「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第461話 中小製造経営者が絶対に知るべき指標の使い方とは?

 

「営業利益率がなかなか上がらないんです。」

ロードマップで実績の推移を見ていた中小製造業経営者の言葉です。

 

重要な経営指標の一つに「売上高営業利益率」があります。本業の利益率と言われている指標です。この数値変化を見ていた経営者が、気にしていることを口にしました。

率直な言葉です。ここ数年、着実に改善を重ねています。それだけでも嬉しいことです。そして、その営業利益率は2~3%になっています。

 

振り返ると、利益が出る時の営業利益率はいつも、そのような水準でした。ただし、大企業の利益率は中小よりも高い傾向にあるので、営業利益率を高めないといけないのだろうか?今の2~3%前後のままではまずいのだろうか?との疑問が湧いてきた経営者です。

 

利益率は高いことに越したことはありません。ただ、少数精鋭の中小製造業だからこそ、こだわりを持ちたい指標があります。

 

 

 

 

 

●現在の立ち位置を知るために実績を数値で把握する

 

例えば、登山に挑戦するとき、現在地を知らずにルートを決められるでしょうか?ビジネスでも同じです。

ロードマップには現状と将来が示されます。大事なのは将来です。実績をいくら分析しても新たな発見は何も出てきません。経営者は過去のことを全て知っています。

 

「実績値を分析した結果、問題の原因が分かった。」という経営者はいないのです。分析以前に、経営者はなぜ問題になったか分かっています。

だから、実績の分析に多くのエネルギーを費やしても得るものはあまりありません。それよりも大事なのは将来です。

 

将来の収益をどうやって獲得するか?

経営者の焦点はこの1点に当てられます。そして、付加価値額の源泉は工場ではなく、市場にしかありません。自然と経営者の仕事場は「外」になるのです。

 

ロードマップに将来がきちんと書かれていると全社のベクトルが揃いやすくなります。右腕役や現地キーパーソンはそれを見て、次のように考えるのです。

・社長は○○年後に××になることを目指しているのか!

・そのためには、今から、○○をやり始めないといけないなあ。

 

ロードマップは、

・将来のこと

・将来のために、「今」、やらなければならないこと

経営者の代わりに、これら2つを右腕役や現地キーパーソンに伝えてくれます。そのとき、大事な役割を果たすのが数値、各種の指標です。

そして、実績の数値は我が社の現在の立ち位置を示しています。実績を分析しても得られることは少ないですが、今、我が社はどのあたりにいるのかを教えてくれる点で、大事な役割を果たしているのです。

現在の立ち位置が分かるから、将来を考えられます。実績の数値は分析ではなく、今の立ち位置を知るために使うのです。

 

 

 

 

 

●二種類の指標を使い分ける

 

現在の立ち位置を知って、将来を考えるために、各種の指標を使います。そして、その指標には、二種類あることに気づかれるでしょう。「指標そのものの数値」と「率」です。

 

前者は売上高、経営利益、付加価値額、人件費など。

後者は利益率、生産性、回転率など。

前者は、我が社の数値をそのまま表します。そして、その数値の絶対的判断は難しいです。企業規模や業種業態、地域性も反映されます。

経営者は、業界数値を参考にしながら、数値の水準を判断するしかありません。そして、数値変化を追いかけて、豊かな成長に繋げて前進しているかを検証するのです。

 

一方、後者は分数で表現されます。営業利益率なら営業利益÷売上高、人件費生産性なら付加価値額÷人件費、棚卸資産回転率なら売上高÷棚卸資産。分子を分母で除することで見えるものがあります。

 

船の舵取りでは、現在位置の把握と目的地へ向かう方向の決断が求められます。指標そのものの数値で表される指標は、絶対値指標です。これは現在の位置(緯度・経度)のようなもの。自分がどこにいるかは分かります。しかし、それだけで、進路は決められません。

率指標は羅盤(コンパス)のようなもの。どちらの方向に進めば、効率的に目的地に着けるかを教えてくれます。率は「傾き」です。単位●●当たりの数値を表しているので、儲ける原動力が見えてきます。コッチ方向へ進めば儲かりそうだ、教えてくれるのです。

貴社では、「指標そのものの数値」と「率」、どのような指標を設定していますか?

 

 

 

 

 

●「率」で判断する要点を知る

 

弊社は人件費生産性を重視しています。この数値を伸ばすことが利益アップ、給料アップ、豊かな成長につながると考えるからです。

人件費生産性では、分子に「付加価値額」、分母に「工数」を持ってきます。要点は分母を「工数」にしていることです。これには明確な理由があります。

 

・「率」で経営を判断する際、分母には制約要因を持ってくる

こうした原理原則があるからです。

 

中小製造経営者は多くの制約条件に直面しています。最大の制約は人材確保です。大企業と違って容易に人を採用できない状況にあります。少数精鋭です。

そうであるなら、経営者は、この少数精鋭の従業員から得られる工数を効率よく現場へ投入したくなります。

 

ここで、町の小さな蕎麦屋を想像してください。店主一人で切り盛りしています。投入できる工数は一日一人分しかありません。

したがって、一日に作れる蕎麦の量に限りがあります。購入できる工数に制約があるなら、一杯あたりの付加価値額を最大化することが、繁盛の鍵になります。

一日に作れる蕎麦の量は10杯であるなら、一杯300円の付加価値額を生む蕎麦を10杯作るより、一杯500円の付加価値額を生む蕎麦を10杯作る方が、多くの利益を生むのです。

人時生産性の多寡が判断基準になります。

 

工数の投入量に制約があるのなら、闇雲に頑張っても儲かりません。単位工数当たり付加価値額を大きくしたくなります。

・人時生産性を右肩上がりで高める

そうすれば、工数に制約があるなかでも、儲けを大きくできるのです。工数に制約があるので、それを分母に持ってきました。

 

中小製造業の従業員一人当たり年間で稼ぐ付加価値額の数値が、毎年、発表されています。

中小企業庁が調査をする中小企業実態基本調査です。中分類66業種別の数値が分かるので有益なデータです。

支援先経営者とは、これらのデータと比べながら、将来へ向けて目指したい数値を議論しています。

 

さて、制約になるのは、工数ばかりではありません。スペースが制約になる業界があります。デパートやコンビニのような小売業界です。

売場面積当たり売上が高い店舗を目指します。宝石・時計を扱うフロアーはお惣菜を扱うフロアーよりも稼げそうです。

また、運送業なら制約は積載重量、積載容量となります。単位重量、単位容量当たりで付加価値額が大きい商品を扱うのが商売上有利です。

 

このように、分母に制約要因を選べば、その指標は収益最大化の判断基準になります。したがって、弊社は分母を工数、分子を付加価値額とする指標を経営者の皆さんにお勧めしているのです。

 

 

 

 

 

●制約になっているのか?儲かる事業モデルになっていないのか?

 

経営指標として売上高営業利益率があります。冒頭の経営者が触れた指標です。これは利益額を売上高効率で判断しています。企業活動をマクロに捉える指標です。

中小企業白書2024年版には大企業と中小企業の売上高営業利益率が掲載されています。ここでいう大企業とは資本金10億円以上、中小企業は資本金1億円未満の企業です。データは2022年度実績値です。

大企業 6.3%

中小企業 1.9%

 

業種業態全ての平均値です。予想されたことですが、大企業が中小企業を上回っています。利益率は高いことに越したことはありません。ただし、利益率の高低で何かを判断する場合、気をつけないといけない場合があることに留意を要します。

なぜなら、分母の「売上高」は制約要因ではないからです。

もし、貴社の売上高が伸び悩んでいるなら、それは「売上高が制約になっている」のではなく、儲かる事業モデルになっていない」ことに原因があります。

 

したがって、製品別に付加価値額をその「売上高」で除した数値(製品別付加価値額創造率、粗利率)を意思決定に使う場合、必ずしも適切な指標にならないということです。

売上高合計が制約になるなら、営業利益率の高低が要点になります。ただし、売上高の上限が設定されることは、特別なケースを除いてありません。

経営者は、制約になっていることと儲かる事業モデルになっていないことをきちんと見極める必要があります。

 

 

 

 

 

●原則を理解しながら応用する

下記は原理原則です。

・「率」で経済性を判断する時、分母には制約要因を選ぶ

ただ、厳密性はありません。

指標を設定する目的は、状況判断や意志決定の手掛かりを得ることにあります。したがって、原理原則を踏まえて、貴社独自の指標を設定すればいいのです。

このあたりは、しばしば、支援先経営者と議論になります。

 

例えば、先の経営者が触れた営業利益率は、原理原則から考えると、売上高に制約はないので、利益最大化の意志決定の手掛かりにはなりにくいです。

ただ、重要な指標であることに間違いはありません。大事なのは、貴社の理念や方針を実現させる上で、営業利益率はどうあるべきかを考えることです。

 

そして、多くの経営者は従業員や地域の豊かな成長に貢献したいと考えています。豊かな成長には、従業員の給料アップも欠かせません。

そうであるなら、右肩上がりを目指す指標の設定は大事です。

 

・営業利益、経常利益

・付加価値額、粗利、スループット

どちらも儲けに関連する数値です。ただし、製造業の収益構造を踏まえると、自然と付加価値額、粗利、スループットベースの指標に焦点が当たります。

 

そして、各指標の定義を踏まえると、貴社の理念や方針を実現させるのに、下記のやり方もあります。

・営業利益率を一定水準で維持しながら、人時生産性をグングン高める

先の経営者には、そのようなことを伝えました。

 

 

 

 

 

指標は原理原則を理解しながら応用して使用します。公に報告する数値ではありません。状況判断や意志決定の手掛かりを得るために、貴社が、独自の指標を設定すればいいのです。

貴社では、どのような指標を設定していますか?

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、制約原理を理解しているので状況判断の手掛かりを得る指標を設定できる

衰退する現場は、一般的な指標を並べるだけなので、状況判断の手掛かりが得られない