「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第503話 知識を教えているのに、なぜ現場が変わらないのか?
「作業者にプロジェクトのことを説明しました。ここは、勝負どころでした。」
先日、ご支援先企業で開催した実践会で、主任が進捗を報告してくれました。
経営者と作成したロードマップ1年目の課題に、早速、着手です。
経営者と右腕役の意思疎通はすでに整っています。こうした現場の取り組みは早いものです。トップダウンの方針が職場に浸透していればそうなります。
まずは小さなPDCAを回すのです。そして、早い段階で小さな成果を出します。チームの凝集性を高めるためです。プロジェクトを定着させる第一歩でもあります。
そこで、主任は、対象となる製品をひとつ選びました。その製品のリードタイムを半減させる取り組みです。
カイゼンでは、作業者一人ひとりの協力が欠かせません。人時生産性を持続的に高めるためには、現場全体の理解と行動が必要だからです。
そこで主任は、対象製品に関わる10人ほどの作業者を集め、今回の取り組みの狙いを説明しました。
訴えたのは「チーム力」です。
主任はリードタイム短縮の知識を上手く使って、作業者にプロジェクトのことを説明しました。現場が主任の言葉を受け止めて、動くかどうか、そこが一番の山場だったのです。
幸い、現場から前向きな反応がありました。嬉しいことです。丁寧に説明すれば、多くの現場はわかってくれます。
この主任は「チーム力」を訴えるために、知識をどのように使ったのでしょうか?
●リードタイム短縮の構造
人時生産性向上の王道は、分子の積み上げです。
分母の工数を減らすのではなく、分母一定のまま、出来高や儲けを積み上げていく。こうやって人時生産性を高めます。製造業における収益体質づくりの基本です。
この分子を積み上げる具体策のひとつが、リードタイム短縮です。
リードタイムが短くなれば、詰めて、空けて、取り込めます。結果として出来高が増え、人時生産性は高まるわけです。
しかし、ここで重要なのは「リードタイム短縮」という言葉を知っているかどうかではありません。リードタイム短縮の体系を踏まえたカイゼンになっているかどうかです。
右腕役や現場キーパーソンに、その体系をきちんと教えているでしょうか?
リードタイム短縮とは、手を速く動かすことではありません。ましてや足を速く動かすことでもないのです。ここを履き違えると、現場は疲れるだけで成果は上がりません。
まず理解しなければならないのは、リードタイムの構造です。リードタイムとは時間の概念ですが、その正体は「モノ」の状態です。
工程管理では、モノの状態は次の四つで定義されます。
加工、検査、運搬、停滞。
現場にあるモノは、この四つの状態のうちのどれかです。この構造が見えると、リードタイム短縮の論点がはっきりしてきます。
●カイゼンを闇雲にやってはいけない
中小企業の現場は少数精鋭です。したがって、カイゼンを闇雲にやってはいけません。
加工なのか、検査なのか、運搬なのか、停滞なのか。四つの状態に焦点を当て、漏れなく見ていく必要があります。そして成果が上がりそうな論点から着手します。
ここで、トップダウンの方針が必要になります。方針がなければ、現場は「なんとなくカイゼン」に陥るのです。カイゼンをやること自体が目的化されます。
表彰されるために、ノルマをこなすために、カイゼンをやっている現場はないですか?
目的は収益化です。方針として、収益化のための因果関係やbefore/afterが設定されていないカイゼンは儲かるカイゼンになりません。
今回、この主任は、社長から出されたカイゼン方針「停滞」に焦点を当てました。
モノが停滞していれば、リードタイムは長くなります。逆に言えば、モノが止まる時間を減らせば、その分だけリードタイムは短くなります。
そうなると、現場でモノが止まる原因を知らなければなりません。
ここで工程管理の知識が役に立ちます。原因を整理できるからです。そして、その原因を一つひとつ取り除いていけば、モノは流れやすくなり、リードタイムは短くなります。
因果関係がはっきりしているカイゼンは、現場のベクトルを揃えやすいものです。言われてやるだけと、理解してやるのと、どちらがチーム力を生かせるか?
個人の工夫によるカイゼンは大切です。ただ、チームで取り組むカイゼンの方が、収益への波及効果は圧倒的に大きくなります。構造的な成果を手にしたければ、個力よりもチーム力。
チームで考え、行動するよう導くのです。そして、考えるためには知識が必要です。貴社では右腕役や現場キーパーソンに知識を伝えていますか?
●咀嚼力を鍛えているか?
この主任は、停滞に焦点を当て、その原因のひとつ、ボトルネックに注目しました。工程管理には「工場の能力はボトルネックで決まる」という基本ルールがあります。
この知識を使って、作業者へ次のように説明しました。
工場の能力は、最も遅れているところで決まる。だから常に仲間の仕事ぶりに注目してほしい。自分の仕事が終わったとしても、遅れている仲間がいれば、職場の能力は上がらない。遅れている仲間がいたら、その工程で手助けしてほしい。最も遅れているところを互いに補完し合えば、工場の能力は高まる。この取り組みの成果は、日々の出来高で計測できる。
この説明で優れているところが二つあります。
一つ目は、ボトルネック解消と「チーム力」を結び付けて説明したこと。
ボトルネックを「最も遅れている仲間」と言い換えました。抽象的な概念を、現場の言葉に翻訳したのです。
二つ目は、評価のやり方を説明したこと。
成果は日々の出来高で測れる。つまり、取り組みの結果が見える形になっています。そして、金額ではなく、現場で実感できる出来高です。
工程管理の知識は抽象的です。そのままでは、現場は動けません。自分の現場に当てはめ、具体的な言葉に変換する必要があります。
教えられた知識を咀嚼し、自分の工程に当てはめる。抽象を具体に変換する力。
知識は地図のようなものです。地図を持っているだけでは目的地には着きません。自分の足で歩いて、初めて道は分かるのです。
知識を実務に活かす咀嚼力。
右腕役や現場キーパーソンに求められるのは、この力です。これが欠けていると、現場の事情に沿った具体的な説明を経営者が一つひとつしなければならなくなります。
経営者は困るでしょう。現場に張り付き、手取り足取り教えなければならないからです。社長業に専念できなくなります。
●知識を与えっぱなしになっていないか?
右腕役や現場キーパーソンに知識を与えても、現場の事情に沿った具体的なことが頭に浮かんでこなければ、知識を実務に活かせないのです。
経営者が現場で、一つひとつ、手取り足取り教えなければ、トップダウンの方針が浸透しない現場があります。こんな問題に直面し、悩んでいる経営者もいるのではないでしょうか。
これでは社長業に専念できません。
考えるためには知識が必要です。
知識抜きで、経験と勘だけで判断するやり方もあります。しかし、それでは我流に陥りやすいでしょう。視野が狭くなるからです。
知識は視野を広げてくれます。そして、自分の経験と勘だけでは思いつかなかった着眼点も与えてくれるのです。
ただし、知識は、実務に活かしてこそ意味があります。知識そのものが利益を生むわけではありません。
自分の職場に当てはめるとどうなるのか。現場の事情に照らし合わせると、どこに論点があるのか。知識や情報を咀嚼し、そこから得られた知見を現場へ落とし込む。
ここまでできて初めて、知識が収益化に貢献したと言えるのです。
つまり、知識は与えただけではダメなのです。
知識を収益化へつなげるように導かなければなりません。咀嚼力を高め、抽象を具体へ変換し、現場へ働きかけるよう右腕役や現場キーパーソンを導く必要があります。
ここは実務を通じたトレーニングしかありません。
ただ、訓練を積み重ねれば、強化されます。筋力と同じです。この企業でも実践会でのプロジェクトを通じて、その訓練を積み重ねています。
知識を与えられた主任が、作業者に具体的な説明ができたのは偶然ではありません。実践会での実務の積み重ねがあったからです。訓練の成果です。
さらに注目すべきは、この企業のプロジェクトメンバーの新しい知識に対する向き合い方です。分からないことがあれば、その場で声を出してくれる。そして、自分の職場にどう当てはめるかを現場で議論する。
いわゆる、仕事に向き合う姿勢です。真摯さ、素直さと言ってもよいでしょう。
こうした姿勢は、一朝一夕に生まれるものではありません。この企業の経営者の仕事ぶりを見て、自然と腹落ちしたのです。
この経営者は、自分の仕事ぶりを通じて、新しい知識と向き合うときの真摯さと素直さを、右腕役や現場キーパーソンへ、知らず知らずのうちに教えていたのでしょう。
この雰囲気があったからこそ、トレーニングで咀嚼力が高まり、知識を実務に活かせたのです。そこには、すでに学びの土壌がありました。
知識は考えるために必要です。しかし、収益を生むのは知識ではありません。
知識を使える人です。
貴社では、右腕役や現場キーパーソンが知識を実務に活かせていますか?
次は貴社が挑戦する番です!
成長する現場は、新しい知識と真摯に向き合い咀嚼力を高めて知識を活かし収益化できる
衰退する現場は、我流と個力のために新しい知識が活かされずチーム力が高まらない