「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第48話 多能工化には現場のチーム力を高める効果がある
現場の多能工化を計画的、体系的に進めていますか?
少数精鋭で筋肉質の現場は、柔軟性も兼ね備えています。
そして、柔軟性が高いとは、次のようなことです。
・多品種少量生産で、多様な工程をこなせる。
・減産体制で、需要量に適応した人員再配置ができる。
・突発依頼に対応できる体制を維持できる。
これらができる現場の柔軟性は高いです。
そして、これらを可能にしているのが「多能工化」です。
現場メンバーの多能工化水準が高ければ、高いほど、人員配置の選択の幅は広がります。
多品種にしろ、短納期にしろ、幅広い要求に対応できる現場です。
そうした現場では、顧客へ提供する製品(サービス)の価値を高められます。
多能工化はQCDに関連した価値を高めているのです。
さて、多能工化を進めるポイントは2つあります。
1.多能工化が必要な背景を現場に理解してもらうこと。
2.多能工化の進捗を見える化すること。
10人規模の自動車部品製造ラインでの話です。
1名の作業者が仕事を辞めることになりました。
もともと余力がない状態で2交替勤務を廻していた職場です。
1名抜けると、つなぎ残業の負荷も大きくなります。
そこで、新たな人員の採用活動を進める一方、残ったメンバーでの対応方法に知恵を絞りました。
人員が減っても、生産性を維持、あるいは向上させる取り組みです。
その現場では、初めて取り組む改善活動でしたが、現場リーダーを中心に、多様な工夫を展開してくれました。
中でも印象的だったのは、外観検査を専門にやっていた女性パート従業員の申し出です。
フォークリフトの免許を取得して、検査業務の合間に運搬作業をするというものでした。
これによって、他の従業員の運搬作業負荷を減らすことができます。
その結果、残業時間を減らすことに貢献したのです。
現場に、しっかりと現状を伝え、目指すべき状態を提示すれば、現場もいっしょに知恵を絞り、頑張ってくれることを実感しました。
知ってもらうと、期待以上の頑張りを現場が示してくれることがあるのです。
知らせることの大切さを理解しました。
こうした頑張りに対して、経営者や管理者はフォローと評価をすることが重要です。
現場と深い信頼関係を築けます。
また、20人規模の機械加工職場で、戦略的に多能工化を進めたことがあります。
狙いは顧客へ提供する製品(加工品)に付帯するサービスの品質を向上させることです。
突発対応や短納期が主な狙いでした。
そうして、単価UPを目指したのです。
現場へは、戦略的な狙いを説明し、組織的に進めることを説明しました。
そして、多能工化の進捗を見える化して、取り組み始めました。
個別の進捗に加え、全体進捗として下記の進捗率を定義し、共有しました。
多能工化進捗率=各人が習得済となった工程数総計÷各人が習得すべき工程数総計×100
誰が順調で、だれが遅れ気味なのか、一目瞭然です。
こうしたことが見えると、自然とメンバー同士がサポートし始めました。
現場のベテランが、若手にこう発破をかけているのも耳にしました。
「腕磨かないと、給料上がらないぞ!!」
実は、これを機会にその職場の評価へ、多能工化の項目を加えてもらうことにしました。
100%ではないですが、ある程度、査定へ反映させることに挑戦したのです。
多能工化の評価が現場リーダーと当事者で実施する仕組みとしました。
ですから、現場の評価も査定へ反映されることになります。
当然、仕事のやりがいは、お金だけではありません。
しかし、ある程度、評価と給与を結びつける仕組み作りも必要なのです。
それは、フォローと評価における”恣意性”の排除を現場に示すことになるからです。
現場との信頼関係を築くのに効果的です。
評価の客観性を示すことで、現場の信頼感は高まります。
さらに、評価に参画している意識は、やる気を引き出すのです。
また、2つの経験を通じて、多能工化には、現場のチーム力、組織力を高める効果があることにも気づきました。
現場メンバー間のコミュニケーションを促すからです。
フォークリフトに挑戦した女性パート従業員の働きを他のメンバーがサポートしていました。
また、技能習得が遅れているメンバーを、ベテランがサポートしていました。
同じ職場の仲間です。
目的が明確であるなら、相互支援の雰囲気が自然と生まれます。
それがモノづくり現場です。
多能工化は、柔軟性を高める職場づくりの柱のひとつです。
QCDに関連した付加価値を生み出します。
多能工化は、経営者の戦略的な意思のもと、計画的、体系的に進めるものです。
加えて、多能工化は、現場のチーム力を高める点にも注目して下さい。
現場の多能工化を進める仕組みをつくりませんか?