「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第507話 なぜ、工場が回らなくなるのか?原因は現場ではなく社長にある
●「忙しいのに、なぜか儲からない」現場で起きていること
「そこに要点があったとは気づきませんでした。」
数か月前、人時生産性向上プロジェクトに着手した産業設備メーカー経営者の言葉です。
年商5億円を10億円水準まで成長させたい。そこで、営業力を強化し、ターゲットを絞って市場を取りにいく方針を立てました。
中小製造業のやることは一つです。お客様の要望に応えること。それができれば選ばれます。これは間違いありません。実際、この経営者もその考え方で営業を進めていました。
ただ、話を進める中で現場の問題点が見えてきます。
「問い合わせが来た案件を基本的に断らないようにしています。せっかくの機会ですから。全て受けようとしています。」
一度断ると、二度とお願いされないのが製造業です。競合がたくさんあります。お客様にとっては選択の余地が広いです。それを肌感じているこの経営者の姿勢は正しいと言えます。
しかし、その結果、現場はどうなっているのか。
「仕様が毎回違うので仕事の準備に時間がかかります。前回のやり方がそのまま使えないんです。図面を見直して、注意しながら段取りをやるのですが、それでも手順を間違えることがあります。」
現場責任者の言葉です。
「納期もバラバラで、急ぎの案件が入ると全部崩れます。結局、残業で何とか合わせています。」
多様な要望に応えることは重要です。
しかし、中小製造企業には人員にも設備にも限りがあります。
問い合わせに都度対応し続けると、仕事はパターン化できず、都度対応の連続です。一定規模を超えたあたりから、現場は振り回されるだけになります。
「忙しいのに、なぜか儲からない。」
この経営者もまさにその状態でした。
そこで、この経営者と議論を重ね、自社の「身の程」に合った多様性を設定しました。ターゲットを絞り、その市場でシェア1番を目指す方針です。
そして、市場の方向性が明確になると、いよいよ経営者の視線は外へ向きます。
「これからは外での時間を増やさないといけませんね。」
そう語る表情は明るいものでした。
しかし、ここで多くの経営者が直面する壁にぶつかります。
「自分がいないと工場が回らないのです。」
はっきりとした右腕役がいない。現場を全体最適で導く存在が不在なのです。
そこで、この支援先でのプロジェクトは、現場展開に移りました。
右腕役と現場キーパーソンの育成です。経営者が外に出る時間を確保するためには、代わりに工場を回せる体制が必要となってきます。
そこで、まず現場での製造の流れを整理しました。問い合わせから製造、フォローと評価までの一連の流れを図に落とし込み、全体を俯瞰できるようにしたのです。
感覚で捉えていたものを、見える形にしました。これは、実務を通じて右腕役と現場キーパーソンを指導する事前準備でもあります。
そして、その図を見たとき、この経営者が発したのが冒頭の言葉です。
この経営者は何に気付いたのでしょうか?
●なぜ、工場を任せられないのか?ー生産管理を「構造」で捉える
では、この経営者は何に気付いたのでしょうか?
気付いたのは「儲かる事業構造の土台はどこにあるのか」という要点です。
この経営者は、生産管理の全体構造を俯瞰する視点を持っていました。だからこそ、その要点に気付けたのです。
製造業には、儲けるための手順と考え方が体系化されています。それが生産管理の3本柱、すなわち品質管理・原価管理・工程管理です。
しかし、多くの現場ではこれらを単なる管理手法として扱っています。
品質は検査、原価は費用集計、工程は作業手順。
この理解でも間違ではないですが、経営者がこのような見方しかできなければ、いくら現場で頑張っても儲かる構造になりません。
経営者が持つべき視点は、「これらをどう組み合わせれば、我が社が儲かるのか」という構造の視点です。
さらに言えば、「どのような構造にすれば、右腕役と現場キーパーソンに任せられるか」という視点です。
経営者が外での活動、すなわち市場と向き合う時間を確保するためには、内である工場の活動を任せる必要があります。そのためには、任せられる仕組みが不可欠です。
ここを曖昧にしたまま丸投げすれば、右腕役も現場キーパーソンも混乱してしまいます。
では、何を任せるのか。そこに生産管理3本柱の体系を組み込むのです。ただし、そのままではいけません。経営者の意志と判断基準を埋め込む必要があります。
任せるとは、作業を渡すことではありません。判断基準を渡すことです。ここを外すと、どれだけ人を増やしても、工場は経営者依存のままです。
例えば原価管理です。単なるコスト分析では意味がありません。それは過去を並べた死亡診断書です。経営者が知りたいのは、「今つくっている製品は儲かっているのか?」です。
この問いに答えられる状態でなければ、任せたことにはなりません。経営者も安心して外へ出られません。
工程管理も同様です。多くの現場は、問い合わせから製造までの手順を持っています。多少属人性があっても、納期は守れている。
しかし、それは「回っている」だけであり、「任せられる」とは別の話です。儲かるためには「我が社が儲かる納期」を判断基準にしなければなりません。
生産計画→製造→生産統制、この一連の流れにその判断基準が組み込まれて初めて任せられる状態になります。
さらに、品質管理も同じです。不具合品を流出させない、これは当然の機能です。しかし、それだけでは儲かりません。
出荷前検査で止めるだけではなく、「そもそも不具合を造らない」体制、すなわち「品質を造り込む」体制が必要です。この考え方を仕組みの中に組み込んで初めて任せられます。
不具合をつくらない取り組み自体が経営者を安心して外で送り出してくれるのです。
ここで重要なのは、経営者が上記のように、生産管理3本柱を「構造」で理解しているかどうかということです。単なる手順や管理手法と解釈しません。
マクロの視点、俯瞰する姿勢、いわゆる鳥の目です。全体を見て、どこに何の機能が必要なのかを捉える。この視点があれば、生産管理3本柱の役割を儲かる観点で再定義できます。
逆に、この視点がないとどうなるか。目の前の作業手順にばかり目がいき、「ここをどう改善するか」「この帳票をどう書くか」といった、いわゆる作業の話に終始します。
その結果、右腕役や現場キーパーソンが担うべき領域まで経営者自身が入り込んでしまうのです。結局、仕事をこなせる一部の従業員への指導に偏ります。
するとどうなるか?
任せられる状態はいつまでたっても生まれません。現場は個人の頑張りに依存し、経営者の知らないうちに、担当者が疲弊するのです。
しかし、この経営者は違いました。製造の流れを俯瞰した図を見た瞬間に、「そこに要点があったとは気づきませんでした。」と語りました。
「なるほど、製造前が勝負なのですね。」
儲かる工場経営の本質を捉えた言葉です。
●これは現場の問題ではない-社長の仕事である
「製造を始めてからの取り組みばかりではないのですね。」
この経営者はそう語りました。
これまでにも外部からの指導を受けてきた経験があります。その指導の多くは、製造に着手してからの手順に焦点が当たっていました。
作業日報の書き方、トラブル対応、現場改善。その経営者は、製造活動が始まってからの仕事だけが仕組みづくり対象と思い込んでいたのです。
製造活動が始まってからの仕事も大事な取り組みです。しかし、その積み重ねだけで、右腕役と現場キーパーソンに任せられる状態がつくれるのか?
経営者はこの問いに対する答えを持たなければなりません。
事業が成長すれば、工場内を流れる物量は確実に増えます。
そのとき、製造に着手してからの手順だけをいくら磨いても、現場は回りきらなくなります。少数精鋭の中小製造企業であればなおさらです。
だからこそ、任せる要点を絞る必要があります。その要点が「製造前」にあるのです。
儲かる工場経営を実現する経営者は、すべてを構造で捉えます。構造には目的があり、その目的を果たすために必要な機能を選び取る。
そして、やることと同時に「やらなくていいこと」を明確にします。この判断基準を示せるかどうかが、右腕役と現場キーパーソンを育てられるかどうかの分かれ目です。
細かい実務を追い続ける経営者は、この判断基準を示せません。だから任せられない。任せられないから外に出られない。
結果として、市場と向き合う時間を失い、成長の機会を逃します。
これは現場の問題ではありません。社長の問題です。構造で捉え、任せられる状態をつくる。その判断を先送りしている限り、工場はずっと、社長から離れることができません。
外に出て、市場を取りにいくのか。それとも、現場に縛られ続けるのか。
その分かれ目は、すでに目の前にあります。
次は貴社が挑戦する番です!
成長する現場は、構想的な視点をもつ経営者から的確な判断基準を渡され粗利を積み上げる
衰退する現場は、目前に囚われる経営者から作業指示が届くので工数だけが積み上がる