「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第94話 設備投資で生産性向上と人材育成を実現させる
設備投資を設備のリプレイスと考えていませんか?
「結局、社長が新たに入れる設備の仕様を全て決定したようです。」
現場リーダーが説明をしてくれました。
数年前、仕事で関係した100人規模の中小金属加工メーカーでの話です。
その金属加工メーカーはプレスと曲げの2つの塑性加工技術を柱に事業を展開しています。
その現場リーダーはプレスを担当しているのですが、複数台あるプレス機のうちの1台が老朽化で故障気味でした。
現場の稼働率は常に90%を超えており、余力はあまりありません。
したがって、その老朽化設備への対応が課題となっています。
社内では、対応方法についていろいろと議論があったようですが、最終的にはその設備を除却し、新たな設備投資をすることになりました。
方針決定後、その現場リーダーは新たな設備投資に向けて準備を進めていたようです。
新規購入にせよ、中古購入にせよ、数千万円水準の設備投資となります。
現場リーダ-には、有効な設備投資にして生産性を上げたいとの想いがありました。
新たに導入するならどのような設備を入れるべきか、性能面や使い勝手の面、設備の大きさ等について自分なりに望ましい姿を描いていました。
現場リーダーには、熟知している現行設備対比の視点があります。
メモ書きを見せてもらいましたが、現場での気付きを単語や文章にしていました。
こうした現場の意見を集約して設備投資を進めれば必ずや効果的な投資になるだろうと、現場リーダーのメモを見て感じた次第ですが・・・・・、そうなりませんでした。
現場考えていたアイデア抜きに機種が決定されたようです。
設備価格優先で設備の購入先が選定され、仕様が決定されました。
そこで、現場リーダーから出てきたのが最初の言葉です。
設備投資では、設備価格優先という投資方針も当然あります。
しかし、そうであっても、現場に検討させるべきことがあります。
モノづくりは技術で戦っています。
そして、その技術を使いこなすのは現場でありそれは日々どんどん進化していくものです。
儲かる工場経営では、設備投資を飛躍の機会と考えます。
「単なる設備の更新」という観点はありません。
先の企業の経営者は設備投資の役割を設備の入れ替え程度に考えていたようです。。
従来と同じ仕様の設備を入れればいいだろうとの考えが強かったと推察されます。
コスト面ではそれでいいのかもしれません。
しかしながら、設備投資が果たしてくれる役割を考えると、設備投資をコスト面のみから考えるのはもったいないのです。
設備投資でしかできないことがあります。
設備投資では高い水準の生産性向上をねらうべきです。
改善活動では達成できないことをやってこそ、設備投資の意義があります。
繰り返しますが、私たちは技術で戦う世界で仕事をしています。
固有技術にしても管理技術にしても日進月歩です。
技術の”現状維持”は相対的に”後退”を意味します。
ですから、機会があればコア技術の深耕を全社一丸となってやらねばなりません。
それを抜きにして、現場が豊かに成長することはありませんし、あまつさえ、生き残ることすら難しい状況に直面する懸念もあります。
技術の世界での戦いとは、”進歩”や”変化”との戦いだからです。
儲かる工場経営では、”リプレイス”という発想はありません。
現場では、生き残りのために、固有技術と管理技術、それぞれの観点からコア技術を高めことが求められます。
そして、独自のノウハウが生かされた設備投資を実現するには、現場で”考える”訓練を重ねる必要もあるでしょう。
思いつきで考えを列記しても、それが知恵に昇華されるわけでもなく、ノウハウにまで高めるには相互理解のもとで議論をする練習も必要です。
つまり設備投資は技術を高め、生産性向上を実現する機会であると同時に現場が”考える”絶好の機会でもあります。
現場も”考え続ける”姿勢が重要ではないでしょうか。
”考え続ける”姿勢は考える力を高めます。
考える力は生まれ持っての能力ではなく、後天的に訓練によって培われる能力です。
現場のエンジニア時代に何度か設備投資計画を立てたことがあります。
そのとき上司から繰り返し、繰り返し、言われたことは、「その設備投資が生む”新たな”価値について考え抜いたか?」です。
設備の老朽化対策で設備更新をすることが目的ですと答えようものなら、そんな設備投資はやめてしまえ~っと計画書には一瞥もくれず、計画のやり直しを命じられました。
設備投資はめったにできない貴重で大きなイベントなのです。
考え続けることの大切さを上司から教えられました。
設備投資は考える機会を与えてくれます。
先の現場においても、設備投資はモノづくりの総合力を高める良い機会でした。
そして、そこの現場リーダーは積極的に自ら”考えて”いたのです。
しかし、残念ながらそのアイデアを形にすることができませんでした。
自ら考えたことが設備という形になって具現化され、その効果を自ら検証できれば、その実績は現場にとっての大きな財産です。
そうして現場独自のノウハウは蓄積されていきます。
また、自分たちで考えた仕様が反映された設備ですから、愛着も沸くことでしょう。
現場のやる気が呼び起こされます。
なにせ、”俺の”、”私の”設備ですから。
設備投資は現場にとってインベーションでもあります。
改善活動が漸次的改革の積み上げで生産性を高めるのに対して、イノベーションは革新的な要素を取り込んで一気に生産性を高めるものだからです。
設備投資では改善では実現できない水準で生産性を高められます。
ですから、現場にとって、現場改革、意識改革、構造改革を進める機会とも言えます。
”変える”を実感できます。
生産活動は標準に従った作業で構成されています。
ですから、大きく”変える”機会は多くありません。
それ故に設備投資は絶対に成功させたいのです。
「なるほど、現場の全員で一体感を持って、知恵を出し合あって考えた設備の効果は大きいものなのだなぁ。」
「生産性向上の程度が日々の改善とは桁が違う!!」
現場はこうした成功体験を積めます。
改善された作業環境や高まった生産性を通じて、現場は組織やチームワークで仕事をする意義を”体感”できるのです。
百聞は一見・・・、一感にしかず。
設備投資で「生産性向上」と「人材育成」を実現できます。
現場改革、意識改革、構造改革のポテンシャルを持つ点に注目して下さい。
設備投資を全社あげて知恵を絞る機会とする仕組みをつくりませんか?