「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第508話 生まれた「余力」をどう使うか、教えたか?
●40人規模の紙製品製造現場で製造主任が語った言葉
「この余力で、人時生産性は上がるのでしょうか?」
先月プロジェクトをスタートさせた40人規模の紙製品製造現場で、製造主任が少し考え込むように口を開きました。
現場は順調に動いています。現在、生産活動が大きく崩れているわけではありません。日々、複数の工番が納期遵守で流動しているのです。
しかし、経営者は次の一手を考えています。年商4億円を5億円水準へ引き上げたいのです。そのために、自ら外へ出て営業活動を強化しようと考えています。
商社や問屋、さらには最終消費者であるレストラン業界へ直接働きかけるのです。
経営者の仕事場は外にあります。付加価値額の源泉は市場にしかありません。
どの商品が選ばれるのか、どの価格帯で勝負できるのか、どの業界に入り込むべきか。これらに正解はありません。
だからこそ、経営者自身が試行錯誤しながら見つけ出さなければならないのです。
そして、この仕事は片手間ではできません。時間がかかります。だからこそ、事業を豊かに成長させるには、右腕役と現場キーパーソンに工場を任せることが課題です。
その一人として期待されているのが、この製造主任です。プロジェクトメンバーとして、人時生産性を高める具体策を学び始めました。
プロセスフロー図で流れを整理し、リードタイムの構造から改善対象を洗い出していきます。そして現場を見直した結果、二つの問題に気づきました。
ひとつは、材料を切断する際のサイズ設定です。作業指示書の数値を読み取り、毎回手計算で設定しています。手計算なので負担増に加えて、計算違いのあるのです。造り直しのリスクに晒されています。
もうひとつは、加工済み品を次工程へ運ぶ際の時間です。レイアウトと仕掛品無管理の影響で、遠回りの動線になっていました。運搬を日々十数回やればそれに要する工数は小さくありません。
前者は計算式を整理すれば自動化できます。コード化し、画面上で入力すれば誰でも同じ設定ができるようになるのです。
後者はレイアウトを見直し、最短動線に変えられます。どちらも、実行すれば確実な効果が得られる課題です。
そして、その効果は、「余力」と言う形で得られます。
この主任もそこまでは見えていました。ただ、そこで手が止まりました。
「余力で、人時生産性は上がるのでしょうか?」
正味作業時間が短縮されるわけではありません。この工程だけを見れば、出来高が大きく増えるわけではないのです。この工程単独では、大きく詰めて、空けるほどの効果は得られません。
それでも、このカイゼンは意味があるのか?
それとも、やっても成果につながらないのか?
現場で生まれた「余力」をどう扱うのか?
貴社の現場は、この問いかけへの答えを持っていますか?
●「人時生産性を落とさない視点」を持っているか?
人時生産性向上を考えるとき、少数精鋭の現場で、まず押さえておきたい原則があります。分母を一定にして、分子を積み上げるという考え方です。
今の設備と人員数で、どこまで出来高を積み上げられるのか?製販一体で既存設備をしゃぶりつくすという姿勢です。そして、出来高の最大値を見極めるのです。
その具体策のひとつがリードタイム短縮です。そして、リードタイム短縮は「どこを短くするのか」を構造で捉えます。リードタイムの構造は下記です。
・段取り時間
・正味作業時間
・マテハン時間
・工程間の運搬・停滞時間
王道は正味作業時間の短縮です。しかし、それだけではありません。価値を生まない運搬や停滞にも目を向けます。
今回、製造主任が着目したのは、まさにこのマテハンと工程間の運搬・停滞時間です。手計算の自動化と動線改善。この二つのカイゼンによって、確実に「余力」が生まれます。
ただし、この工程単独で見れば、リードタイム短縮への寄与は限定的です。これだけで出来高が大きく増えるわけではありません。
では、このカイゼンは意味がないのか?そんなことはありません。
ここで視点を一段引き上げます。
カイゼンの多くは、特定の工程、特定の作業から生まれます。しかし、その効果をその場だけで使おうとすると、成果は小さくなります。
工場全体を見渡し、活かせる場所へ投入するのです。そこで大きな効果に変換されます。
この製造主任は、生み出された余力を「遅れている工程」に投入しようと考えました。
この発想が重要です。人時生産性は、進んでいる工程ではなく、遅れている工程によって決まります。どこか一つでも詰まれば、全体の流れは止まるからです。
つまり、余力を、それを生み出した工程だけで使えば、効果は限定的です。部分最適でとどまります。そこで、余力を、全体最適を見据え、工場全体の流れを整えるために使うのです。
遅れている工程に投入し、流れを回復させます。その結果として、全体の出来高が維持される、あるいは押し上げられるのです。
ここで見落とされがちなのが、「人時生産性低下を未然に防ぐ」という視点です。
多くの現場は、人時生産性を上げることばかりを考えます。しかし実際には、日々の現場では遅れが発生します。段取りがずれる、トラブルが起きる、工程間で滞る。そのとき、何も手を打たなければ、出来高は簡単に落ちてしまいます。
ここに、生産統制の考え方を当てはめるのです。
遅れを認識したら挽回します。余力がある工程から、その余力を遅れている工程へ移動するのです。苦戦している仲間を見たら助けに行きます。この動きができるかどうかで、現場の結果は大きく変わるのです。
定時で終わった工程の従業員が残業を強いられている工程の仲間を横目で見ながら、その仲間のことに関心を示さず、さっさと帰宅する現場があります。こうした現場では何かが足りません。製販一体、全社一丸の姿勢に欠けているのです。躾の問題です。
4階層指示導線が機能していません。結局、経営者のトップダウンがないのです。
柔軟性を強みとする少数精鋭の中小製造業であっても、「個の力」だけで成果を出すことは難しくなりました。現場の要素技術や製造条件は、以前よりも確実に複雑になっています。
だからこそ、応受援性と相互補完性が求められるのです。お互いに助け合い、穴を埋め合う姿勢。この関係性が現場にあって初めて、余力は意味を持ちます。
そして、この動きを支えるのが多能工化です。
複数の工程をこなせるからこそ、助けに入ることができます。ただし、ここで重要なのはスキルだけではありません。「仲間のために動く」という意識です。この意識があるからこそ、多能工化が現場の雰囲気として機能します。動機付けは経営者のトップダウンです。
経営者は、チームで成果を出す、こうしたやり方を教えます。教えなければ現場は分からないのです。
応受援性が高く、相互補完性が豊かな現場は右腕役と現場キーパーソンを支えます。その結果、経営者は安心して外に出て、市場と向き合うことができるのです。
●その「余力」の使い方を教えているか?
この製造主任は、生み出された余力を「遅れている工程」に投入しようと考えました。この余力をどう使うかに対する答えを持っているのです。
なんとなくではなく、知識に裏付けられたロジックにしたがってそうしました。判断基準が明らかになっているからそうできます。
特定の工程で生まれた効果を、その工程だけで使うのではなく、工場全体で活かそうとしているのです。この発想は偶然ではありません。
全体最適の視点を持っているからこそ生まれるものです。経営者が右腕役と現場キーパーソンへそう指導しました。
人時生産性を高めることは重要です。しかし、それと同じくらい重要なのが、人時生産性を低下させないことです。
日々の現場では、必ず遅れが発生します。そのときに、遅れを放置するのか、それとも挽回するのか。この違いが、結果として大きな差になるのです。
現場の風土、文化、思考回路が反映されています。この思考回路そのものが、ブラックボックス化した強みになるのです。
ご支援先のいくつかの現場では競合を凌駕する水準でやられているのを感じます。全てその企業の強みになっているのです。
中小製造業の現場は少数精鋭です。一人ひとりの力は大切ですが、それだけでは限界があります。だからこそ、仲間同士で助け合い、穴を埋め合う仕事のやり方が求められます。
応受援性が高く、相互補完性が豊かな現場です。
余力は、こうしたチーム力があって初めて活きます。
遅れている工程には自然と応援の人が動き、苦戦している仲間に手を差し伸べるのです。この動きができる現場は、人時生産性の低下を未然に防げます。
このような現場は自然に生まれるのか?答えは違います。教えなければ、現場は分かりません。どこを助けるのか、なぜ助けるのか、どう動くのか。これらはすべて、経営者が判断基準として示すべきものです。
工場を任せるとは、単に業務を委ねることではありません。判断基準を渡し、現場が自ら動ける状態をつくることです。
納期を守るだけでなく、人時生産性を高める行動、人時生産性低下を未然に防ぐ行動を、具体的に示しているか。ここが問われます。
工場を不在にしても現場が自走する。その状態をつくることができているか?これは現場の課題ではありません。社長の課題です。
次は貴社が挑戦する番です!
成長する現場は、余力を工場全体で生かせるので生産性を上げると同時に落とさない
衰退する現場は、余力をそれを生み出した工程でしか生かせないので効果が限定的である