「工場実装コンサルティング」—儲かる工場経営を目指して—第524話 なぜ、生産管理システムを入れても現場の混乱は収まらないのか?

●30人規模板金加工企業のプロジェクト会議でリーダーから出された発言

 

「生産管理システムを導入するから上手くいくはずです。」

先日、30人規模板金加工企業でのプロジェクト会議でプロジェクトリーダーから出された発言です。

 

この企業は今、受注拡大の好機を迎えています。国策関連業務で売上増の機会が目前にあるのです。社長は積極的に新たな業務を獲得しようと意気込んでいます。

しかし、懸念事項もあるのです。現時点でも納期遵守のために現場は混乱しています。この状況で新たな業務の上乗せをしても現場の混乱を助長するだけかもしれません。

まずは足場を固めて現状での混乱を最小化することが必要です。混乱の原因から対応策を考えていきます。

 

現場の混乱とは、単に目の前の仕事が多い状態を指すのではありません。材料、仕掛品、完成品が予定どおりに流れず、工程ごとに滞留や待ちが生じることも「混乱」です。

現場には、モノの流れと情報の流れがあります。

どの案件を、いつ、どの工程へ流すのか。その情報が先に整っていなければ、モノは予定どおりに流れません。モノの流れは、情報の流れによってコントロールされるのです。

 

この企業では、仕様上の留意点を現場へ伝える役割を社長が担っています。加えて、小日程計画と中日程計画の仕組みがなく、日程計画も一元管理されていません。

そのため、納期から逆算して仕事を後ろから埋め込み、目の前の案件をその都度調整しながら、何とか出荷へつないでいる状態です。表面上は納期を守れていても、モノの流れが安定しているわけではありません。

この状態のまま新しい案件を上乗せすれば、これまで現場の頑張りで隠れていた弱さが、一気に表へ出ます。

 

人時生産性を高める具体策のひとつが、「詰めて、空けて、取り込む」です。ただし、詰める前のモノの流れが乱れていれば、仕事を詰めるほど混乱は大きくなります。まず、今ある仕事を滞りなく流せる状態にする。これが、受注拡大へ進む前の足場固めです。

 

生産管理システムは、情報を一元管理する便利な道具です。しかし、導入すれば現場の流れまで自動的に整うわけではありません。

問題は、システムの有無ではありません。システムへ何を載せ、誰がどの判断基準で日程を動かすのかです。

 

「生産管理システムを導入するから上手くいくはずです。」

この言葉の半分は正しいのですが、中小の強みを発揮させる観点で、もう半分の役割は抜けています。

 

 

 

 

 

●生産管理システムでは埋められない日程計画の隙間

 

日程計画には、中日程計画と小日程計画があります。役割は同じではありません。

・中日程計画は、受注した仕事量と能力を比べ、先々の負荷を見えるようにするもの

・小日程計画は、個々の案件をどの工程へ、いつ流すのかを示す作業指示

 

能力と負荷を見ずに、作業指示だけを並べても、現場全体の流れは整いません。

受注量が現場能力の七割、八割に収まっていれば、割り込み案件が入っても調整する余地があります。生産管理システムで案件と日程を一元管理する効果も実感しやすいでしょう。

しかし、成長を目指す中小製造企業の現場は、いつもそのような状態ではありません。

 

付加価値額を積み上げる局面では、能力の九割を超える仕事を抱え、時には能力いっぱい、あるいは能力を上回る負荷を引き受けなければならないことがあります。

付加価値額の積み上げを目的に売上を取り込もうとすれば、避けにくい局面です。そして、そこへ、突発案件や特急案件も加わります。

中小製造企業の強みは、小回り性です。一度決めた計画を守ることにこだわり、割り込み案件を断り続けていては、大手企業にはない強みを活かせません。

情報の一元管理さえできていれば、「情報の流れ」がうまくいくわけではなく、現場での「調整」を入れながら、割り込み案件に対応してこそ、中小は柔軟性を強みとするのです。

 

当然のことですが、割り込み案件には、やり方があります。闇雲にやるわけではありません。中日程計画で能力と負荷の関係を確認し、小日程計画を組み替えます。そのうえで、どの案件を先に流すのか、どの工程へ応援を出すのかを判断しなければなりません。

 

 

 

能力が負荷を上回る「能力>負荷」の状態なら、日程を組み替えるだけで対応できることもあります。問題は、「能力<負荷」の状態です。

この状態で、割り込み案件を入れれば、ある工程では仕事が詰まり、別の工程では、待ちが生じます。変更した日程を入力しただけでは、詰まった工程を誰が助けるのか、遅れる案件を誰が調整するのかは決まりません。

 

なぜ、この案件を優先するのか。どの工程の負荷が高まるのか。誰がどこを補完するのか。こうした判断基準を、社長、右腕役、現場キーパーソンが共有していることが求められます。

 

生産管理システムは、決めた内容を見えるようにし、共有する便利な道具です。

しかし、能力以上の仕事をどう引き受けるのか、計画変更のたびに現場をどう動かすのかまでは決めてくれません。

 

そこでは、右腕役が全体最適の視点で優先順位を決め、現場キーパーソンが工程を越えた応援や仕事の組み替えを実行します。相互補完や相互扶助は、精神論ではありません。

能力を超えた負荷を処理するための、工場経営そのものです。社長が不在でも、自然と互いにそうやれる現場がお客様から選ばれることになります。

 

日程計画の問題は、データを一元管理できていないことだけではありません。

能力を超える負荷に直面したとき、誰が判断し、誰が調整し、現場が協力するのか。その判断基準と体制がなければ、システムを入れても、現場の混乱が画面上に表示されるだけです。

 

 

 

 

 

●能力を超える負荷へ対応する判断基準を社長が示す

 

成長を目指す中小製造企業では、能力を上回る仕事を引き受けなければならない局面があります。割り込み案件や特急案件も増えます。

だからこそ社長は、「能力<負荷」の状態で、どの仕事を優先し、どこまで受注し、どの工程へ応援を出すのかを決めなければなりません。

 

生産管理システムは、その判断を代行してくれないのです。

社長が示した判断基準をもとに、右腕役が中日程計画と小日程計画を組み替えます。現場キーパーソンは、工程を越えた応援や仕事の入れ替えを進めます。

 

現場の小回り性は、作業者一人ひとりの頑張りだけで生まれるものではありません。

右腕役と現場キーパーソンが、誰に相談し、どの工程を助け、日程をどう組み替えるのかを日常業務の中で訓練します。そうして初めて、急な変化へ対応できる現場になります。

 

 

 

ただし、現場へ協力を求めるだけでは続きません。

能力以上の負荷へ対応すれば、残業や休日出勤が必要になることもあります。社長は、今なぜ踏ん張るのかを説明しなければなりません。

同時に、段取り短縮や工程間の連携、生産性向上によって、いつまでに負荷を軽くするのか。その見通しも示します。

出口が見えれば、現場は今の負荷を成長への一歩として受け止められます。見通しがなければ、協力はやがて疲弊へ変わります。

 

工場実装とは、こうした社長の判断基準を、右腕役と現場キーパーソンが日程変更のたびに使える状態へすることです。

システムを入れた後も、社長が毎回日程を直し、優先順位を決め、作業指示しているなら、工場を任せられたとは言えません。社長が市場で将来の仕事をつくれていないのです。

 

受注拡大の好機を、本当の成長へ変えられるか。問われるのは、仕事を取れるかどうかだけではありません。社長がいなくても、現場が能力を超える負荷を調整できるかどうかです。

この企業も生産管理システムをきちんと生かす要点を理解しました。これから、能力を超える負荷を調整するための判断基準を議論します。

 

受注拡大を成長へ変える鍵はシステムではなく、能力超過時の現場を動かす判断基準にある