「工場実装コンサルティング」—儲かる工場経営を目指して—第521話 なぜ、売上が伸びる社長ほど、設備投資の返済計画が必要なのか?
●半年前にプロジェクトを始めた部品メーカー経営者の言葉
「やっとモヤモヤ感が晴れました。」
半年前にプロジェクトをスタートさせた部品メーカー経営者の言葉です。
3年前から積極的な設備投資を始めています。新たな工法を加えることで、新たな分野の部品で引き合いを増やそうとしているのです。
標的は既存のお客様と新規のお客様です。従来に比べて商機が広がります。この経営者の見立てが優れていたこともあり、お客様からの問い合わせは増えています。
さらに設備投資を進めたいと考えるのは自然な流れでした。そのためには、外部からの資金支援がこれまで以上に必要です。
この経営者には、売上を右肩上がりで伸ばせる見通しがあります。今のプロジェクトを通じて、リードタイムを短縮させる手応えもあるのです。
しかし、なにかモヤモヤした感じを抱いていました。
資金力に限りがある中小製造企業が、次の成長へ踏み出すには、外部の力を借りる場面が出てきます。その資金を活用し、次世代へ向けた設備投資を進める時です。
ただし、借りたお金は、約束した期間で返済しなければなりません。そして、返済の途中で、さらに別の設備投資のために融資を求めることもあります。
そのとき、融資する側が見ているのは、社長の意欲だけではありません。
新しい設備で売上をどう伸ばすのか。そこから生まれるお金で、借入金をどのように返していくのか。その見通しを説明できるかどうかです。
社長自身が確信を持てない説明では、相手も安心できません。この経営者のモヤモヤの原因は、成長の見通しはあっても、返済の見通しまで整理できていなかったことにありました。
そこで、設備投資によって事業を成長させる際、何を明らかにすれば資金面のリスクを抑えられるのか、その基本をお伝えしました。何を見ればよいのかを理解できたら、モヤモヤが消えます。その実感から、冒頭の言葉が出てきたのです。
外部から資金を調達するとき、融資する側に信頼感と安心感を抱いてもらえる見通しを、社長は示せているでしょうか。
●お金の流れに対する知識の重要性が高まる
この経営者がモヤモヤしていたのは、意欲が足りなかったからでも、数字が苦手だったからでもありません。
お金の流れをどう捉えればよいのか、その基本を教えもらう機会がなかったからです。キャッシュフロー計算書の存在は知っていても、難しそうだと感じ、そのままにしていました。
工場経営で管理すべきことは、大きく二つあります。
・一つは、今期が赤字か黒字かという損益
これは損益計算書で分かります。
・もう一つは、現金が足りているかというお金の流れ
利益が出ていても、その金額がそのまま手元に残るわけではありません。売上が伸びる途中では、材料費や外注費、人件費などが先に出ていきます。黒字でも、支払いに必要な現金が足りなくなることがあるのです。
だから、損益とお金の流れは別々に見なければなりません。
ただ、細かな計算をする必要はありません。必要なデータを集め、計算する作業は専門家に任せればよいのです。ただし、社長は数字の意味を読めなければなりません。
設備投資に関連するお金の流れで、まず、見るべきなのは、最終的に手元に残るお金です。そのお金が、借入金の返済、リース料の支払い、設備代金の現金支出を賄う原資となります。
そして、その原資を生み出すのは、新しい設備によって上乗せされる売上高と、そこから得られる付加価値額です。
整理すると、融資する側へ示すべき見通しは二つです。
・売上をどれだけ上乗せできるのか。
・そして、その結果として生まれる現金で、返済、支払い、支出をどう賄うのか。
この二つがつながっていれば、説明には確信が生まれます。販売計画と返済計画。
数字の根拠を自分の言葉で説明できるからです。確信に基づいた説明は、相手の信頼感と安心感につながります。そこに、資金調達の土台があります。
実務では、現状を基準のゼロとして、新しい設備投資によって増える部分だけを見ます。投資額を年間の上乗せ現金で割れば、何年で投資額を回収できるかが分かります。
投資額÷年間上乗せ現金=回収年数
例えば、返済期間が5年で、回収年数が3年なら、返済を終える前に投資額を回収できる見通しがあります。前倒しで現金を生み出せる分だけ、安全余裕のある投資です。
逆に、返済期間より回収年数が長ければ、返済が先行し、資金繰りへの負担は重くなります。資金力のない中手製造企業では、成長のために支出した現金は、それから得られる現金で返すのが理想です。
設備投資は、実行して終わりではありません。計画した売上高と現金が本当に積み上がっているかを、設備ごとにフォローし、評価する必要があります。金利のある世界では、返済に何年かかるのかという見方が、これまで以上に大事になります。
まず社長が、お金の流れの大枠を知ることです。
難しいことを難しく理解する必要はありません。必要な知識があれば、設備投資を勘や経験だけでなく、基礎に沿って考えられるようになります。
生産管理3本柱の基礎も、正しく考えるために欠かせないのです。正しく考えるためには知識が欠かせません。
●社長はお金の流れの大枠を理解する
社長に求められるのは、キャッシュフロー計算書を細部まで読み解くことではありません。
設備投資で、どれだけ売上高と付加価値額を上乗せするのか。そこから、どれだけの現金を生み出すのか。その現金で、借入金の返済、リース料、設備代金の支払いをどう賄うのか。
この大枠を理解し、自社の判断基準にすることです。全て実学でなけれなりません。細かい数字のフォローは専門家にまかせ、社長は数値で意志結果をするのです。
必要なデータの収集や計算は、専門家に任せます。ただし、出てきた数字を読むのは社長です。知識がなければ判断できません。
勘、コツ、経験は大切です。しかし、それだけでは右腕役へ判断の根拠を伝えられません。基礎に裏付けられた判断基準があれば、社長は確信を持って説明できます。右腕役も、何を見て、どこで判断するのかを理解できます。
右腕役と現場キーパーソンには、設備を導入した後にこそ仕事が始まると伝えます。
計画した売上高は積み上がっているか。付加価値額は増えているか。上乗せ現金は生まれているか。返済期間より早く投資額を回収できるペースを維持しているか。
設備ごとにフォローと評価を続けます。計画との差があれば、原因を捉え、次の手を打つのです。設備投資をやりっぱなしにしない。ここまで実践して、工場実装が進みます。
この社長は、お金の流れの大枠を理解しました。
まず、現状のリース料、長期未払金、借入金の規模を確認できたのです。次に、支払いと返済のペースを確認しました。さらに、売上を右肩上がりで伸ばす見通しから、手にできる現金を見えるようにしようとしています。
「担当者に返済コンセプトを説明したあと、定期的にその進捗を説明すれば安心してもらえますね。」
社長からは、もう一つ構想が出てきました。返済を支える付加価値額の積み上がるペースを、「日々是決算」で見えるようにすることです。
何を確認するのかが分かった。何を説明するのかも分かった。あとは、右腕役と一緒に計画に沿って、実践します。
積極的な社長は意思決定も行動も早いです。成長モードで積極的に売上を伸ばすなら、外部から資金も考えられます。返済をしっかり見えるようにすれば、協力も得やすくなるのです。
分からないからと、モヤモヤ感を放置していないでしょうか。社長は、赤字か黒字かだけでなく、お金の流れまで計画できているでしょうか。
赤字黒字だけでは足りない。設備投資は、お金の流れまで計画してこそ確かな成長に活きる