「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第142話 右腕役

右腕役が育っていますか?

「社長と現場をつなぐ役割をやらなければと考えています。」

40人規模、中小金属加工メーカー、現場リーダーの言葉です。

 

その現場で、今年から、生産性向上の取り組みに着手しました。半年程度の準備期間を経てからのスタートです。社長から2019年度の目標値が提示されています。

その実現に向けて、スタッフ、リーダー、作業者が一体となっているのが場の雰囲気として感じられる現場です。現場を引っ張っている、先のリーダーが発する言葉や日頃の行動が、周囲へ良い影響を及ぼしています。

 

そのリーダーは準備期間で習得した新たなスキルを使い、現場をうまく導いていました。「現場リーダーの役割を十分に果たしていて、社長も喜んでいましたよ。」とねぎらいの言葉をかけるとともに、そのリーダーへ質問を投げかけました。

「成果を出すために、リーダーとして心にとめていることって何かありますか?」

その問いへの答えが冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

弊社のご指導で目指すのは収益力向上による、利益拡大です。儲かる価格を製販一体で決め、付加価値額を積み上げる仕組みを作り上げます。そうして、ある戦略を掲げます。

将来投資を含めた固定費を”健全に”成長させる将来投資型固定費戦略です。現場を豊かに成長させる目的で、利益を拡大させながら固定費を健全に成長させる手法をご指導しています。

 

ただし、手法を成功させる”当然の”前提条件があります。現場のベクトルがそろっていることです。ベクトルがそろっていないと、利益拡大も絵に描いた餅に終わってしまいます。

アスリートは心技体そろったときに最高のパフォーマンスを発揮しますが、それと同じく、現場も心技体、そろっていないとなりません。

 

皆さんも、組織として、チームとして、成果を出す際には、手法に加えて、”何か”が必要であると感じているはずです。

工場経営の本質が、他人を通じて経営者の想いを実現させることにある以上、その”他人”の気持ちをおもんばからなければなりません。その気にさせる策を講じる必要があるのです。

 

経営者の想いを現場の隅々にまで浸透させて、「共感」を引きだすこと、これが将来投資型固定費戦略の初手となります。経営者から現場へ一方通行の指示を出すだけの仕事のやり方では付加価値額を持続的に積み上げることは難しいからです。

 

技術の進化はとどまることを知りません。変化の振幅も速さも、そのスケールが大きくなりつつあるモノづくりの世界で生き残るには、社長のみならず、現場全員、オールスターキャストで知恵を絞る必要があります。

全員野球、全員経営です。情報が双方向に流れている必要があります。ですから、共感を引き出す仕掛けがかかせません。

 

経営者が現場へ働きかけ、仕掛けて引き出せるのが「共感」です。現場は、経営者が考えるほどには、経営者の頭の中を理解していません。黙っていては得られないのも「共感」です。

そこで、成長する現場で重要な役割を担う人がいます。弊社では”経営者の右腕役”と称しています。この右腕役の最大の仕事が社長の想いを現場に浸透させること、つまり社長と現場をつなぐことなのです。

 

現場は、経営者が考えるほどには、経営者の頭の中が見えていません。一方で自分の職場の将来を気にしています。このまま今の企業で働き続けて自分は成長するのだろうか?幸せな人生を送れるのだろうか?納得感を得たいと考えているのです。

今は情報が溢れているので、従業員は、常に外部と比較しながら、働きがいを探っています。こうした現場から共感を引き出し、やる気につなげたいのです。

 

想いを現場へ浸透させるべく、経営者自身が現場へ熱く語ることが何よりも大切ですが、それだけでは足りません。浸透させるには、「継続」、「繰り返し」、「日常的」がキーワードです。だからと言って、経営者が毎日、現場に張り付いているわけにはいきません。

そこで、経営者の想いを理解した右腕役が、「経営者に代わって」、現場へ想いを語り続けるのです。日常的に接している現場リーダーが繰り返し語る言葉を通して、現場は経営者の想いを理解します。

 

 

 

 

 

右腕役を育成するのに、経営者は自分のコピーを育てる必要があります。ただし、このような表現では誤解する方がいるかもしれませんね。

経営者のデッドコピーをやりたいのではありません。コピーしたいのは思考回路です。

 

経営者は忙しいです。ですから、経営者の持っている技術力や営業力と同じ力量を身に着けた「代わりの人材」が育つと経営者は楽になります。経営者に集中していた仕事を分散できるからです。しかし、これでは問題の解決にはなりません。

その人材に仕事が集中することになり、忙しさが社長からその人材へ移るだけです。その人材がいなくなれば、また仕事が社長へ戻ってきます。

 

右腕役に持ってもらいたいのは経営者と同じ「思考回路」です。右腕役に期待するのは、社長の仕事を”代行”することではなく、社長の「思考回路」を現場へ浸透させることなのです。s思考回路は判断基準とも言い換えられます。

それが経営者の想いを現場のすみずみにまで浸透させることにつながります。

 

「顧客の困りごとに、可能な限り対応するのが我々の使命!!」という社是を掲げている企業の経営者であるなら、飛び込みの受注を可能な限り受けたいと考えるでしょう。

なぜなら、経営者には、飛び込みでお願いをしなければならない状況に陥った顧客の顔が浮かぶからです。なんとか生産計画にねじこめないかを考えます。

それは付加価値額の積み上げになるとともに、顧客にも喜ばれるのです。少々無理をして仕事をやり切きることで現場の筋力もアップします。顧客、現場、経営者、三方良しです。

 

それを、突発で新たな案件を入れるのは無理だ!と知恵も絞らず言下に否定するようなリーダーでは論外です。経営者の判断基準とは真逆であり、現場事情を優先させた仕事のやり方をしています。

もそも社是を理解せず、その企業で働いていることに違和感を感じなければなりません。(そうした人材をリーダーに指名したことも問題ではありますが。。。)

経営者の思考回路を持つ右腕役の育成を怠ると、ベテランなど、影響力が大きい人物のコピーが現場で出来上がってしまいます。これでは共感を引き出す以前の問題です。

 

経営者の思考回路を持つ右腕役は、品質トラブル、労災など、緊急時でも的確な判断が可能です。経営者が不在でも、経営者の考え方に沿って対応します。右腕役と共有すべきは思考回路であり、課題をどう実現させるかは、任せればいいのです。

そうすることで、社長の想いを体現してみようという若手の活躍も期待されます。やり方は任せられているので自律性を発揮できるからです。デッドコピーではなく、思考回路のコピーが重要だという所以です。

 

冒頭のコメントを発した現場リーダーはそのことを理解しています。定期ミーティングや日頃の声かけで、社長の意向を現場へ地道に伝えていました。「社長と現場のつなぎ役」は経営者の思考回路を持った人材にしかできない仕事です。

「最近、社長の仕事に専念できるようになりました。」経営者が部下の成長を実感しています。これから、収益上の成果を刈り取ることになりますが、どの程度、付加価値額を積み上げるのか楽しみな現場です。

 

・成長する現場は、経営者の思考回路をコピーする。

・今の仕事のやり方でいいと思い込んでいる現場は、ベテランの言動をコピーする。

右腕役を育成する仕組みをつくりませんか?