「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第43話 10年ロードマップで現場へ見通しを示す意義
貴社の若手は5年先、10年先の目指すべき状態を知っていますか?
5年先、10年先の見通しを現場へ示せば、現場は目標に向けて頑張りたくなります。つまり、経営者にとっては、想いを実現させやすい環境が整備されるのです。
工場経営の本質は、”自分の想いを、他人を通じて実現すること”にあります。とにかく人に動いてもらわないといけません。
経営者の最大の仕事は、現場からやる気を引き出すことにあります。10年ロードマップ戦略でつくりあげる戦略書で5年先、10年先の見通しを現場へ提示します。
見通しは、仕事の必然性を現場に感じさせることができます。経営者に替わって、見通しが現場のモチベーションを高めてくれます。
10年ロードマップ戦略プログラムの最終目標は、次世代を担う若手に”今”の儲かる工場経営を引き継ぐことです。若手のポテンシャルを最大化するには、これが一番だからです。
実地で感じてきました。
だからプログラムの最終目標に据えています。
中小の製造現場で、多くの若手と出会いました。彼らの管理者伊藤への対応の仕方や態度は様々でした。が、概ね共通していたことがあります。
それは、彼たち、皆、一生懸命であったことです。
そんな姿を見ていると、若手には力一杯、迷いなく仕事に専念できる環境を整備したいという想いが自然と沸きます。
一方、現場の、特に若手の気持ちに配慮した工場経営を実現すれば、現場から生み出されるお金を最大化できることに気付きました。なにせ現場のやる気が120%、150%アップするのですから当然です。
ある製造企業の現場でひとりの若手と出会いました。その工場は金属加工を柱としています。その若手はプレス機担当でした。入社10年以下で20代後半の仕事熱心な若手です。
あるとき、次のような体験を話してくれました。
ある時、機会があって地域のQCサークルの発表大会に参加し、そこで、彼は他社の発表を聴きました。
発表を通じて、他社の仕事のやり方、特に上司との関わり合い方を知りました。そして、自職場での仕事のやり方に疑問を持ったようです。以前から感じていたことが、他社の事例と比較することで顕在化しました。
2年先、3年先の計画がないこと。
生産管理の仕組みが明確でなく、現場にしわ寄せがきていること。
仕事上のフォローと評価がないこと。
などなど。
その若手は、他社事例から大きなインパクトを受けました。その後の彼の行動に、驚きの程度が表れていました。
彼は、感銘を受けた会社の発表者のところへ足を運び、名刺交換をしたのです。現場の若手で、ここまで行動したのですから、たいしたものです。心の底から感じたのでしょう。
その発表者から、さらに具体的な話を聞いたようです。
職場が目指すべき状態が設定されているので、2年先、3年先に現場で何を目指したらいいのかがわかる。生産管理の仕組みがあり、上司は日常業務でも現場の支援してくれる。
主に、この2点が印象に残ったと語ってくれました。
彼が感銘を受けた会社というのは、地元の大手企業です。大手企業は、仕組みで現場をしっかり掌握します。と言うより、大手の規模では、仕組みがないと、そもそも仕事にならないのです。
ですから、その若手が耳にしたことは、特別なことではありません。
大手は、関係者への影響度も大きいことから、当然に長期計画を提示します。若手が感銘を受けた発表者の企業が、とりわけ優れていたわけではありません。
しかし、自職場とその発表者の職場とを比べて、彼が抱く日頃の疑問がはっきり理解できたわけです。
その若手が語っていた言葉を今でも覚えています。
「このままでもだいじょうぶなんでしょうかね。」
目の前の仕事のやり方に改善の余地があること感じつつ、見通しがはっきりしない職場に不安を感じていたのです。
100から150人前後までの規模の中小製造現場ならば、仕組みがなくても日常業務は廻ります。業務効率はさておき、営業から届いた受注情報に沿ってものを造り、顧客へ送り届けることはできるでしょう。規模が小さいが故に、一人一人の頑張りで仕事を処理できます。
ただし、これは、あくまで作業をこなすことに限った話です。将来、目指すべき状態が設定されていない中で、現場は、将来に対して、漠然とした不安しか感じません。将来が見えない分、現状への不満が増幅されます。
現状の不満を解消する最良の方法は、見通しを示すことです。将来への不安を解消すると、現状の不満は軽減されます。今、辛くても、将来を見通せば、頑張れるということです。
大手の製造現場で、長期計画を立てながら開発業務に従事したことがあります。こうした経験を踏まえると、見通しがない状態の不安感を理解できます。羅針盤なしの目隠しで、航海に出るようなものです。
工場経営の本質は、”自分の想いを、他人を通じて実現すること”です。経営者は、現場に対して、働きかけることしかできません。
それであるならば、経営者は現場からやる気を最大限に引き出すよう働きかけるまでです。現場のモチベーションを高め、現場から生み出されるお金を最大化します。
そうして、経営者自身の想いを実現すればいいのです。
5年先、10先の見通しを示すことで、現場の若手は希望を持ちます。希望を持てば、やる気が出ます。見通しを示して、目指すべき状態を設定することが経営者の最大の仕事なのです。
現場が踏ん張れるか、踏ん張れないかは、見通しの有無にかかっています。
昨今の新入社員は、10年先をあまり明るいものと考えない傾向にあるとの調査発表もありました。ですから、なおさら経営者は、見通しを現場へ伝える意義があります。
ウチの工場、現場の5年先、10年先の見通しは、明るいのだと断言するのです。世の中がどうなろうが、ウチはだいじょうぶだと。
こうした見通しを知った現場、特に若手は、経営者のために踏ん張り、一肌脱ぎます。現場は、経営者のために頑張りたいと考えていることも忘れてはなりません。
儲かる工場経営では、足元でお金を積みあげることが重要です。今、儲かっていないのに、将来のことを語っても説得力がありません。
ですから、10年ロードマップ戦略プログラムでは、まず、流れに着目して、現場のムダを徹底的に抽出します。利益につながるカイゼンからです。
それから、モノづくり連鎖の全体最適化を目指します。カイゼンとイノベーションを連携し、事業の質を1ランクアップさせます。
5年先、10年先の見通しを立て、プロジェクトを進めるのです。
10年ロードマップ戦略プログラムは、足元で稼ぐことを重視しつつ、5年先、10年先を見通します。そうして現場、特に若手人財から持続するやる気を引き出すのです。
現場からやる気を引き出すのに、見通しがどれだけ重要なのか、肌で感じてきました。経営問題を解決する視点を持った現場活動と同じくらい、あるいは、それ以上に重要なのは見通しを示すことです。
これがなければ現場、特に若手人財が将来に不安を感じるのを知りました。だから、10年ロードマップ戦略の最終目標は、次世代を担う若手人財に今の儲かる工場経営を引き継ぐことなのです。
全て、実地で経験したことが背景にあります。
5年先、10年先の見通しを現場へ提示するために、10年ロードマップ戦略書をいっしょに設計しませんか?