「工場実装コンサルティング」—儲かる工場経営を目指して—第517話 なぜ、計画を立てられない現場では社長が将来に専念できないのか?
●支援先の経営者と雑談しているときの言葉
「ウチのメンバーは計画を立てないというか、立てられないのです。」
支援先の経営者と雑談しているときに、そんな言葉が出てきました。
この企業とは3年前に出会い、それからのご縁です。生産管理3本柱の基礎を伝えながら、売上回復へ向けて仕組みを整備してきました。
ここ数年の間にベテランが抜け、そのしわ寄せは中堅従業員に及んでいます。結果として、知らず知らずのうちに管理者層のワーカー業務負荷が増えていきました。
組立系企業では、従業員間で助け合うことを自然にやれる現場があります。この企業の現場も同じです。相互に補完し合う雰囲気があります。小数精鋭だから、管理者層も求められれば現場に入ります。
それ自体、悪いことではありません。むしろ、従業員間連携を実践できている現場です。ベテランが抜け、スキルが高くない従業員同士で乗り越えざるを得ない局面では、管理者層がワーカー業務を補完することも必要です。
ただし、この「助け合える現場」には、社長が見落としやすい落とし穴があります。
知らず知らずのうちに、この現場の管理者層ワーカー業務割合が半分以上になっていました。現場は回っているように見えます。しかし、管理者層は考える時間を失っていたのです。
お客様の納期遵守だけに焦点を当てていると、こうした状態に至る懸念があります。現場の判断基準が「力業でもなんでも、とにかく受注案件をこなせばいい」だからです。
目前の仕事をさばくことはできても、生産性を高めるカイゼンをチームでこなした経験は十分ではありません。個々でちょっとした工夫はできても、工程間で連携して大きな成果につながるカイゼンの実績はないのです。
ベテラン勢が複数人いた数年前は、ベテランが核となって複雑な案件をさばいていました。しかし、その核が抜けた今、新たな仕事のやり方を現場で構築しなければ、徐々に下がる売上高を回復できません。この経営者の悩みは、そこにありました。
この3年間の基礎の繰り返し指導で、プロジェクトメンバーのベクトルは揃いつつあります。外部からの支援があれば、チームで新たな仕組みをつくり、それを実務で回すこともできるようになってきました。
しかし、社長はメンバーにもっと高みを目指してもらいたいのです。外部からの支援を受けて動く段階から、メンバーが自ら計画を立て、それを実践する段階へ進んでもらいたい。経営者として当然の願いです。
計画を立てる力は、プロジェクトを通じて訓練することのひとつです。
では、計画表を使って、右腕役や現場キーパーソンに、何を考えさせればいいのでしょうか。ここに、経営者が右腕役を指導する要点があります。
●計画表で訓練するのは、時間と対応の考え方である
計画表の役割は、予定を書き込むだけではありません。当初の見込みどおりに進んでいるかどうかを確認することです。そこには、時間の観点があります。
時間は貴重な経営資源です。一度失った時間は取り戻せません。だから計画が必要です。
お客様から示される納期は、受動的な納期です。現場はそれを守るために動きます。一方で、カイゼンの納期は、自ら判断して決める能動的な納期です。ここに、生産業務との違いがあります。
日々の生産は、やらなければすぐに困ります。納期遅れになれば、お客様に迷惑をかけることになるのです。
しかし、カイゼンは違います。もともと、カイゼンは無かったのです。今やらなくても、今日の出荷はなんとかなるかもしれません。
やればよくなると分かっていても、目の前では特別に困らない。だから、カイゼンは放置されやすいのです。貴社でも「忙しくてできない」という言葉が出てきませんか?
ここで管理者層の役割が問われます。右腕役の登場です。現場に任せておくだけでは、目前の仕事が優先されます。
必要なのは、計画どおりカイゼンを進めるために、チームの動きを促す役割です。時間という資源の重要性を踏まえ、やるべきことを先送りさせない役割です。
ところが、その右腕役や管理者層までワーカー業務に入ってしまうと、お客様の納期は守れても、カイゼンの時間は失われます。
「気がつけば、今年ももう半年過ぎてしまった」という感覚は、時間を計画へ投入できなかった現れです。長い目で見れば、売上回復の機会を逃すことになります。
計画表は時間を管理する道具です。
経営者は計画表を通じて、右腕役に、時間をどこへ投入するのかを教えます。これは、「社長の判断基準」を現場の日常業務へ定着させる工場実装の一部です。
もうひとつ、計画表には対応の観点があります。目標達成のために何をやるのか。どこまでを当面の対応とし、どこから最終的な対応とするのか。ここを考えさせることも大事です。
対応策は、最初から完璧を求めるものではありません。
モノづくりでも、いきなり量産には入りません。試作品から始めます。品質クレームへの対策もそうです。まず暫定策があり、その後に恒久策があります。
左右を誤って取り付ける不具合なら、まずは注意喚起やルールで乗り切ります。これが暫定策です。最終的には、左右を取り違えたら取り付けられないポカヨケを設けます。これが恒久策です。
計画を立てるとは、単に日付を入れることではありません。時間という資源を投入し、段階を踏んだ対応策を考えることです。
右腕役や現場キーパーソンに計画を立ててもらう目的は、時間の使い方と対応の組み立て方を、実務で訓練することにあります。
●計画を立てられる右腕役が、社長を将来の仕事へ向かわせる
計画表をつくるにも、スキルが必要です。
日付を入れるだけなら誰でもできます。しかし、貴重な時間をどこへ投入するのか。暫定策から恒久策へ、どの順番で進めるのか。そこには、社長の判断基準が表れます。
社長が工場を離れ、市場で将来の仕事をつくるには、右腕役がこの判断基準を理解していなければなりません。
計画表を見れば、右腕役が何を優先し、何を後回しにし、どこまで考えているのかが分かります。つまり、計画表は、社長の構想が現場の日常業務へ届いているかを確かめる道具でもあるのです。
そして、計画を立てさせるだけでは足りません。欠かせないのは、フォローと評価です。経営者が忘れてはならないことです。
フォローと評価がない計画は、採点しないテストのようなものです。やらされた側は、本気になれません。「やってもやらなくてもいいのだな」と受け止めます。
これでは、いつまでたっても計画を立てて動けるチームは育たないのです。
右腕役に計画を立てるスキルを教えること。そして、立てた計画をフォローし、評価すること。ここまでやって初めて、社長の判断基準は現場に定着していきます。
計画を立てられる現場は、自然には生まれません。社長が将来に専念できるかどうかは、現場で計画を立て、やり切る人材を育てられるかにかかっています。
次は貴社が挑戦する番です!
計画を立てやり切る右腕役を育て、社長は市場で将来の仕事づくりに専念する体制をつくる