「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第136話 製品ハンドリング

現場は製品のハンドリングに気を使っていますか?

「現場の意識を変えて、製品ハンドリングのやり方も変えないといけません。」

社長が掲げた生産性向上の目標値を目指して具体的な活動に取り組み始めた現場リーダーの言葉です。現場活動を本格化させる下準備を昨年から進めてきた現場です。今年に入って、社長の宣言のもと、全社あげての取り組みに着手しました。製販一体です。

 

そうしたなか、先月、新たに若手をスタッフ部門へ採用しました。事業を成長させようと目論んでいる社長としてはスタッフ部門の強化も課題です。多くの中小製造企業が採用活動に苦戦しているなか、やる気のある若手を採用できたのは幸いでした。

 

その若手が従事していた前職はメーカーではなく、小売り関係の仕事であったことを踏まえ、現場での実習を実施しました。製造現場を知ってもらうためです。実習後、感想を聞いたところ、その若手から次のようなコメントがあったようです。

「製品の扱い方が少々、”雑な”感じがしました。」

現場で多くの作業者と一緒に仕事をしての感想です。

 

この企業は産業財を扱っています。そして、求められる機能のうち、外観要因は比較的緩やかです。この現場の名誉のために一言、申し添えておきますが、概ね平均的な品質水準を維持している現場と言えます。

品質問題が全くないわけではありませんが、顧客の信頼を勝ち得るだけの水準を持っている現場です。

 

先の若手のコメントは、あくまで”前職で経験した現場”、つまり小売り店舗との比較。その若手は、顧客となる消費者と直接に対応する経験もあります。

前職と比べて、製品のハンドリングに違和感を感じたというのです。現場の雰囲気、産業財の扱い方がそれまでの職場とは全く違っていました。

 

こうした話を耳にして、そのリーダーも感じるところがあったようです。必要以上に求める必要はないものの、製品の扱い方に改善の余地があるとそのリーダーも考えていました。

今後、より一層、複雑な仕様が求められることが予想され、そうした変化へしっかり対応するにも現場で品質意識を高める必要があります。

製品ハンドリングのやり方を変える。。。。。これは、顧客視点の強化であり、顧客に使っていただく「商品・製品」を扱っているという気持ちを持ってもらいたいということです。

 

そのリーダーは、「製品をお金だと思えば扱い方も変わりますよね。」とも語っています。前職との違いを素直に的確にコメントした若手もたいしたものですが、こうした若手のコメントから自職場でやらねばならないことに思いを馳せられる現場リーダーもたいしたものです。

さすが、経営者の右腕役を担っているだけのことがあります。

 

 

 

 

 

現場には3つの流れがあります。モノのながれ、お金のながれ、情報の流れ。

原材料、仕掛り、完成品、これらのモノの”価値”に焦点を当てれば、現場で加工される対象物は全て「お金」に変換できるのです。

付加価値の低い原材料に加工を加えて、付加価値を高めます。加工を加えるに従って、「お金」が積み上がっていくのです。

 

弊社のプログラムでは、付加価値額積み上げの見える化を指導の一環としています。現場も自分が造っている製品が儲かっているか、儲かっていないか、知りたがっているからです。

興味のあることを「客観化」して、わかりやすく伝え、目標を示せば、現場は頑張ります。製品毎の付加価値額を明らかにすれば、日々の頑張りで積み上げる付加価値額、いわゆる儲けが見えるのです。

 

先のリーダーが語っていた、「製品をお金だと思えば扱い方も変わりますよね。」というのは、ある意味で的を射ています。大事に扱うモノの代表としての「お金」と、流れとしての「お金」について言っていました。

既に弊社プログラムを経験済のリーダーなので、現場の3つの流れを理解していたこともあります。現場にもお金の感覚、利益視点を持たせることが儲かる工場経営では欠かせないことです。

 

 

 

 

給料にしても、賞与にしても、その決定は社長です。したがって、作業者は、社長から給料や賞与をもらっていると言う感覚を持つかもしれません。これは間違いではなく、雇用されている側からすれば当然のことです。

ただ、現場も、もう一段高い目線を持てれば、顧客に選んでもらって始めて給料や賞与を手にできるという考えに至ります。顧客からお金をいただくという顧客視点です。経営者の思考に近くなります。

 

思考が近くなるということは、現場を相手にした仕事がしやすくなるということです。改善活動で成果を金額換算することがしばしばですが、これも経営者の思考に近づける意味があります。

自分が扱っているモノが、お金とどう結びついているかを知れば、それが、製品の見方を変えるきっかけとなるのです。

 

儲かる現場の原理原則は、固定費vs付加価値額ですから、日々のモノづくりを通じてやっているのは固定費を回収する付加価値額の積み上げです。

付加価値額を積み上げるために、売上高を積み上げ、そのために生産数量を積み上げています。そして、製品の生産数量を積み上げられるのも、顧客に選ばれたからであり、商売のスタートは全て顧客です。

 

この経営者感覚を現場にも持たせることが、変化に柔軟に対応し続ける現場に不可欠な資質を育みます。現場で扱っているモノの中に、顧客の顔が浮かび、お金との結び付き方が見えてくれば、顧客視点、利益視点への意識改革が進むのです。

結果として、現場の製品ハンドリングも変わります。顧客が現場のマテハン業務を目にしたとき、どんな感想を持つかを想像できるようになるからです。

 

現場で製品の扱い方を変えたかったら、その行為に焦点を当てるのではなく、その後ろにある本質を理解させます。

積み上げているのは単なるモノ、つまり物体ではなく、お金、付加価値額です。こうしたお金を生み出す源泉が、当然ですが、製品なのです。

自らの手で価値を生み出してるのが製造業の本質です。製品の取り扱いに気を使うのは当然のことだとの思考回路を持たせたいのです。

 

・成長する現場は、顧客の顔を浮かべながら製品を扱う。

・今の仕事のやり方でいいと思い込んでいる現場は、無頓着に製品を扱う。

製造業の本質を理解させ、製品の扱い方を変える仕組みをつくりませんか?