の指値や市場価格

・本来設定したい価格<顧客の指値や市場価格

 

後者なら問題はないですが、前者ならどうしますか?

「単価を上げる」は選択肢のひとつです。価格は顧客へ届ける価値の対価ですから、「単価増分」に見合った価値の上乗せを考えます。ここで生かすのが貴社のコア技術。当たり前のことですが、何もせずに単価だけを上げる魔法なぞありません。

顧客に届ける価値の大小を説明する理論として「スマイルカーブ」がありますが、「単価増分」に見合った価値を創出するヒントを与えてくれます。「値決めは経営である。」の言葉どおりに、科学的に、工学的に価格を設定するのです。

 

単価を上げられないと嘆く前に、自社製品の価格が儲かる価格になっているかどうかの判断基準を持って欲しいのです。貴社独自の判断基準を持ってください。

判断基準を持てば、「単価を上げる」知恵も生まれます。「比べる」は考えるきっかけになるのです。

 

 

 

 

 

詳細はセミナーやご指導でお伝えしていますが、固定費の効率良い回収、固定費の生産性向上という考え方から儲かる価格の設定ができます。

これは弊社が強くお薦めしている将来投資型固定費戦略へつながる考え方です。

 

成熟製品を成熟技術で造っている現場であるなら、1)の「@変動費を下げる」のみで付加価値額を積み上げるのはかなりつらいです。

原価低減はもうやり尽くすところまでやり尽くしたという経営者にとって、既存事業の延長線上で「@変動費を下げる」に関して、次の一手はなかなか見つかりません。

 

ですから、改めて価格を見直して欲しいのです。

・今の価格で儲かるのか、判断する。

・その判断基準を持つ。

 

そうして、固定費の効率良い回収、固定費の生産性向上に注目です。儲かる価格を設定するための課題が明らかになります。

5年先、10年先を見据えて従業員の豊かな成長を願う経営者であるなら儲かる価格の重要性に気付いていただけるでしょう。

振る袖がなければ従業員の幸せの原資を獲得できません。価格設定のやり方を変えることに挑戦してください。弊社は、挑戦する経営者の後押しをして参ります。

 

・成長する現場は、儲かる価格を知ってカイゼンに取り組む。

・今の仕事のやり方でいいと思い込んでいる現場は、儲かる価格は無理であると諦める。

儲かる価格を設定する仕組みをつくりませんか?