「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第158話 作業者が目にする景色

作業者が実感できる成果を示していますか?

 

「現場にとって、リードタイム短縮のメリットはなんでしょうか?」

生産性向上の取り組みに着手したばかりの、製造ライン管理者の言葉です。その製造ラインは主に組立て系の作業で構成されています。

 

生産性向上の初手は工程内のムダ除去です。組立て系の作業は人が主役であることが多いので、組立て手順を明らかにして、”動作”のムダを除去します。

その結果、単位時間当たりの組み立て数量が増えるととも、”動作”のムダを除去した結果、作業自体が楽になるのです。

 

その現場では、これまでも、工程内のムダ取りをやっていました。立ち作業と座り作業を分析して、それぞれのメリット、デメリットを整理しながら”動作”のムダを取り除いています。

工夫の余地が若干あるものの、ある一定水準に達していました。そこで、次のステップに進みます。その着眼点がリードタイムです。

 

リードタイムの定義とそれを短縮する観点を説明したところ、その管理者から出てきた言葉が冒頭のコメントです。

生産性向上で作業のムダを省くことは、働きやすい環境をつくることにつながり、作業者もメリットを感じられると、その管理者は考えています。

 

では、リードタイム短縮は、作業者にとって、どんなメリットがあるのだろうか

管理者の頭の中に、こうした疑問がわいてきたということです。

 

経営者視点と作業者視点をバランス良く持っているからこその疑問と言えます。現場活動を定着させ、継続させるのに、ひとりひとりのやる気が欠かせないと考えている管理者です。

 

 

 

 

 

付加価値額人時生産性を高めて固定費を健全に成長させることが多くの経営者の願望である以上、投入固定費の効率を高めるのが、儲かる工場経営の課題です。経営者は投入した固定費対比で生み出した付加価値額を計測します。

それが付加価値額人時生産性です。

 

少数精鋭の中小現場で求められる生産性向上では、まず、分母↓、分子→の組み合わせから考えます。

・従来1時間かかって5台組立てていたが、30分で5台組立てられるようにする。

・従来3人で組立てていたが、2人でもできるようにする。

 

これらを実現させるのに、作業者へ「手を早く動かせ!」と指示するのは論外です。生産性向上が、現場の作業を楽にすることに繋がらないと活動自体、定着、継続しません。

 

「余剰を生み出すことは、仕事をやり易くすることと同じなのだ」

こうした成果を”体感”していないと、作業者にとって、生産性向上は、単なる”辛いこと、やっかいなこと”となります。

 

経営課題を解決するために、生産性向上を目指すわけですが、経営者視点とともに、欠かせないのが作業者視点での成果、効果です。

 

「仕事を無理なくできるように、無理なく儲けられるように、生産性を高めるのだ」

こうした考え方が共有されれば、生産性向上活動を定着できます。

 

これは、現場活動全般にも言えることです。

それをやることが、現場作業者のひとりひとりにどのようなメリットがあるのか、経営者視点に加えて、作業者視点で理解させることで、現場活動を定着、継続させられます。

 

 

 

 

 

詳細はセミナーやご指導でお話ししていますが、リードタイム短縮の着眼点はいくつかあります。

ご存じのように、経営上の効果はキャッシュフローに現れます。棚卸資産回転率を上げれば、キャッシュの改善が期待できるというのは教科書通りの解説です。

 

したがって、それだけでも、リードタイム短縮の効果は説明されているわけですが、それはあくまで、経営者視点となります。

現場にキャッシュフローが・・と語っても、十分に響かないのではないでしょうか。

 

活動を定着させ、継続させたければ、作業者視点の効果を体感させることがカギとなると申し上げました。

活動を目的化させないために、経営者視点の成果に加えて、作業者視点の成果を体感してもらうことを忘れてはなりません。

 

では、リードタイム短縮で現場が実感できる成果はどのようなものか?

現場で実感できる成果物・・・。

それは、”スペース“、”空間”となります。

 

現場はどこもスペースが足りなくて困っているはずです。

リードタイム短縮の本質はキャッシュフローの改善にありますが、作業者視点では、現場に新たな空間を生み出すことでもあります。

 

①生産性向上は現場作業を楽にするため。

②リードタイム短縮はごちゃごちゃした現場をスッキリさせて空間を生み出すため。

例えばですが、付加価値額人時生産性を高める2大現場活動(生産性向上とリードタイム短縮)の作業者視点の成果、効果はこのように表現できるのです。

 

 

 

 

 

工場経営の本質は、経営者の想いを他人を通じて実現することにあるので、現場の動機付けには工夫を重ねたいです。

裏山にしか登ったことがない人は、富士山から眺めた景色を思い浮かべるのは難しいです。一方、富士山に登ったことがある人は、裏山からの眺めた景色を表現できます。経営者の言葉を現場に響く言葉へ翻訳したいのです。

翻訳された作業者視点の言葉を通じて、成長意欲を持ったチームは経営者の言葉を理解しようとするでしょう。そうして、製販一体、全社一体の雰囲気が醸成されます。

 

モノづくりの本質を理解していれば、儲かる工場経営を現場の言葉で表現することは可能です。そもそも現場活動は、経営問題を解決するためにやっています。

経営者視点のみならず、作業者視点で成果を表現する言語化のスキルも重要なのです。

 

売上高で成果を表現されても、作業者には実感が乏しいでしょう。単価から@変動費を除去した付加価値額こそが、現場で生み出した儲けそのものです。

こちらの方が現場の成果を適切に表現しています。

 

このように、作業者が目にする”景色”を想像し、成果をどう表現すると作業者ひとりひとりに響くか考え続けることです。活動を継続させ、定着させるための論点となります。

 

・成長する現場は、経営者の言葉を通じて、儲かる工場経営を理解しようとする。

・停滞する現場は、儲かる工場経営の仕事は自分たちには関係ないと考える。

 

貴社で現場活動を定着させ、継続させるポイントを探りませんか?