「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第443話 現場改革や意識改革の目的をはっきりさせたか?
「将来構想が先ですね。」
先日、個別相談をいただいた化学製品メーカー幹部の言葉です。
その企業の収益は堅調です。コロナ時も黒字を維持できていました。近い将来、現経営者から事業を引き続く予定です。先の幹部は、現経営者からすでに実務を引き継いでいます。実質的にトップの役割を果たしている幹部です。
製造業の経営者は事業を成長させるのに前のめりになります。
工場経営の実務を通じて、製造業における現状維持は相対的な後退になることを知るからです。製造業は技術の世界で戦っています。市場と向き合えば気付くことです。
先の幹部も、一層の利益の拡大を狙っています。そして、利益拡大の機会も手にしてきました。しかし、現場がついてきてくれない・・・。ここに問題があるのです。
利益拡大の機会を活かそうと、現場へ仕事のやり方を指導してきました。しかし、上手くいきません。経営者は、現場改革や意識改革が必要と感じています。
そこで、先の幹部へ、製造業の収益構造や事業構造、指示導線をお伝えしました。先の幹部は何かに気付いたようです。冒頭の言葉です。
●経営者は現場改革や意識改革を願う
市場と向き合っている経営者は、現場の仕事のやり方は、常に変えていかなければならないと考えるものです。生産性を高めるためです。
市場の変化を、肌で感じていればそうなります。
そこで、現場改革や意識改革!となるのです。
製造業の経営者は、従業員に対して、継続的な意識改革や現場改革の実現を願っています。構造改革、経営改革を実践するためです。儲かる事業モデルに変えたいのです。
●経営者以外の誰かが主導する
変わることには、エネルギーがいります。本来、やりたくありません。今のままが楽です。ただ、製造業において、現状維持は、相対的な後退になります。技術の進化は日進月歩です。
製造業で生き残るには、市場の変化に合わせて、我が社を変えるしかないのです。
代わろうとすれば、失敗もあります。辛いです。変わる過程ですったもんだも起きます。現場のベクトルを揃える努力も求められるのです。
従業員同士で膝を詰めて話し合うことも大事になってきます。従業員1人ひとりの「腹落ち」が必要だからです。現場にずっと身を置く人でなければ、分からないこともあります。
経営者に言われたから変わるではなく、変わらないと会社が生き残れないとの想いが、変革の原動力でないと、自主性は引き出されません。
したがって、現場の意識を変えるには、経営者以外の誰かが主導する必要があります。
意識や思考回路は、他人の頭の中にあるものです。無理やり、直接的に、直ぐに、変えられるものではなく、時間を味方につけることも大事です。
現場改革や意識改革の主役は工場、現場です。
現場では、右腕役と現場キーパーソンが従業員を指導します。これは、製造業の4階層指示導線の仕組み、そのものです。
●現場改革や意識改革の目的を伝える
現場改革や意識改革は手段です。その目的は構造改革、経営改革にあります。経営者の願いは、我が社の事業モデルを、儲かる事業モデルに変えることです。
その先に、付加価値額の積み上げ、利益拡大、人時生産性向上、利益アップと給料アップ、地元貢献・・・があります。
経営者の願望は、経営者が、儲かる事業モデルを手にしたら実現されるのです。
経営者は、「儲かる事業モデルを手にしたい」と言う現場改革や意識改革の目的を、右腕役や現場キーパーソンへ、きちんと伝える必要があります。
・現場改革や意識改革を、手段と捉える場合
・現場改革や意識改革を、目的と捉える場合
両者で、右腕役や現場キーパーソンの思考回路は異なるからです。前者では、目的を果たすために手段をどうする?と考えます。後者では、とにかく言われたようにやればイイと考えます。前者の場合、関挙げる機会を与えることになるのです。
経営者が、現場改革や意識改革が必要であると感じたとき、そのほとんどは、手段としての現場改革や意識改革です。経営者はその目的に焦点を当てて、右腕役や現場キーパーソンへ、手段としての現場改革や意識改革を指示します。
右腕役や現場キーパーソンへ、考える機会を与えるのです。
経営者は、右腕役や現場キーパーソンのトレーナーでもあります。トレーナーなのでフォローと評価もやらなければなりません。目的を果たすための、現場改革や意識改革です。
先の経営者の狙いは、利益を拡大させる将来構想の実現にあります。そのために現場を変えるのです。
そうであるなら、現場改革や意識改革を指示する前に、目的となる将来構想を明らかにする必要があります。先の幹部は、頭の中にある構想の見える化を、まだ、やっていません。
●右腕役や現場キーパーソンを指導する
現場改革や意識改革では、従業員1人ひとりの腹落ちが不可欠です。時間も味方につけなければなりません。したがって、現場改革や意識改革は右腕役や現場キーパーソンに任せるしかないのです。
そもそも経営者の仕事場は外にあります。経営者自身が工場での業務に多くの時間を割けません。だから、製造現場では4階層の指示導線を機能させます。
改革だけでなく、足元の生産活動も、右腕役や現場キーパーソンに任せなければ、経営者は社長業に専念できないのです。
製造業には「設計・開発」「加工・製造」「販売・営業」の流れがあります。
これは、付加価値額を積み上げる業務の構造です。経営者は「設計・開発」「販売・営業」に専念します。付加価値額の源泉は、全て外にあるからです。
経営者が工場にいても、儲けのネタはありません。そうであるなら、「加工・製造」は右腕役や現場―キーパーソンに任せたいのです。
「加工・製造」は、製造業ならではのプロセスです。製造業であるなら経営者も重視したいと考えるのは当然です。
しかし、儲かる事業モデルのネタの多くは、「設計・開発」「販売・営業」にあります。したがって、経営者は外の仕事に時間を割かざるを得ません。
そして、「加工・製造」については、右腕役や現場キーパーソンが経営者に代わって、現場を指導するのです。経営者による右腕役や現場キーパーソンへの指導が必要なのは、「経営者の代わり」をやってもらうからです。
そして、経営者の頭の中にある将来構想の要点の多くは、「設計・開発」「販売・営業」で語られます。現場改革や意識改革の目的が、ここにあることを、きちんと伝えるのです。
●右腕役や現場キーパーソンの仕事を明らかにしておく
経営者は、「加工・製造」、工場の仕事を、現場に任せないとなりません。任せるにあたり、右腕役や現場キーパーソンの仕事を明らかにします。
・経営者の代わりを果たす
・部下を指導する
・計画表を作成する
製造業には「設計・開発」「加工・製造」「販売・営業」の3つの流れがあり、経営者は意識しようと、意識しまいと、これら3つを繋いでいます。
この構造を理解した上で、意志や意図を持ち、意識的にやっている経営者は、上手くやれるのです。
したがって、経営者は3つ全てをやりたいところです。が、そうはいきません。
経営者の時間は限られます。優先順位の高いところからです。だから、「設計・開発」「販売・営業」になります。
経営者の仕事は「儲かる事業モデルに変える」「儲かる事業モデルを造る」です。我が社を代表する人が、外で市場と向き合います。
そして、内の「加工・製造」を誰かにやってもらうことになるのです。現場では、右腕役や現場キーパーソンが経営者の代わりを果たします。
では、具体的には何をやるのか?
作業指示を通じて、現場作業者に経営者の意志や意図、考え方を伝えるのです。経営者に代わって、従業員への指導をやります。
生産活動に加えて、できないことをできるようする指導が多くなります。なぜなら、経営者が抱く意志や意図は、概ね「無理を承知でやる」ことがほとんどです。
生産活動以外の取り組みなので、計画表が大事になってきます。フォローと評価をやります。進捗をうやむやにしません。計画表は不可欠な道具です。
・経営者の代わりを果たす
・部下を指導する
・計画表を作成する
これらが浸透すれば、4階層の指示導線で「管理する人」と「指示する人」の仕事ぶりが、そのように変わるのです。現場にとって、この仕事ぶりが当たり前になります。
当たり前になると、経営者は外に専念できて楽ができるのです。環境が従業員を育てます。職場環境を通じて身につけたことは本物です。忘れません。
経営者の将来構想は「設計・開発」「販売・営業」に関わる事項です。将来構想で設定した「儲かる事業モデル」は構造改革、経営改革で手にできます。
そのために、現場をどう変えるのか?
「加工・製造」での現場改革、意識改革です。
経営者に代わって、右腕役や現場キーパーソンが従業員を指導します。右腕役や現場キーパーソンが、経営者に代わって現場での改革を推し進める以上、目的である将来構想をしっかり伝えないとならないのです。
経営者の「将来構想」が最初にきます。
次は貴社の番です!
成長する現場は、現場改革や意識改革の目的が明確なので儲かる事業モデルへの改革が進む
衰退する現場は、将来構想を抜きに現場改革や意識改革をやるので手段が目的と入れ替わる