「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第502話 作業者になんでもかんでもさせていないか?

「工番毎に材料を仕分ける作業に時間をかけたくないのです。」

半年前にプロジェクトをスタートさせた40人規模部品メーカー主任の言葉です。

 

経営者は、年商5~6億円水準から、7億、そして、引き続き、10億へと成長させる構想を掲げています。そこで、まず、属人的だった見積もりから日程計画までを自動化も含めて仕組み化しました。

成長に向けた基盤づくりです。営業担当者がオーダーを入力すれば流れる体制を整え、beforeを整えました。そして、目標値に向けたafter設定です。

年商7億円を目指して、リードタイムを30%短縮します。

 

ここからは、右腕役、そして現場キーパーソンと製造ラインでの議論に時間を割きます。現場を観察し、LT短縮の論点を上げていくのです。

そのラインの主任が大事な論点をあげました。冒頭の言葉です。

その大事な論点とは何か?

 

 

 

 

 

●「底上げ」なき生産性向上は、砂の上の城だ

 

人時生産性の目的は、利益アップと給料アップの実現にあります。現状の4,000円台、5,000円台を6,000円台、7,000円台へ高めたい。

ここで、現場が担うのは、モノづくりの効率化です。そして、効率化の主戦場は「分母一定で分子を積み上げる」取り組み、つまり出来高を増やすことにあります。

 

だから、現場キーパーソンは、まず、出来高を上げることに注力するのです。多少のムダがあっても構いません。必要ならば、現場の協力を得て残業してでも積み上げます。

 

そして、出来高を増やすには、できない人を放置しないことが前提です。チームで教え合える現場をつくる。それが人時生産性向上を持続させる条件です。

 

したがって、出来高を増やすのに現場に欠かせないことがあります。

「底上げ」です。

 

「底上げ」とは、できない人をできるようにすることです。

 

才能の差は、しかたがありません。だからこそチームで教え合う。できる人が教えることを「業務」として位置づける。経営者がこれを明示しない限り、出来高は安定して伸びません。

 

個人の努力は「我力」に止まります。しかしチームには「連携の相乗」があるのです。底上げの土台があってこそ、カイゼンは加速します。

 

 

 

出来高を増やすと言っても、やみくもに作業を早めることではありません。

「分母一定で分子を積み上げる」際には、種々の制約の中で、チームとしてどれだけ価値ある作業を増やせるかという視点も大事です。できない人を放置しないことが前提になります。

チームで成果を出すという考え方。

できる人だけが成果を出している状態は、組織としては不安定です。90点の人が100点を目指すよりは、60点の人が80点を出せるようにする方が、チームの成果は大きくなります。

 

底上げが根づいた現場では、曖昧な作業が自然と炙り出されます。

「これ、誰がやるべき作業なのか」という問いが、現場から湧いてくるのです。こうした現場で、できない人は放置されません。

できない人をできるようにする。出来高を増やす取り組みは、実はこの関係性の設計から始まっているのです。

 

 

 

 

 

●その仕分け作業、作業者がやるべき仕事なのか?

 

プロジェクトリーダーである経営者の右腕役は、経営者と考えた計画にそって「底上げ」の取り組みを進めてきました。まだ進捗途中ですが、現場の「気」が変わり始めたことを感じ取れます。

そこで、いよいよ出来高を増やす具体策に着手しました。

主任は、出来高を増やす論点のうち、LT短縮に注目します。すでにLTを自動計算する仕組みがあります。標準書に設定された@LTを短縮する。その余地はどこにあるのか。

観察を重ねる中で、ひとつの動作に目が留まりました。

 

 

LTとはモノの状態の内訳です。そして重要なのは、モノの状態とセットで、ヒトの動作が決まるという点です。

LTのうち停滞や運搬は価値を生みません。モノが停滞や運搬の状態にしているときのヒトの動作は、簡素化または除去の対象です。

例えば、モノが停滞しているときのヒトの動作のひとつに「段取り」があります。段取りは重要ですが、価値は生みません。だからこそ、簡素化の対象になります。

 

 

 

その現場は2階にあります。1階から加工用の原材料が大きなカゴで送られます。

そして、工番毎、部番毎に区別されて送られているにもかかわらず、2階の作業者は、再び仕分けをしていました。1階での区分が不完全だったのです。

そのため、2階の作業者は、指示書に記載された部番とカゴの現物を見比べ、仕分けざるを得ませんでした。さらに、仕分けには判断が伴います。できない人も出てくるのです。

 

1階で行われた作業を、2階で繰り返しています。これはモノを停滞させる動作です。主任はここを除去対象と考えました。

 

2階で仕分けるのではなく、1階で原材料を2階へ送り出す前に、一目で識別できるようにすればよい。主任が搬送用カゴと識別マーキングに工夫を加えた結果、2階での仕分け作業は不要になりました。

1工番あたり数分の削減でも、1日数十工番が流れる現場では無視できない積み上げになります。モノの停滞時間の削減が、そのままLT短縮に直結したのです。

※貴社でも工番数×削減の工数で、効果を試算できます。

 

そもそも、標準書に、この仕分け作業は規定されていませんでした。なんとなく作業者に任せていたのです。

曖昧な作業には個人差が生まれます。できる人はできる。しかしできない人はできない。

この場合、できない人が悪いのではありません。曖昧なまま任せていた経営者や管理者の責任です。本来、作業指示を出す側が準備すべきことを、「なんとなく」お願いしています。

 

 

 

作業者にあれもこれもさせようとしていないか。

仕分け、確認、判断、段取り。

出来高を増やすと言いながら、価値を生まない動作や判断を作業者に背負わせていないか。

 

LT短縮は、作業者の努力論ではなく、作業内容明確化の問題です。曖昧で、なんとなく任せている作業はないか。この問いを避けたままで、出来高は安定して伸びません

 

出来高を増やすためにLT短縮に取り組むのであれば、作業者の仕事を明確にすることが前提となります。作業者の仕事ぶりが、直接に数字へ反映される以上、曖昧なまま任せる余地を残してはいけません。

 

標準書に規定されていない作業

なんとなく続いている慣習的な動作

誰も疑問を持たなくなっている工程内の停滞

それらを洗い出し、除去対象として捉え直すことが、LT短縮の重要な論点のひとつです。

 

 

 

 

 

●「やらせないこと」を決めるのが、経営者の本当の仕事だ

 

大手製造現場の武器は徹底的な効率です。現場作業から「判断する、考える」を可能な限り排除しています。機械化、設備化、自動化、無人化によって、判断はデータで処理されます。

 

例えば、CAD/CAMでは、設計から製造までを一貫して行い、CAMでNCデータを事前に準備しています。蓄積されたノウハウに基づいて最適なツールパスを「事前に」設定するから、製造プロセスは効率化され、作業者は作業だけに専念できます。

 

誰でもできる現場をつくるために、属人性を排除しているのです。最短LTを実現できるのは、作業者に、作業だけを担ってもらう構造を設計しているからに他なりません。

 

したがって、仕分け、計算、プログラミングなどの「判断」を要する作業を作業者に任せた時点で、LT短縮の取り組みは壁に直面します。これらの作業はLTの内訳に含まれ、その時間は確実に積み上がります。

 

そして、その作業には個人差が生まれます。外観検査や計測といった水準の判断であればLT上の差は比較的小さいかもしれません。しかし、仕分けや計算のような水準の判断を伴う作業では、LT上の個人差は避けられないのです。

 

作業者にどの水準の判断を求めるのか?それを決められるのは、経営者しかいません。底上げを指導できる経営者のもとでだけ、現場は自走します。

 

属人的な現場でいつまでも苦労するのか。外に専念できる構造を持つのか。

その分かれ目は、経営者の姿勢にあります。

貴社の現場では、やらせないことをはっきりさせていますか?

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、「底上げ」雰囲気にあふれ、できない人をできるようにチームで教え合う

衰退する現場は、一人ひとりは頑張るが「我力」にとどまるので教え合うことまで至らない