「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第514話 なぜ、年商5億円を超えると「チーム力」が必要になるのか?
●個別相談で経営者が語った悩み
「先生が言われるとおり、チームで仕事ができていないことが問題です」
先日の個別相談でのことです。
40人規模の設備部品メーカー経営者が、自社の悩みを語ってくれました。
その企業は、板金、溶接、組立を組み合わせて、設備向け部品を製造しています。いわゆる特注品生産の現場です。
大手メーカーの規格品量産とは違い、受注案件ごとに仕様が異なります。図面も毎回変わります。同じものを繰り返し造る仕事ではありません。
規格品では、注意事項を繰り返し伝えることで品質を安定させやすくなります。現場作業そのものが学習の場になるからです。
しかし、特注品はそうはいきません。案件ごとに形状も加工方法も注意点も変わります。標準化やパターン化が難しく、事前チェックも都度対応になります。
「図面一枚ごとに、注意点を伝えないといけないんです」
経営者はそう語っていました。
特注品は手間暇がかかる分、利益率が高くなりやすい仕事です。
一方で、複雑になるほど、手戻りや確認漏れの懸念も高まります。ベテランには阿吽の呼吸で伝わる内容でも、キャリアが浅い新人には伝わりません。
その結果、確認不足や思い込みによるミスが散発する。経営者はそこに頭を悩ませていました。これは、この企業だけの特殊事情ではありません。
中小製造企業の多くは、大手と違う土俵で戦っています。大手が嫌がる、多品種で、手間暇がかかる領域です。収益の柱は特注品という企業も少なくありません。この会社も、特注品領域を強化し、売上高5億円を超え、その先の成長を目指していました。
そこで、この経営者へ、製造業の収益構造、人時生産性向上、4階層指示導線、生産管理3本柱について説明しました。少数精鋭の現場で付加価値額を積み上げるには、仕事のやり方を変えなければなりません。
説明を熱心に聞いていた経営者が、最後にこう語ってくれました。
「ウチはチームで仕事ができていないんですね」
この認識は重要です。
製造現場の推進力には、大きく分けると二つあります。
・従業員一人ひとりの力で押し切る「個力」
・応受援性や相互補完性を高め、全体で成果を出す「チーム力」
事業を成長させたいなら、どこかの段階で個力中心から、チーム力を生かす仕事のやり方へ重心を移さなければなりません。事業の立ち上げ段階では、個人の力で押し切るようなものづくりも重要です。
しかし、それだけでは、行き詰まります。なぜ、チーム力が必要になるのか?
ここでいうチーム力とは、仲良く働くことではありません。経営者の判断基準を共有し、工程と工程、人と人が同じ方向へ動ける状態のことです。
●判断基準で前頭葉思考を活発にする
弊社は多くの中小製造企業を見てきましたが、支援先の売上高規模と現場の仕事ぶりには、ある傾向があると感じています。特に、年商5億円前後です。
業種・業態によって若干の差異はありますが、年商5億円水準までは、いわゆる「力業(ちからわざ)」でも到達することができます。
従業員が懸命に働き、ベテランが踏ん張り、社長自身も現場に入り込んで何とか回していく。個々の力量を前面に押し出した仕事のやり方です。
もちろん、一人ひとりのスキル、姿勢、考え方が付加価値額積み上げの原動力です。まずは、一人ひとり個別の働きが問われますJ。ただ、問題はその先です。
年商5億円を超え、7億円、8億円、さらには10億円を目指そうとすると、個力だけでは息切れし始めます。
中小製造企業は少数精鋭です。だからこそ、個人と個人が連携し、応受援性や相互補完性を高めなければ、増えていく物量をさばけません。
人時生産性を高めるとは、原則、分子の積み上げです。現場の物量は明らかに増えます。ところが、個力依存のまま売上を伸ばそうとすると、「人が足りない」という発想になりやすい。そして、人を増やして物量をさばこうとします。
しかし、これでは分子である付加価値額を積み上げても、分母の工数も増えます。人時生産性は高まりにくくなり、利益や給料アップへつながりにくい状態になるのです。
だから、年商5億円を超える水準では、仕事のやり方を変えることが求められます。
では、個力とチーム力の違いは何か。最大の違いは「判断基準」です。言動の根拠と言い換えられます。
・品質の可否をどう判断するのか。
・リードタイムをどう判断するのか。
・工数をどう判断するのか。
QCDに関する判断基準を、製販一体で共有できているかどうかです。全社統一の判断基準があれば、現場のベクトルは揃います。
逆に、判断基準が曖昧な現場では、人それぞれの解釈で仕事をします。ベテランは経験で補えます。しかし、新人はそうはいきません。
特注品の現場では、案件ごとに条件が変わります。その中で、「何を基準に判断するか」が共有されていなければ、新人ほど不安になるのです。
・失敗したくない。
・迷惑をかけたくない。
・怒られたくない。
そう考えるのは自然なことです。すると、人は自己保身へ傾きます。
一人で抱え込む。聞くのが怖い。判断を避ける。問題を後回しにする。これは能力不足ではなく、判断基準が共有されていない環境で起きやすい現象です。
一方、判断基準がある現場では状況が変わります。
例えば、
・「リードタイムは3分半以内」
・「不良率5%以内」
・「歩留まり80%以上」
・「工数30人時以下」
こうした現場の言葉で判断基準が共有されていれば、新人も周囲へ相談しやすくなります。判断基準で重要なのは、金額ではなく、モノを扱う現場の言葉になっていることです。
「売上5億円を目指す」「毎月4,000万円を達成する」だけでは、現場は実感を持ちにくいのです。現場で扱っているのは、1個、1枚、1本だからです。
だからこそ、生産管理3本柱の基礎知識が重要になります。
品質、リードタイム、工数を、現場が同じ言葉で理解できる状態にする。その判断基準を、右腕役や現場キーパーソンが日常業務で伝える。
4階層指示導線で、社長の判断基準を現場へ伝え、異常を上へ上げる。その積み重ねで、チーム力は高まっていくのです。
判断基準には、もうひとつ大事な役割があります。人に「考える時間を与えること」です。
判断基準が曖昧な現場では、人は感情で反応しやすくなります。焦りや不安、プレッシャーがあるからです。
しかし、判断基準が共有されていれば、「この状況ならどう考えるべきか」と、一度立ち止まれます。これは訓練で磨ける力です。
年商5億円を超えた企業では、増えていく物量を力づくだけではさばき切れません。だからこそ、この企業でも今、チーム力を生かす仕事のやり方へ変わる段階に来ています。
この転換に失敗すると、現場は疲弊します。経営者が現場へ張り付き続けなければ回らない状態から抜け出せません。
この企業は、次の成長段階へ進もうとしています。個力依存からチーム力重視へ変えられるかどうか。それへの挑戦が、今後の成長余地を決めるのです。
●脊髄反射から前頭葉思考へ変えられるか
判断基準がある現場では、人の行動が変わります。困った時に、一人で抱え込まなくなるのです。
一方、個力依存の現場では、「自分で何とかしなければならない」という空気が強くなります。判断基準が曖昧な職場では、特に、新人ほど孤独になりやすいのです。
・間違えたくない。
・怒られたくない。
・迷惑をかけたくない。
そうした不安が強くなると、人は考える前に反応します。焦りや恐れ、プレッシャーがそうした行動を引き起こすのです。その結果、下記になります。
・問題を隠す。
・聞くことをためらう。
・一人で抱え込む。
・自己保身を優先する。
これは意志の弱さではありません。脊髄反射的な行動様式です。脊髄反射とは、不安やプレッシャーに対して、考える前に反応してしまうことです。
・感じて、直ぐに動く。
これが脊髄反射です。判断基準が曖昧な現場ほど、この行動が起きやすくなります。
一方、判断基準が共有されている現場では、人は一度立ち止まって考えやすくなります。
・この場合は、どう判断するべきか。
・チームとして何を優先するべきか。
このように考えるのが前頭葉思考です。
・感じて、止まって、考えて、動く。
脊髄反射では感じたら、即動いてしまいます。一方、前頭葉思考は、一旦止まって、考えるのです。「止まって、考える」有無の違いは大きい。
しかも、前頭葉思考になると、思考の構成が変わるのです。
脊髄反射における思考の構成は「個人の損得」ですが、前頭葉思考では「チームの最善」で考えます。
・困ったら相談する。
・遅れている工程を助ける。
・不具合を隠さず上げる。
・自分一人で完結させず、周囲を巻き込む。
こうした行動は精神論で生まれるわけではありません。判断基準があるからこそ、生まれるのです。
・QCDの判断基準を共有する。
・右腕役や現場キーパーソンが、その判断基準を現場へ伝える。
・4階層指示導線で、異常を上へ上げる。
こうした積み重ねが、個力依存の現場を、チーム力を生かす現場へ変えていきます。
年商5億円水準までは、個力中心でも到達できます。しかし、その先を目指すなら、少数精鋭の現場では、効率で仕事をさばかなければなりません。
その時に必要になるのが、チーム力です。
・ベクトルを揃える判断基準。
・応受援性や相互補完性。
・脊髄反射ではなく、前頭葉で考えられる現場。
それらは自然発生しません。経営者が判断基準を示し、右腕役へ教え、日々伝え、浸透させ続けた結果として生まれるのです。
そして、これら訓練で鍛えられます。弊社がカイゼンをプロジェクトで進める理由です。
経営者が市場へ向かい、将来の仕事を積み上げるためにも、現場側では、個力だけに頼らない仕事のやり方へ変わる必要があります。思考の単位を、「個人の損得」から「チームの最善」へ変えられるか。その環境を整えられるか。
年商5億円を超えて成長できる企業と、伸び悩む企業。その違いは、設備の差だけではありません。
「個人の損得」で動く現場なのか。
「チームの最善」で動ける現場なのか。
その違いを生む判断基準を、経営者が現場へ浸透させているか。そこに、次の成長段階へ進めるかどうかの分岐点があるのです。
次は貴社が挑戦する番です!
年商5億円超の成長には、個力依存を脱し、判断基準でチーム力を訓練することが不可欠だ