「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第134話 値引き

現場は値引きの根拠を知っていますか?

「値引きに頼った新規顧客開拓を変えなければなりません。」

自社製品を持つ40人規模、中小メーカー経営者の言葉です。

 

下請け型のビジネスモデルでは、顧客が製品仕様決定権をもっています。また、自社製品型のビジネスモデルでは、製品仕様決定権を持っているのは自社です。自社に決定権があるのでその分、製品開発の自由度が高くなります。

自由度が高い分だけオリジナリィティを発揮やすく、「ウチの製品」感覚が芽生えやすいです。仕事のやりがいを感じられやすいのですが、収益的には少々、心配なところがあります。その新製品が市場から選ばれるか否かはわからないということです。

一方、下請け型では、そのリスクは全くありません。顧客の指定した通りの製品をつくるわけですから、それは当然に売れます。業務上のリスクと仕事のやりがいはある意味、一対なのかもしれません。

 

ただ、下請け型であろうが、自社製品型であろうが、両者のビジネスで共通することがあります。それは、新規顧客は自ら開拓しなければならないということです。

新たな受注候補先や新しい自社製品販売先は、自分で見つけなければなりません。そして、新たな顧客から選んでもらわないと売上につながらないのです。

新たな顧客から選んでもらうために貴社ではどんな働きかけをしていますか?

 

働きかけのひとつに価格があります。働きかけの道具として果たす「価格」の役割は小さくありません。先の経営者も価格を働きかけの道具としています。

業界価格があるのでそれよりも安価な価格を提示して、顧客の興味を引き、自社製品を選んでもらおうとしているのです。

業界の衰退を助長するような値引き合戦は避けなければなりませんが、駆け引きとしての値引きは必要となります。

 

ただし、それに依存しているようでは、製造現場のモチベーションは下がるでしょう。

一生けん命、製造活動で汗水を流し、1円、2円単位のコスト削減にも頑張っている作業者が、受注のためとは言え、安易に10円、20円単位で値引きをしてることを知ればどう感じるは言うまでもないことです。

先の経営者はそうした懸念を持っていました。

 

値引きをしている営業担当者に非があると考えているわけではありません。営業には営業の事情があります。

一方で、現場は自分たちの製品がどれだけ儲かっているのか知りたがっているものです。ですから、安易な値引きには抵抗感を感じます。

 

したがって、値引きをするにしても、意図や意思を持って実施したいと考えたのです。

それまで、値引きを決めるにも営業担当者にまかせっきりでした。これからは、製販一体で価格を設定し、管理したい考えています。

 

 

 

 

 

「売上高を積み上げることが仕事であると信じている営業担当者に苦労しています。」

ご指導している企業の現場から、こうした声を聴くことがあります。

 

営業担当者の仕事が売上高を確保することにあるのは間違いありません。なにせ、企業の倒産理由の上位には必ず「販売不振」があるからです。

販売不振で売上が確保できていない状況であるのなら四の五の言っている暇はありません。営業が獲得してくれた案件を丁寧にひとつずつこなしていくのみです。

 

ただし、そうした状況ではなく、ある程度の仕事量はそこそこ確保できている環境下、事業のステージを高めようと考えるなら、従来の仕事のやり方ではいけません。

営業も、売上高ではなく、付加価値額に焦点を当てることが求められます。なぜなら、モノづくりでは、将来投資を含んだ固定費を回収した先に利益が生み出されるからです。

その固定費回収パワーの源が付加価値額にほかなりません。ですから、現場で積み上げたいのは売上高ではなく、付加価値額です。

 

 

 

 

 

モノづくりのステージを高めるのに、付加価値額を積み上げる効率、つまり付加価値額生産性の向上が課題となります。値引きは、とりもなおさず、この固定費を回収するパワーを低下させることになるのです。

そうした認識の下で、値引きルールを製販一体で決めることがこれからの中小モノづくり現場でも求められます。大手のように大掛かりにやらなくても、中手ならではやり方があるはずです。

 

働き方改革などにより、現場へ投入できる経営資源はどんどん制約されます。ですから、儲かる工場経営では、今後、ますます固定費回収パワーの源である付加価値額の規模やその生産性に焦点を当てなければなりません。

こうした状況を踏まえ、営業にも仕事のステージを高めてもらいます。売上高とともに、付加価値額の積み上げにも焦点を当てたいのです。

付加価値額に着目するのは現場だけではありません。製販一体です。値引きのやり方も製販一体で決めます。

 

 

 

 

 

さて、ここから、「値引き」を具体的に、数字で考えてみます。

値引きしながらでも売上高を確保したいと考える営業担当者は、値引きによる収益上の影響を理解しているでしょうか?

 

下記の質問を営業担当者へ投げかけたとき、どんな答えが返ってきますか?

「10%値引きしたとき、値引き前と同じだけの利益を確保するには、どれだけ販売数量を増やす必要があるか?」

 

値引きした分だけの売上高を補填すればいいから、販売数量は10%増やせば・・・・。

このような答えが返ってくるようなら、経営者は営業担当者へもモノづくりで利益を生み出す理屈を教える必要があります。

 

以下、簡単な事例です。

単価100円、@変動費40円の製品Aを作っている工場を仮定します。

単純化のために生産しているのは製品Aのみです。

なお、@は製品1個当たりを意味しています。

この工場の1月当たり固定費は300万円です。

製品Aの1か月当たり販売数を6万個とします。

 

まず、利益の評価です。

@付加価値額60円により、付加価値額計は60円×6万個=360万円。

利益は360万円-300万円=60万円となります。

 

ここで10%値引きの顧客要求がありました。

利益はどれだけ減るでしょうか?

単価90円ですが、@変動費40円は変わらずなので@付加価値額50円に減ります。

付加価値額は17%減です。

したがって、付加価値額計は50円×6万個=300万円。

利益は300万円-300万円=0万円です。

利益は60万円→0万円、つまりトントンとなりました。

利益は100%減です。

 

さらに、値引き前と同じだけの利益を得るのに必要な販売数量を評価します。

値引き後、@付加価値額50円です。

値引き前の付加価値額計は360万円でした。

したがって、必要な販売数量は360万円÷50円=7.2万個。

当初の6万個よりも、1.2万個多く販売しなければなりません。

販売数量は20%増です。

 

上記の事例の結果をまとめると次になります。

・10%の値引きによって、利益は100%減った。

・そして、値引き前と同じだけの利益を得るには販売数量は20%増にする必要がある。

10%値引きしたら、販売数量は20%増やさないとならないわけです。10%値引きで、販売数量10%増というほど単純ではありません。

 

 

 

 

 

弊社がセミナーやご指導でお伝えしている「固定費」の存在がその背景にあることはご理解いただけると思います。モノづくりで利益を生み出す理屈を製販一体で共有したいです。

経営者の想いが込められた将来投資を含んだ固定費。この固定費が現場の豊かな成長を実現させるエンジンです。削減の対象ではありません。

付加価値額の積み上げによる固定費の回収、現場が月間、年間を通じてやることです。この先で利益が生み出されます。

 

営業部隊にとっての「値引き」は切り札です。戦略的値引きも受注戦略上必要となることがあります。

営業部隊の一撃必殺の切り札となる「値引き」を属人的なやり方に依存していては、儲からなくなるのは火を見るよりも明らかです。

そこで、付加価値額に焦点を当てて、切り札の切り方を決めます。製販一体で決めれば、相互の苦労を数字で理解できるので一体感も醸成されることでしょう。

 

弊社のプログラムでは、その前半で自社製品の適正な価格を検証しますが、それは、儲かる価格設定のやり方に関係するためです。値引きの根拠も見えてきます。是非、値引きという切り札の貴社独自の切り方を製販一体で考えてください。

 

弊社はこれからも挑戦する経営者の後押しをして参ります。

・成長する現場は製販一体で値引きの根拠を理解している。

・現状維持にとどまり、今の仕事のやり方でいいと思い込んでいる現場は値引きを不満に感じる。

値引きという切り札の切り方を明らかにする仕組みをつくりませんか?