「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第450話 経営者の意志を反映した「型」があるか?

「型にはめることが大事です。」

プロジェクトが2年目に入った経営者の言葉です。

その企業では、ベテランの勘と経験による日程計画を脱却して、LT計算に基づいた日程計画に移行しつつあります。

LT計算のデータ体系を構築して、受注に応じた工番毎のLTを自動計算できるようになりました。お陰でお客様への納期即答、前から追いかける日程管理が実践できています。

ただ、日程計画の実践はここからが本番です。

日程計画の目的はお客様の納期遵守ではありません。我が社が儲かる納期を設定して遵守することです。人時生産性向上活動につなげます。

指示導線が機能する現場でなければ持続的な改善活動はできません。右腕役や現場キーパーソンによる作業者への指導も大事になります。

現場作業者を指導する姿勢として、先の経営者が冒頭の言葉を語ってくれました。

 

 

 

 

 

●改善や改革に必要なのは「型」である

イノベーション級の大きな工夫や進歩を修飾するとき「型破りな」と表現することがあります。この表現に従うと、改善や改革に必要なのは「型」であると気付くのです。

改善や改革の計画ではbefore/afterを設定します。今の立ち位置を明らかにしてから、目指す立ち位置を設定します。技術開発では当然の設定事項です。

before/afterのギャップを把握しない技術開発はあり得ません。これは改善や改革でも同じです。beforeがなければ納得感の高いafterを設定できないのです。

納得感の高いafterを設定できないと、右腕役や現場キーパーソンによる作業者への指導が進みにくくなります。現場で何度も目にしてきました。

まずは、現在の立ち位置の設定です。

これが「型」となります。

こわして、破る対象がはっきりしているから、改善や改革をする気になるです。「型」がないのに改善を始めると、見えない敵と戦っているようになります。その場合、活動の良し悪しが分からず、活動自体が目的化されるのです。「

 

 

 

 

 

●仕組み、「型」、標準が経営者の意図や意志に沿って現場を動かす

工場経営の本質は、他人の力を借りて経営者の想いを実現することにあります。加えて、経営者の仕事場は外です。

したがって、経営者がいなくても、現場には経営者の意図や意志に沿って動いてもらわなければなりません。

そのために、経営者は自分の意志や意図をロードマップや方針書、朝礼などで、繰り返し伝え、それを全社で実践できるように、生産管理3本柱の仕組みを作ります。そうして人時生産性を高めるのです。全ては利益アップ、給料アップのためです。

 

仕組みがあれば、経営者が工場にいなくても、現場は人時生産性を高める活動ができます。現場には経営者の意志や意図に沿って動いてもらわなければなりません。仕組みや「型」が経営者に代わって現場をそうしてくれます。

 

経営者の意志や意図とは無関係に、現場が勝手な判断基準で仕事をしていたら儲からないのは当然です。現場丸投げの中小製造企業はそうなります。収益は伸び悩みます。

そうした職場では、キャリアが長いベテランの言動が判断基準になるものです。ベテランの仕事のペースや考え方が基準となります。

その結果、新人は経営者の思考回路ではなく、そのベテランの思考回路を持つのです。経営者ではなく、ベテランのデッドコピーができます。

こうした、現場はますます属人化するのです。そうした現場は、概ね、現状維持に始終します。これでは経営者は困るわけです。

 

 

 

 

 

●考えさせることなく、作業に没頭してもらう環境整備が大事

少数精鋭で多品種をさばく中小製造現場の強みは柔軟性、機動性、小回り性にあります。こうした強みは現場のベクトルが揃っていないと発揮できません。

それと対極にあるのは属人的な現場です。経営者の意志や意図を反映させた仕組みや「型」があれば、現場は悩むことなく作業に打ち込めます。

 

人時生産性を高める上での現場の役割の多くは「効率よく造る」ことす。そうであるなら、現場では全員が標準の手順に従って作業することが大事になります。

なぜなら、標準は、我が社が、今、考えた最良な手順だからです。全員がそれに従ってくれたら儲かりやすくなります。現場には、ここで個性を発揮してもらう必要はないのです。

現場には手順に従った作業に没頭してもらいます。仕組み、「型」、標準が経営者の意図や意志に沿って現場を動かすのです。考えさせることはなく、属人性を排除します。

 

先の経営者も、考えさせることなく、属人性を排除し、作業に没頭してもらう環境整備が大事だと考えたのです。

次の取り組みとして、人時生産性向上に挑戦します。新たに導入した日程計画の仕組みを活用して、我が社が儲かる納期で製造したいのです。

「型」があれば、右腕役や現場キーパーソンも現場へ働きかけやすくなります。そのあたり手順があるのです。

 

 

 

 

 

●「型」があるからこそ、破るために個性を発揮してもらう

現場を「型にはめたい」との考え方は的を射ています。ただし、もうひとつの考え方も忘れてはなりなりません。現場の自主性や創造性、個性を発揮してもらわなければならない仕事もあるということです。

・改善や改革

今の立ち位置を踏まえて、高みを目指す仕事です。できないことをできるようにするのです。製造業の本質はここにあります。

改善は、原則、現場が主体的にやるものです。現場のことは、現場が一番知っています。現場に自主性が備わっていれば、経営者がいなくても、高みを目指す仕事もしてくれるのです。

大いに個々の個性を発揮してもらいます。ここでは、自主性を引き出す仕掛けも大事です。現場へ働きかけずに、「やる気」の醸成を待つだけの経営者は時間を浪費します。

 

属人化を避けるために「型」を設定すること、現場の自主性や個性を発揮してもらって生産性を高める「型」破りを実践すること、両者はセットです。

・属人化を避けるための「型」の設定

・生産性を高めるための「型破り」の実践

経営者は、両者をバランスよく指導するのです。そして、両者を持続的に実践するために、経営者によるフォローと評価が欠かせないのは言うまでもありません。

 

人時生産性向上活動では、まず、現在の立ち位置を標準で設定します。今、考えられる最良の手順を「型」としてはめ込むのです。

ここでは、現場の個性を排除します。勝手な現場の判断基準ではなく、経営者の意志に従った判断基準の「型」にはめ込むのです。

こうした仕組みが改善や改革を上手くやるための土台となります。そして、この先に人時生産性向上のプロジェクトがあるのです。

「型」があるからこそ、壊して破る対象がはっきりします。「型破り」では、現場の個性を大いに発揮してもらうのです。そのための「型」です。

貴社には経営者の意志や意図を反映させた「型」がありますか?

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、「型」があるので、それを破るため、自主的に人時生産性向上に取り組む

衰退する現場は、「型」ないので、ベテランの言動が判断基準となり現状を維持するだけ