「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第93話 5Sを現場の大掃除で終わらせない

貴社では5Sが単なる大掃除で終わっていませんか?

 

弊社がコンサルティングを始めるにあたっては、まず、経営者に5年先、10年先の見通しを文字に書き出していただいています。現場のやる気を引き出せるか否かは、経営者の将来へ向けた見通し次第と考えるからです。

 

そして、現場の状況によってですが、それと前後してやることがあります。

5Sの中の「整理」です。

 

5Sの目的は現場力の向上です。

整理、整頓、清掃、清潔、躾。

 

改善活動の切り口は多種多様ですが、その中のひとつ、5Sは基本の中の基本となります。皆さんの現場でも5Sの観点で改善活動を進めているところがあるのではないでしょうか。

 

 

 

さて、現場に対して5Sをどのように具体化して指示していますか?

これら5つの言葉は特殊用語ではなく日常的に使われている言葉です。現場も5Sに対するイメージは抱きやすく、個々にイメージを持っています。ただし、それが経営者の想いと一致しているわけではないことには注意を要します。

 

だからこそ、5Sを構成する各言葉に経営者の想いを込め、それを現場へ伝える必要があるのです。このあたりに経営者のこだわりが表れます。

 

現場の意識改革を強く願っているある経営者は3Sの徹底を標榜しています。また、別の経営者は2Sを掲げて、現在の苦しい状況を現場一体となって乗り越えようとしています。

整理、整頓、清掃、清潔、躾。

現場に働きかける経営者は、5つの項目に現場独自の意味づけをして、その想いを現場へ伝え、浸透させようとしています。

 

 

 

経営者のこだわりがない5Sが単なる”大掃除”に終わってしまった事例を何度も目にしました。理解しやすい日常的な言葉なので、逆に、その狙いを明確に現場へ提示することが必要です。

5年先、10年先を見通した将来構想を現場へ伝えることは現場のやる気を引き出すきっかけとなります。

単に人が集まっても、共有される目標や目的がなければ目線の向きはバラバラです。いわゆるカラスの集まり、”烏合の衆”状態です。現場個々の能力が発揮されていない、極めてもったいない状態です。

 

まずは、経営者が見通しを知らせ、伝え、浸透させ、一体化を図ります。経営者が個別面談等で直接に働きかけている現場リーダーや各工程のキーパーソンはこの時点でかなり前向きになっているのではないでしょうか。

 

一方、現場作業者ひとりひとりに、そうした”熱気”が生まれているとはかぎりません。経営者の想いに直接触れる機会が少ない現場は懐疑的です。

「以前にも、こうした新たな取り組みを始めることが伝えられたけれど、知らないうちに終わったよね。」

どうせ今回も同じことになると考えている作業者が大部分です。

いろいろな場面で「2:8の法則」が語られますが、この場合も経験的に当てはまります。現場の中には、上司から伝えられることで、伝えられたことを十分に消化し、活動のエネルギーに変えて頑張ってくれる作業者が、少数ですが、いるものです。この割合がおおよそ2割。

作業者が100人いれば、20人。

50人では、10人。

10人だったら1人か2人。

こんなものです。

 

ですから、生産性向上活動などの現場改革へ新たに挑もうというのならば、経営者の”本気度”を現場の隅々に浸透させる必要があります。何らかの形で”本気度”を伝えるのです。

そこで、着目しているのが、5Sのうちの「整理」というわけです。

 

 

 

弊社では「整理」を「捨てること」とお伝えしています。

改善活動、ECRSの法則がありますが、最初のEは「なくせないか」であり、これと同じです。難しいことを実践するわけではありません。不要と判断できるものを全員で見つけて、それを”廃棄”するだけです。

そのやり方は”赤札作戦”など解説書で説明されていますから、詳細はそちらへ譲りますが、要するに不要品を捨てるのです。この活動ではそこから得られる成果物がカギとなります。

 

では、不要品を捨てて得られる成果物とは何でしょうか?

空間、スペースです。新たに生まれた空間を生かして経営者の本気度を現場へ示します。

 

空間がたっぷりあって、スペースをいくらでも確保できる中小の現場は稀です。ですから、そうした現場に新たな空間を確保し、そこへ活動に関連したホワイトボードや棚、机などを置きます。

そこを現場改革の拠点とするのです。現場改革、意識改革、構造改革ののろしを現場から上げます。こうして、見える形で経営者の本気度を示すのです。

 

 

 

ここで実践される”整理”は、現場改革の一歩目であり、具体的な成果物は活動の拠点です。いわゆる掃除とは観点も目線も異なります。

現場で5Sを展開するときに欠かせないのは活動の意味付けであり、具体化です。経営者のやり方によっては、このように5Sも経営問題を解決させる道具になります。

経営者のこだわりなしの5S、往々にして”大掃除”に終わるのです。

経営問題を解決する手段として5Sを活用する仕組みをつくりませんか?