「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第69話 「フェイス ツー フェイス」は工場経営の本質
現場へ想いを浸透させていますか?
20人規模の金属加工業経営者との話です。
その経営者は2代目であり、創業者である父親から事業を引き継ぎました。
その経営者は、前社長である父親の路線を引き継ぎつつも、変化に対応するために新たな取り組みも始めています。
従業員の中には、前社長時代からのベテラン従業員もいて、今、改めて、ベテラン従業員も含めて全社のベクトル合わせをしたいとのこと。
個人的な技能や技術へ依存している現場なので、ともすると、各自が我が道を行くという状況になってしまっているようです。
特に、ベテラン従業員は、自分のやり方に誇りを持っており、仕事のやり方を変えるのが難しいと経営者自身が感じています。
新たな取り組みも軌道にのり、収益もそこそこであけれども、事業のステージをさらに上げるには全社の一体感を高める必要がある。
その経営者は、このように考えていました。
なぜ、こうしたことを問題と認識するに至ったのかと尋ねると、直面している問題を2つあげました。
・従業員との対話が大切であると考えているが、なかなか時間が取れない。
・ベテラン従業員のなかには、やり方を変えるのに耳を傾けないものもいる。
問題解決には、結局、フェイス ツー フェイスしかないですよねということをお話しました。
この経営者との話は、立ち話程度で終わりましたが、この「フェイス ツー フェイス」は工場経営の本質です。
前向きの組織文化をつくるのに欠かせない社長の仕事なので、立ち話程度と言えども、そうお伝えしたわけです。
工場経営の本質は、自分の想いを、他人を通じて実現することにあります。
私も長年、製造現場で過ごしてきたので、多くのベテラン従業員と接してきました。
ベテラン従業員は、ある意味で職人であり、自分の仕事に誇りをもっている人達です。
そうしたベテラン従業員に、組織の方針に沿って動いてもらうことは、現場の強みを最大化するの絶対に欠かせません。
モノづくりは科学であり、工学ですから、原則的にあらゆることを、客観的に数値化できると考えています。
技術開発、製品開発、改善活動など、モノづくりにかかわるあらゆる活動を通じて至った信念です。
しかし、その一方で、ベテランの勘と経験に助けられたことも度々でした。
製造現場で起きていることは、複合的であることが多いです。
複雑な現象を分解し、要素技術まで分解ができたら、科学的、工学的なアプローチが可能となります。
しかし、その前段階で、複合的な現象を分析するとき、ベテランの知見は欠かせませんでした。
その現場特有の現象や、過去のできごとなどが、手掛かりになることも少なくないからです。
こうした知見を現場で大いに生かしてもらった経験を重ねてきたので、ベテラン従業員の勘と経験、技能は、現場の強みを強化するうえで大切や役割を果たすと考えています。
だからこそ、職人と言われるベテラン従業員には、敬意を持って接してきましたし、常に、これからどうしたいかを伝えてきました。
こうしたベテラン従業員は確かにある意味で頑固です。
頑固で、こだわりがあるから故、職人的な技能を獲得したとも言えます。
したがって、こちらの態度に曖昧なところがあると見抜かれます。
若手の技術者として現場で仕事をしていたころ、いい加減な対応をして、ベテラン従業員に思いっきり叱られたことが何度かありました。
学生時代のいい加減さが抜けきらない頃のことです。
そうして、職人と言われるベテラン従業員は、本気であるが故に頑固で、気難しいところがあるということに気づきました。
意見の相違でぶつかることもありましたが、こちらが真剣に向かえば応えてくれるのが、職人であり、ベテラン従業員です。
そして、これから、どうしたいのかということを常に伝えることで、考え方に共感してもらいました。
誰でも職場を良くしたいと考えています。
特にベテラン従業員にはそうした思いを持つ人が多かったです。
真剣に立ち向かうには、「フェイス ツー フェイス」の対応しかありません。
こちら側の真剣さを伝えるのに、それ以外の方法があるでしょうか?
当然のことですが、これは、別にベテラン従業員との意思疎通に限った話ではないです。
現場改革を進めようとするとき、新たな取り組みを開始して義業のステージアップを図ろうとするとき、などなど。
繰り返しますが、工場経営の本質は自分の想いを、他人を通じて実現することにあります。
他人を動かしてこそ、継続的に儲かる工場経営ができるのです。
経営者の想いを現場の隅々にまで浸透させようとするならば、「フェイス ツー フェイス」の優先度を上げなければなりません。
経営者は忙しいです。
忙しいですが、経営者の想いを現場へ浸透させること以上に大切な仕事はあるでしょうか?
確かに、目の前の受注のためにトップ営業をすることも大切でしょう。
しかし、新たなやり方を考え、こうした役割を分担することはできます。
いつもいつも、新たな案件を受注するのに社長でなければできないという体制の方が問題です。
一方、経営者の想いを浸透させるための「フェイス ツー フェイス」。
これは経営者以外に代替不可能であるということに気づかなければなりません。
ですから、優先度の高い、本質的な仕事をするのに、従来業務の何かを捨てるのです。
その業務を社長の右腕となる人材か現場の仕事へ移管させます。
経営者の想いが浸透してこそ、モノづくりの現場はベクトル揃い、強みが生かされます。
そのために、経営者は、ベテラン従業員にも、丁寧に、繰り返し語るのです。
経営者の想いは必ず浸透します。
と言うか、浸透するまで、経営者はベテラン従業員へ、繰り返し、繰り返し、繰り返し、腹を割って、丁寧に語るのです。
そうして、ベテラン従業員も、経営者の真剣な想いに対して、腑に落ち、腹落ちし、理解して、共感します。
こうした想いは、大手から中小の現場へ転職し、見ず知らずの現場の管理者を任されたとき、至ったものです。
仕事で成果を出すために、いろいろな手を打ちましたが、管理者として最も手ごたえのあった対応が、この「フェイス ツー フェイス」でした。
先の経営者には、こうしたことを伝えたくて、「フェイス ツー フェイス」しかないですねとお話しした次第です。
ちなみに、昨今の大手製造企業の不祥事は、経営者の想いが現場へ浸透していないことが本質的な原因であると考えています。
「フェイス ツー フェイス」の優先度を高める仕事のやり方を構築しませんか?